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2 優しさだと思ってた
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お父様に似て吊り目がちで無表情な私は、子供の頃から他人に誤解をされてしまう事が多かった。
そんな私が心無い言葉を浴びせられて傷付く度に、いつも影で慰めてくれたのはジェフリーだった。
私はそんな彼を好きになった。
優しい人だと思っていた。
そして、彼も私を愛してくれているのだと信じていた。
でも、今目の前で、私を嘲る王女殿下を大事そうにエスコートしている彼を見ていたら、とてもそんな風には思えなくて───。
確かに彼は、いつも私を慰めてくれていたけれど、では私を誤解して酷い言葉を投げ付けた人達から、私を庇ってくれただろうか?
誤解が解ける様に、尽力してくれただろうか?
───答えは否だ。
彼はいつでもその場では困った様な笑みを浮かべているだけ。
事後になって、傷付いた私を慰めるだけ。
それって本当に優しさだろうか?
ただの優柔不断な八方美人ではないか?
私がジェフリーとの関係を思い返していると、再び王女殿下の愛らしい声が響いた。
「わたくしのお気に入りのジェフリーに、貴女の様な令嬢は相応しく無いと思うの」
「クラリス様、それはちょっと……」
王女殿下の踏み込んだ発言に、ジェフリーは少し慌てた様子を見せ始めたけれど、ずっと黙って見ていた癖に今更どうしようと言うのだろうか。
焦る彼とは正反対に、私の心は急速に冷えて行く。
「そうですか。
では、婚約解消致しましょう。
詳細は後日、父の方からお話しさせて頂きますわ」
私は微笑みながらそう告げた。
まあ、思う様に表情筋が仕事をしてくれていたかは不明だけど。
実際はかなり無表情だったかもしれない。
「あら、思ったよりも物分かりが良いのね」
ニヤリと笑った王女殿下に対して、私の婚約者…、いや、元婚約者は見る見る顔色が悪くなっていく。
「えっ!?ちょっと、待って、フェリシア。
冗談だろう?」
「いいえ、本気ですわ。
こんな大切な事を、冗談で宣言する訳が無いではないですか。
婚約解消の件を直ぐに父に報告しなくてはなりませんので、本日はこれにて失礼致します。
さようなら、王女殿下、ファーガソン侯爵令息」
私がジェフリーを家名で呼んだことに驚いたのか、彼は目を見張り、次の瞬間、その顔が悲し気に歪んだ。
そんな顔されても。
簡易的な礼を取った私は二人に背を向けて、颯爽と会場を後にする。
背中に好奇の視線がいくつも刺さるけれど、そんな事に動じたりしない。
恋心が壊れてしまった私に迷いは無かった。
もしかすると、私は以前から彼の態度を疑問に感じていたのかもしれない。
だけど見ない振りをしていたのだ。
愚かな私は、本当に彼の事が好きだったから。
彼の本心を知るのが、怖かったから───。
そんな私が心無い言葉を浴びせられて傷付く度に、いつも影で慰めてくれたのはジェフリーだった。
私はそんな彼を好きになった。
優しい人だと思っていた。
そして、彼も私を愛してくれているのだと信じていた。
でも、今目の前で、私を嘲る王女殿下を大事そうにエスコートしている彼を見ていたら、とてもそんな風には思えなくて───。
確かに彼は、いつも私を慰めてくれていたけれど、では私を誤解して酷い言葉を投げ付けた人達から、私を庇ってくれただろうか?
誤解が解ける様に、尽力してくれただろうか?
───答えは否だ。
彼はいつでもその場では困った様な笑みを浮かべているだけ。
事後になって、傷付いた私を慰めるだけ。
それって本当に優しさだろうか?
ただの優柔不断な八方美人ではないか?
私がジェフリーとの関係を思い返していると、再び王女殿下の愛らしい声が響いた。
「わたくしのお気に入りのジェフリーに、貴女の様な令嬢は相応しく無いと思うの」
「クラリス様、それはちょっと……」
王女殿下の踏み込んだ発言に、ジェフリーは少し慌てた様子を見せ始めたけれど、ずっと黙って見ていた癖に今更どうしようと言うのだろうか。
焦る彼とは正反対に、私の心は急速に冷えて行く。
「そうですか。
では、婚約解消致しましょう。
詳細は後日、父の方からお話しさせて頂きますわ」
私は微笑みながらそう告げた。
まあ、思う様に表情筋が仕事をしてくれていたかは不明だけど。
実際はかなり無表情だったかもしれない。
「あら、思ったよりも物分かりが良いのね」
ニヤリと笑った王女殿下に対して、私の婚約者…、いや、元婚約者は見る見る顔色が悪くなっていく。
「えっ!?ちょっと、待って、フェリシア。
冗談だろう?」
「いいえ、本気ですわ。
こんな大切な事を、冗談で宣言する訳が無いではないですか。
婚約解消の件を直ぐに父に報告しなくてはなりませんので、本日はこれにて失礼致します。
さようなら、王女殿下、ファーガソン侯爵令息」
私がジェフリーを家名で呼んだことに驚いたのか、彼は目を見張り、次の瞬間、その顔が悲し気に歪んだ。
そんな顔されても。
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背中に好奇の視線がいくつも刺さるけれど、そんな事に動じたりしない。
恋心が壊れてしまった私に迷いは無かった。
もしかすると、私は以前から彼の態度を疑問に感じていたのかもしれない。
だけど見ない振りをしていたのだ。
愚かな私は、本当に彼の事が好きだったから。
彼の本心を知るのが、怖かったから───。
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