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24 素直になろう
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「ルシアン様、そろそろ婚約者候補のご令嬢がいらっしゃるお時間です」
例によって、まだ正式に婚約をしてくれない我が主は、執務室で書類仕事と戦っている。
間もなく、婚約者候補のご令嬢とのお茶会の時間なのだが、一向に手を止めようとはしない。
「え~!?もうそんな時間?
・・・もうちょっとで終わるから、ちょっと待ってて貰ってよ」
「そんな事ばかりしていると、その内愛想を尽かされますよ」
「急いで終わらせるから!」
丁度その時、ご令嬢の到着を執事が知らせに来た。
ルシアン様が『行け』と私に身振りで指示をする。
また面倒な仕事を押し付けられてしまった。
何か特別な報酬でも無ければ割に合わない。
今度、高級な菓子でも強請ってやろうと心に決めて、私は玄関へと急いだ。
「ルシアン様は、前のご予定が長引いておりまして。
申し訳ありませんが、庭園の方で少々お待ち頂けますでしょうか?」
「・・・・・・わかりましたわ」
微かに不満を滲ませた表情で頷いた侯爵家のご令嬢。
庭園に設置された椅子に腰掛けた彼女の目の前に、ハーブティーをそっと差し出す。
敵意を帯びた瞳で、私がお茶を入れる様子を眺めていた彼女は、意を決したように口を開いた。
「貴女、いつもルシアン様と一緒にいるわよね?
どういう関係なの?」
以前から彼女の私を見る目は気になっていたが、これ程迄に直球で聞かれるとは思わなかった。
「ただの秘書ですよ」
「そう・・・・・・。
貴女と恋仲でないのなら、何故、ルシアン様はなかなか正式な婚約者をお決めにならないのかしら?
私、そんなに魅力が無い?
なんだか、もう自信がなくなってしまって・・・」
彼女の疑問は尤もだ。
現在の候補者は彼女一人ではあるが、こんな中途半端な立場に居るのはきっと不安だろう。
「・・・ご本人に確認したわけではありませんが、私の印象では、ルシアン様は軽い女性不信なのでは無いかと思われます。
焦らず、時間をかけて、お互いを知っていく事をお勧めします」
おそらくルシアン様は、一度は心を惹かれていた筈のメアリーの本性を見て嫌悪感を抱き、女性を見る目が慎重になっているのだろうと私は思っている。
だから、なかなか婚約者を決められずに居るのだ。
でも、彼は裏表の少ないこのご令嬢の事を結構気に入っている様に見えるんだよな・・・。
「貴女は、ルシアン様をお慕いしている訳じゃ無いの?」
「誤解をさせてしまったようで、申し訳ありません。
私の婚約者は、ルシアン様の護衛騎士です。
来月には挙式を予定しております」
不安に揺れる目を真っ直ぐ見詰めてそう言うと、勘違いした事が恥ずかしかったのか、彼女の頬が見る見るうちに赤くなった。
「あの・・・、ごめんなさい・・・。
私、勘違いしていて、今まで嫌な態度だったわよね」
「気にしておりません」
私が首を左右に振ると、彼女は人懐っこい笑みを見せた。
「ねぇ、婚約者の彼の何処が好きなの?」
「え・・・っと・・・」
私が言い淀んでいると、背後から楽しそうな声が割り込んだ。
「それは私も知りたいですね。
私の記憶が確かならば、アビーは一度も私を好きだと言ってくれた事が無いので」
タイミング良く(悪くか?)書類を片付け終えたルシアン様と共にグレッグがやって来たのだ。
「えっ?一度も?
政略結婚・・・とかじゃ無さそうよね?」
「それは流石に酷くないか?」
ルシアン様と侯爵令嬢が、信じられないといった表情で私を責めた。
「ほら、皆さんそう仰っているではないですか。
さあ、教えて下さい、アビー。
私の何処が好きですか?」
期待に満ちた視線を三方向から浴びている。
なんか、デジャヴ感が凄い。
コレは言わないと収まらないパターンの奴だ。
「・・・ぶ」
「えっ?何ですか?」
「・・・全部。
毒舌な所も、実は優しい所も、頼りになる所も、その綺麗な顔も、全部、好きよ!
それに、側に居るだけで安心できる人なんて、グレッグしかいないの!」
やけくそになって叫んだ私を、グレッグは目を丸くして見ていた。
「・・・・・・ちょっと待って。
ヤバい。
思った以上に嬉しいんだけど」
口元を片手で覆って目を逸らす彼は、呟く様にそう言った。
ニヤニヤと面白がって私達を見ているルシアン様を、私は真っ赤に染まった顔でキッと睨みつける。
「私も素直になったのですから、今度はルシアン様の番ですからねっ!
お二人のお邪魔になるから行きましょう、グレッグ!」
侯爵令嬢が頬を染めてルシアン様を見た。
「えっ?俺?
アビゲイル?
