上 下
2 / 56

2 優しさだと思ってた

しおりを挟む
 お父様に似て吊り目がちで無表情な私は、子供の頃から他人に誤解をされてしまう事が多かった。
 そんな私が心無い言葉を浴びせられて傷付く度に、いつも影で慰めてくれたのはジェフリーだった。

 私はそんな彼を好きになった。
 優しい人だと思っていた。
 そして、彼も私を愛してくれているのだと信じていた。

 でも、今目の前で、私を嘲る王女殿下を大事そうにエスコートしている彼を見ていたら、とてもそんな風には思えなくて───。

 確かに彼は、いつも私を慰めてくれていたけれど、では私を誤解して酷い言葉を投げ付けた人達から、私を庇ってくれただろうか?
 誤解が解ける様に、尽力してくれただろうか?

 ───答えは否だ。

 彼はいつでもその場では困った様な笑みを浮かべているだけ。
 事後になって、傷付いた私を慰めるだけ。
 それって本当に優しさだろうか?
 ただの優柔不断な八方美人ではないか?


 私がジェフリーとの関係を思い返していると、再び王女殿下の愛らしい声が響いた。

「わたくしのお気に入りのジェフリーに、貴女の様な令嬢は相応しく無いと思うの」

「クラリス様、それはちょっと……」

 王女殿下の踏み込んだ発言に、ジェフリーは少し慌てた様子を見せ始めたけれど、ずっと黙って見ていた癖に今更どうしようと言うのだろうか。

 焦る彼とは正反対に、私の心は急速に冷えて行く。

「そうですか。
 では、婚約解消致しましょう。
 詳細は後日、父の方からお話しさせて頂きますわ」

 私は微笑みながらそう告げた。
 まあ、思う様に表情筋が仕事をしてくれていたかは不明だけど。
 実際はかなり無表情だったかもしれない。

「あら、思ったよりも物分かりが良いのね」

 ニヤリと笑った王女殿下に対して、私の婚約者…、いや、元婚約者は見る見る顔色が悪くなっていく。

「えっ!?ちょっと、待って、フェリシア。
 冗談だろう?」

「いいえ、本気ですわ。
 こんな大切な事を、冗談で宣言する訳が無いではないですか。
 婚約解消の件を直ぐに父に報告しなくてはなりませんので、本日はこれにて失礼致します。
 さようなら、王女殿下、ファーガソン侯爵令息」

 私がジェフリーを家名で呼んだことに驚いたのか、彼は目を見張り、次の瞬間、その顔が悲し気に歪んだ。
 そんな顔されても。

 簡易的な礼を取った私は二人に背を向けて、颯爽と会場を後にする。
 背中に好奇の視線がいくつも刺さるけれど、そんな事に動じたりしない。

 恋心が壊れてしまった私に迷いは無かった。

 もしかすると、私は以前から彼の態度を疑問に感じていたのかもしれない。
 だけど見ない振りをしていたのだ。

 愚かな私は、本当に彼の事が好きだったから。
 彼の本心を知るのが、怖かったから───。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】婚約者が恋に落ちたので、私は・・・

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
ベアトリスは婚約者アルトゥールが恋に落ちる瞬間を見てしまった。 彼は恋心を隠したまま私と結婚するのかしら? だからベアトリスは自ら身を引くことを決意した。 --- カスティーリャ国、アンゴラ国は過去、ヨーロッパに実在した国名ですが、この物語では名前だけ拝借しています。 12話で完結します。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

処理中です...