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14 報告と決別

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「ええと、私はもう、貴方達にお話しする事は無いのですけど・・・。
何か言い足りない事があれば、伺いましてよ?」

小首を傾げて攻略対象とヒロインを見るが、誰一人口を開こうとしない。

「何も無いようですわね。
では、そろそろ失礼させて頂きますね。
早く帰宅して、お父様に報告をしなければなりませんので。
グレッグ、行きましょう」

「はい。お嬢様」

私はグレッグにエスコートされて扉の方へと進む。
会場を出る前にクルリと振り向いて、丁寧なカテーシーを披露する。

「皆様、お騒がせして、申し訳ありませんでした。
どうぞ引き続き、宴をお楽しみ下さいませ。
それでは、お先に失礼します」

沢山の視線を背中に感じながら、私達は会場を後にした。




帰りの馬車の中で、グレッグは黙ったままジッと窓の外を見ている。

「グレッグ」

「何ですか、お嬢様」

(おぉっ、機嫌わっるっ!)

返事はしてくれたのだが、チラリともこちらを見ない。

「今日は良く耐えたわね。
我慢してくれて、ありがとう」

「貴女の命令でしたから・・・」

「怒ってる?」

おずおずと尋ねると、彼は勢い良く振り向いた。

「当ったり前じゃ無いですかっっ!
何ですか、真実の石の審判って!
無茶し過ぎなんですよ!
後遺症が残ったら、どうするおつもりなんですか!?」

「あはは。やっと、こっちを見てくれた」

目が合ったグレッグは、泣きそうな顔をしていた。

「多分、大丈夫だよ。
真実の石は、短時間の使用なら問題ない筈だから」

「多分って何ですか!?
筈って何ですか!?
そんな不確かな事言われたって、安心出来る訳ないじゃないですか!」

「心配かけて、ごめんなさい」

深く頭を下げると、頭上から大きな溜息が聞こえた。

「今後は気をつけてください」

「はい」

まだ少しだけ不機嫌そうだが、漸く許して貰えたみたいでホッとする。
だけど、単身で国を出るつもりだなんて知られたら、もっと怒られるんだろうな。

私は心の中で、もう一度グレッグに謝罪した。




邸に戻った私は、直ぐにお父様に面会をしたいと執事に告げた。

程なくして、先日と同じ様に執務室へと呼ばれる。

執務机に向かって書き物をしていたお父様は、私が入室すると手を止めて、背もたれに寄り掛かり脚を組んだ。
椅子がギシッと軋む音がする。

「アビゲイル、今日はどうした?」

「卒業パーティーで様々な問題が起こりましたので、そのご報告に。
先ずは、私とフレデリック殿下との婚約ですが、王家の有責で破棄になります」

「・・・・・・っ!!」

お父様は目を見開いて固まった。
声も出ないくらいに驚いているらしい。

私は今日、学園のホールで起きた出来事を事細かに報告した。
真実の石のくだり辺りから、お父様のお顔の色が見る見る悪くなって行く。

「まさか、お前が真実の石の審判に頼る程に追い詰められていたとは・・・」

「審判を受けると言い出したのは私ですが、彼等は私に審判を受けさせる為に許可も無く石を持ち出していたみたいなので、私が言い出さなくても結局は同じだったと思います」

「許可無く国宝を持ち出しただと?
しかもそれを使用するのを、公爵令嬢に強要するつもりだったのか?
なんて馬鹿な事を・・・・・・」

お父様が頭を抱える。

「ええ、馬鹿なんですよ。
だから彼等とは話が全く通じなくて、私もずっと困っておりました。
ですが、お陰で婚約が破棄されて、やっと身軽になりました。
私はこの家を出て、他国に渡ろうと思います」

「・・・・・・は?」

「お父様も、お兄様も、今回の件でも私を信じてはくださらなかった。
学園の生徒達もそうです。
矛盾点は多くあった筈なのに、皆んな私が虐めをしていると信じて疑わなかった。
こんな国に居続ける気はありません」

そんな、絶望したみたいな顔をされてもなぁ。
私が加害者みたいじゃないか。

お父様達やお兄様に悪気がなかった事は分かっている。
おそらく二人も強制力に振り回されただけなのだろう。
だが、だからと言って、私の心に残ったシコリが消えてくれる訳では無い。

深い恨みがあるわけでは無いので、不幸になって欲しいとまでは思わない。
寧ろ幸せでいて欲しい。
但し、私とは無関係の場所で。

いつか彼等を心から許せる日が来るのだろうか?
今はまだ、想像がつかないけれど。

「この家を出て、どうやって生きていくつもりだ?
勿論、生活費は出してやれるが、慣れない他国で本当に生活出来るのか?」

「いいえ。生活費も必要ありません。
就労の手段は考えてありますし、私は炊事や洗濯なども自分で出来ます。
親不孝だと思って頂いて構いませんが、この家とは・・・、と言うか、この国とは、もう縁を切りたいのです」

お父様は、私の主張を、眉間に深い皺を刻みながら聞いていた。

暫く黙って考えている様子だった彼は、何かを決意した様に口を開く。

「確かに、私達はお前の事を信じ切れていなかった。
出自に疑念を持たれた時も、今回の件でも。
だから、きっと、お前が国や家族を捨てたいと思ったとしても、止める権利は無いのだろうな。
好きな様に生きても良い。
絶縁されても仕方ない。
だが、こんな私達でも、お前を愛していないわけじゃ無い。
心配してないわけじゃ無いんだ。
だから、二つだけ条件を出させてくれないか」

「何でしょうか?」

「一つは、本当に困った時には、意地を張らずに必ず私達を頼る事」

「はい。もう一つは?」

「護衛としてグレッグを連れて行きなさい」

「・・・・・・分かりました」

そう答えたが、私はグレッグを連れて行くつもりは無い。

なんとか撒いて出国しよう。
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