ちょっと待っ・・・・・・!」
慌てて呼び止めるルシアン様の声を無視して、グレッグの背中を押して邸内に戻る。
主を未来の婚約者と二人きりにしてあげた。
そろそろ彼も腹を括ればいいのだ。
例によって、まだ正式に婚約をしてくれない我が主は、執務室で書類仕事と戦っている。
間もなく、婚約者候補のご令嬢とのお茶会の時間なのだが、一向に手を止めようとはしない。
「え~!?もうそんな時間?
・・・もうちょっとで終わるから、ちょっと待ってて貰ってよ」
「そんな事ばかりしていると、その内愛想を尽かされますよ」
「急いで終わらせるから!」
丁度その時、ご令嬢の到着を執事が知らせに来た。
ルシアン様が『行け』と私に身振りで指示をする。
また面倒な仕事を押し付けられてしまった。
何か特別な報酬でも無ければ割に合わない。
今度、高級な菓子でも強請ってやろうと心に決めて、私は玄関へと急いだ。
「ルシアン様は、前のご予定が長引いておりまして。
申し訳ありませんが、庭園の方で少々お待ち頂けますでしょうか?」
「・・・・・・わかりましたわ」
微かに不満を滲ませた表情で頷いた侯爵家のご令嬢。
庭園に設置された椅子に腰掛けた彼女の目の前に、ハーブティーをそっと差し出す。
敵意を帯びた瞳で、私がお茶を入れる様子を眺めていた彼女は、意を決したように口を開いた。
「貴女、いつもルシアン様と一緒にいるわよね?
どういう関係なの?」
以前から彼女の私を見る目は気になっていたが、これ程迄に直球で聞かれるとは思わなかった。
「ただの秘書ですよ」
「そう・・・・・・。
貴女と恋仲でないのなら、何故、ルシアン様はなかなか正式な婚約者をお決めにならないのかしら?
私、そんなに魅力が無い?
なんだか、もう自信がなくなってしまって・・・」
彼女の疑問は尤もだ。
現在の候補者は彼女一人ではあるが、こんな中途半端な立場に居るのはきっと不安だろう。
「・・・ご本人に確認したわけではありませんが、私の印象では、ルシアン様は軽い女性不信なのでは無いかと思われます。
焦らず、時間をかけて、お互いを知っていく事をお勧めします」
おそらくルシアン様は、一度は心を惹かれていた筈のメアリーの本性を見て嫌悪感を抱き、女性を見る目が慎重になっているのだろうと私は思っている。
だから、なかなか婚約者を決められずに居るのだ。
でも、彼は裏表の少ないこのご令嬢の事を結構気に入っている様に見えるんだよな・・・。
「貴女は、ルシアン様をお慕いしている訳じゃ無いの?」
「誤解をさせてしまったようで、申し訳ありません。
私の婚約者は、ルシアン様の護衛騎士です。
来月には挙式を予定しております」
不安に揺れる目を真っ直ぐ見詰めてそう言うと、勘違いした事が恥ずかしかったのか、彼女の頬が見る見るうちに赤くなった。
「あの・・・、ごめんなさい・・・。
私、勘違いしていて、今まで嫌な態度だったわよね」
「気にしておりません」
私が首を左右に振ると、彼女は人懐っこい笑みを見せた。
「ねぇ、婚約者の彼の何処が好きなの?」
「え・・・っと・・・」
私が言い淀んでいると、背後から楽しそうな声が割り込んだ。
「それは私も知りたいですね。
私の記憶が確かならば、アビーは一度も私を好きだと言ってくれた事が無いので」
タイミング良く(悪くか?)書類を片付け終えたルシアン様と共にグレッグがやって来たのだ。
「えっ?一度も?
政略結婚・・・とかじゃ無さそうよね?」
「それは流石に酷くないか?」
ルシアン様と侯爵令嬢が、信じられないといった表情で私を責めた。
「ほら、皆さんそう仰っているではないですか。
さあ、教えて下さい、アビー。
私の何処が好きですか?」
期待に満ちた視線を三方向から浴びている。
なんか、デジャヴ感が凄い。
コレは言わないと収まらないパターンの奴だ。
「・・・ぶ」
「えっ?何ですか?」
「・・・全部。
毒舌な所も、実は優しい所も、頼りになる所も、その綺麗な顔も、全部、好きよ!
それに、側に居るだけで安心できる人なんて、グレッグしかいないの!」
やけくそになって叫んだ私を、グレッグは目を丸くして見ていた。
「・・・・・・ちょっと待って。
ヤバい。
思った以上に嬉しいんだけど」
口元を片手で覆って目を逸らす彼は、呟く様にそう言った。
ニヤニヤと面白がって私達を見ているルシアン様を、私は真っ赤に染まった顔でキッと睨みつける。
「私も素直になったのですから、今度はルシアン様の番ですからねっ!
お二人のお邪魔になるから行きましょう、グレッグ!」
侯爵令嬢が頬を染めてルシアン様を見た。
「えっ?俺?
アビゲイル?
ちょっと待っ・・・・・・!」
慌てて呼び止めるルシアン様の声を無視して、グレッグの背中を押して邸内に戻る。
主を未来の婚約者と二人きりにしてあげた。
そろそろ彼も腹を括ればいいのだ。
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