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45 バッセル邸

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 タウンハウスに到着すると、ウィルは旅の疲れを癒す暇もなく、直ぐに私の実家宛の手紙を認めた。
『予定よりも少し早く王都に到着したので、ご都合の良い時にご挨拶に伺いたい』という内容だ。

「王都に着いたら直ぐに知らせますと約束していたんだ」

 爽やかにそう言ったウィルは、普段から私よりも頻繁に私の家族と手紙のやり取りをしているらしい。

 父からの返信もその日の内に届けられた。
『いつでも構わないが、二人とも疲れているだろうから明日は休んで、明後日にでも来たらどうか』との事だった。


 私達は父の提案通り、翌々日の午後にバッセル伯爵家へと赴いた。


「お帰りなさいませ、姉上、義兄上!」

 満面の笑みで真っ先に出迎えてくれたのは、弟のマーヴィンだ。
 その後ろから、父もひょっこり顔を出した。

「やあ、義父上。お久し振りです。お世話になります。
 貴方がマーヴィン殿ですね。お会いできて光栄です」

 手を差し伸べたウィルと弟が、上機嫌でガッチリと握手を交わしている。
 マーヴィンは、私の婚約を反対していたはずなのだが、いつの間に二人は仲良くなっていたのだろうか?
 疑問を抱きながらウィルを見上げると、私の心中を察したのか、彼は得意気に笑った。

「マーヴィン殿とも手紙で頻繁に遣り取りしていたんだよ」

「義兄上は、週に一度は姉上の近況を報告してくれていました。
 僕に届いた義兄上の手紙は、姉上への愛に溢れていて、姉上を安心してお任せ出来るのは義兄上しかいないと……」

「……そ、そう、なの?」

 私の預かり知らぬ内に二人が交流を深めていたのには驚いたが、夫と弟が円満な関係を築いてくれていたのは有難い事である。

 しかし……、愛に溢れているって何だ?
 しかも週に一度のペースでは、書くことなんて直ぐに尽きてしまうだろう。
 どんな報告なのかとても気になるけれど、知るのが少し怖いような気もする。

「義兄上、滞在中に一度手合わせをお願いできますか?」

 困惑気味の私を他所に、マーヴィンはウィルに親し気に声を掛ける。

「ちょっとマーヴィン!ウィルは疲れているのよ?無理をさせないでよね」

「大丈夫だよ、フェリシア。
 どうせ俺も、鍛錬は毎日続けなければならないのだから」

「では、是非、明日の朝の鍛錬はご一緒に」




 今夜はバッセル家に一泊させて貰う予定だったのだが……。
 客室に案内された私達は、顔を見合わせて固まった。

「ええっと……、これは……困ったな」

「何故一緒の部屋なのかしら?」

 戸惑う私達に、案内をしてくれた侍女はキョトンとした表情で言った。

「え?
 お嬢様とコールドウェル様は、既にご結婚なさっていますよね?」

「うん、入籍は済ませたんだけどね」

「フェリシアの希望で初夜は結婚式までお預けなんだよ。
 だから、俺は絶賛禁欲中だ」

「それは存じ上げなくてっ…!
 申し訳ありませんっっ!!」

 ウィルのとても直接的な説明に顔を真っ赤にした侍女は、慌てて深々と頭を下げた。
 おそらく父か弟の指示なのだろうから彼女は全く悪くないのに、なんだか申し訳ない気持ちになる。

「新婚旅行と伺ったので、私どもはてっきり……」

 侍女の漏らした呟きの意味がわからなかった私は、ウィルを見上げて首を傾げた。
 彼はちょっと気まずそうに頬を掻く。

「あーーー……、実は…、新婚旅行というのは、本来は子作り期間という意味もあるらしいんだ」

「………コヅクリキカン?」

 予想もしなかったパワーワードをぶつけられた私は、思わずウィルに胡乱な視線を向ける。

「……いや、違うっ!そういう下心があって旅に誘ったわけじゃないぞ!?
 フェリシアとの約束はちゃんと守るつもりだ!
 ただ、普段は仕事で忙しいから、もっと君と一緒に過ごす時間を増やしたいなぁとか、あわよくば少しくらいはイチャイチャしたいなぁとか思っただけでだな……モガッ!?」

「わ、分かりましたからっ!もう結構ですっ」

 焦って言い訳を始めたウィルの話が、どんどん恥ずかしい方向へと向かって行きそうになったので、慌てた私は両手で彼の口を塞いだ。
 彼は私の手首をやんわり掴んで口元から離し……

「フェリシア、敬語」

「今、気にするべき所はそこじゃないっっ!!」
 
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