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13 謝っているつもり?

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「だが、水溜まり程度の水深でも、人は死ぬ事がある」

「ええ、確かにそうですわね。
ただ、それは意識を失った状態で、鼻と口が水中に入る様にうつ伏せで寝かされた場合です。
その時、彼女は意識を失っていらしたのかしら?
失っていないなら、溺れるまで大人しくうつ伏せで寝るなど有り得ないですよね?
彼女が息絶えるまで押さえ付けておけるほど、私には腕力も有りませんし、彼女だって意識があれば必死に抵抗するでしょう。
大体、なぜ私がそんな面倒で不確かな手段を取らねばならぬのですか?
殺るならもっと確実な方法を取りますわ」

私の言葉にサッと青褪めたメアリーを、殿下が背中に庇った。

「やはり、メアリーの命を狙っていたのだな」

いや、どうしてそうなる?
脳味噌干からびてるのか?


あまりの理不尽な断罪に、ウチのグレッグちゃんが怒りにプルプル震え出した。
彼がブチ切れて大暴れしない内に、そろそろ幕引きにしたい。


「何を言っても信じて頂けないのでしたら、仕方がありませんわね・・・。
『真実の石』の審判を要求します」

ニッコリと微笑みながら告げたその台詞は、思ったよりも大きく響いてしまったみたいで、会場全体がどよめいた。
殿下達も驚いた顔をしている。
私の方からその要求をするとは思わなかったのだろう。
そして、グレッグも真っ青になった。

「お嬢様、それは・・・」

「黙りなさい、グレッグ。
命令を忘れたの?」

「~~っ!」

ごめんね、そんなに不安そうな顔をしないで。


『真実の石』
ローマの休日で有名になった、某観光名所の石の彫刻をパクったみたいな名前のそれは、この王国の秘宝である。

普段は魔術師団で厳重に管理されているそれは、占い師の使う水晶玉の様な直径二十センチ位の透明の球体で、人の発言の真偽がわかるという便利な魔道具。

前世で言う、嘘発見器の様な物である。

その精度は絶対であるが、乱用すると精神に後遺症が出る場合がある為、普通は重犯罪者などにしか使われない。
公爵令嬢に使用するなんて、前代未聞である。
だが、一、二回、しかも短時間の使用であれば、問題は起きない筈。
・・・・・・多分。

「・・・真実の石ならば、もう用意してある」

デュークが球体を持って、前に進み出た。
若干声が小さい。
先程迄の勢いはどこへ行ったのか。
私が自ら真実の石の審判を受けると言い出したので、漸く冤罪の可能性を考え始めたのだろうか。
もう遅過ぎる。

野次馬達は、この場に真実の石が出てきた事に驚愕を隠せない。
そりゃそうだよね、国宝だもの。

まあ、私はゲームの知識から、真実の石がこの場に持ち込まれていると最初から知っていたのだが。
そう。ゲームの中のアビゲイルは、無理矢理これを使って証言をさせられ、有罪である事が証明されてしまうのだ。


ゴドフリーが、休憩用に用意されていたソファーの横の小さなテーブルを担いで持って来た。
その上にデュークが球体を丁寧に設置する。

この世界は強制力が強いが、絶対では無い。
だから、大丈夫だとは思うのだが・・・。
私の手は微かに震えていた。
グレッグが、その手を優しくさする。
私は心配そうな彼の目を見て、小さく微笑んだ。

水を打ったように静まり返って、独特の緊張感が漂う空気の中、一歩前に進み出て、球体に軽く手を触れる。
この状態で嘘を付けば球体は赤く光り、本当のことを言えば青く光るのだ。


「私、アビゲイル・ランチェスターは、メアリー・ベックリー男爵令嬢を虐めた事も、殺めようとした事もございません」

キッパリと言い切ったその瞬間、球体が力強く放った光は・・・・・・、
勿論、青色だった。

私は深く息を吐いた。

「この国において、真実の石の審判結果は絶対です。
これで、私の無実は証明されましたよね?
ここにいらっしゃる皆様が証人ですわ」

傍観していた生徒や教師をぐるりと見回すと、頷いている者や、気まずそうに目を逸らす者など、反応は様々。
目を逸らした人達は、積極的に私の悪い噂を流していたんだろうな。

「嘘だろ・・・」

「そんな・・・、馬鹿な・・・」

攻略対象の四人は信じられないといった表情で、ブツブツと呟いている。

馬鹿はお前らだぞ。

「で?」

私が首を傾げて問うと、呆然としていた殿下がピクッと肩を震わせた。
恐る恐るといった感じで、俯いていた顔を上げ、私と目を合わせる。

「・・・で?・・・とは?」

「どう落とし前を付けて下さるのかしら、と思って。
貴方達は三年もの長きに渡って、無実の私を貶めて来たのだけれど。
その事について、どう思っていらっしゃるの?」

「それは、・・・その・・・。
・・・済まない、何か誤解があったようで」

「ふふっ。
まさか、それで謝罪をしているおつもりなのかしら?
まあ、結構ですわ。
どうやら、王家の有責で婚約破棄をして頂けるみたいですし」

「いや、それは、その・・・」

「あら、まさか撤回なさるおつもり?
こんなに大勢の証人が見守る中で、婚約破棄の宣言をなさったのに?
それでも、まだ婚約が継続出来るとお思いですの?
ランチェスター公爵家も見縊られたものですわね」

殿下は先程からずっと目が泳ぎっぱなしだ。
そんなに動揺する様を見せるなんて、王族失格ですよ。

「ところで、エリック様。
覚えていらっしゃるかしら?
以前、私に、人の痛みが分からない・・・、と仰いましたよね?
そのお言葉、そっくりそのままお返ししますね」

「いや、それは・・・」

「ゴドフリー様も。
数々の暴言と、私の教科書を破り捨ててくれた事、忘れません」

「・・・・・・っ!」

「そして、デューク・アドコック様。
グレッグを魔法で押さえつけた事、絶対に許しません」

三人は、戸惑い、後悔、怯えなどが入り混じった、複雑な表情をしている。


「ところで・・・・・・、真実の石は国宝ですよ?
当然、持ち出しの許可は取られたのですよね?
こんな茶番の為に許可が降りるなんて思いませんでしたので、この場に出て来た時には驚きましたわ。
私はてっきり、後日、魔術塔に伺って審判を受ける事になるのだと思ってましたので。
まあ、早めに決着が付いて、しかも、大勢の証人まで出来て、私にとっては僥倖ですけれど」

国宝を勝手に持ち出すという重罪を犯した事に、今更気付いた攻略対象達は青褪めた。

気付くの遅過ぎるだろ。
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