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12 断罪は不可避
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それからも、変わらぬ日々が続いた。
疎まれているにも関わらず、やはり殿下との婚約は解消されなかった。
時折、ヒロインに籠絡された攻略対象者達に絡まれたりするが、もう私にとってはどうでも良い事だ。
グレッグやルシアン様と楽しく過ごす内に、あっという間に日々は過ぎ去って・・・・・・。
よく晴れた春の日、私達は、卒業を迎えた。
「ねぇ、グレッグ。
今日の卒業パーティーで、私はフレデリック殿下達からベックリー嬢への虐めについて断罪されて、婚約を破棄される予定なの」
「はい?何ですか、それ。
百歩譲ってそれが真実だとして、何故そんな事をお嬢様がご存知なんですか?」
「情報源は明かせないわ」
「新聞記者みたいな事言わないでくださいよ」
グレッグが呆れた顔になる。
冗談だと思われているらしい。
「とにかく、本当にそうなるのよ。
そこで、かなり酷い事を言われると思うんだけど・・・。
私は絶対に傷付いたりしないから、助けようとしないで。
黙って見守ってて欲しいの。
約束して?これは命令よ」
グレッグの両手を握って、彼の目を真剣に見つめる。
教科書を破られた時の様に、グレッグに傷付いて欲しくなくて、事前に伝えておくことにした。
それに、私は自分の冤罪を晴らすつもりでいるけれど、グレッグが私を護る為に彼等に抵抗したりすれば、罪に問われる可能性もある。
絶対に大人しくしておいて貰わなければ。
「・・・・・・貴女の命令なら、従います」
納得行かなそうな表情ではあるが、一応頷いてくれた事に安堵した。
だって、グレッグは私との約束を違えたりしない。
絶対に。
悪役らしく、真っ赤なドレスに身を包み、派手に着飾って・・・・・・
決戦の舞台へ、いざ、出陣。
卒業パーティーの会場となる学園のホールには、既に多くの生徒達が集まっていた。
煌びやかなシャンデリアの灯りに照らされて、皆、思い思いにダンスやお喋りを楽しんでいる。
私が入場すると、先程迄とは少し違った騒めきが広がった。
「アビゲイル・ランチェスター公爵令嬢!!」
会場に入って直ぐに、殿下が大声で私の名前を呼ぶ。
(せっかちね)
いつの間にか音楽が止んでおり、ついさっき迄ダンスを踊る人々が大勢居たはずのホールの真ん中に、ぽっかりと空間が出来ていた。
その中心に、攻略対象者四人と、ヒロインのベックリー男爵令嬢の姿があった。
私はグレッグにエスコートされて、輪の中心へと進み出た。
腕にしがみ付いたメアリーに優しい微笑みを向けていた殿下は、私達を見て苦々しい表情に変わる。
「アビゲイル・ランチェスター!!
今日この瞬間を持って、お前との婚約を破棄する!
悪足掻きせずに、素直に従った方が身のためだぞ。
お前の悪行は既に調べがついているのだからな」
高らかに宣言しているが、一体何をどう調べたと言うのか?
被害者に話を聞いただけでは、調べたとは言わないのですよ?
「アビゲイル様!早く罪を認めて謝れば、きっと優しいフレディ様は許してくださいます!」
瞳を潤ませながら、悪役令嬢を説得しようとするヒロイン。
だが、ゲームと違って私は何もしていない。
犯してもいない罪を謝罪するつもりは無いし、今更あんな婚約者に許して欲しいとも思わない。
「婚約破棄、承りましたわ」
平然とした顔で言い放つと、殿下は明らかに動揺した。
思ってた反応と違ったかしら?
ごめんなさいね。
そんな事よりも、さっきからグレッグのこめかみがピクピクしている。
まだ序盤戦よ?
大丈夫かしら?
「婚約破棄だぞ?
分かっているのか?」
「ええ。勿論、しっかりと理解しております。
王太子殿下の御心のままに」
「はっっ!!殊勝な心がけだな。
では、お前の悪行についても認めるのだな」
殿下は馬鹿にした様に吐き捨てる。
それとこれとは話が別だろ。
「いいえ。
認めたのは婚約破棄だけですわ。
私がどんな罪を犯したと仰るの?」
「貴様は、フレデリック殿下の真実の愛のお相手であるメアリーを、三年もの間虐め抜いたでは無いか!!」
唾が飛んで来そうな勢いで食って掛かるゴドフリー。
嫌だわ、汚い。もうちょっと離れて欲しい。
「真実の愛(笑)・・・ですか?
私にとっては、どうでも良い事ですわね。
何度も言いましたが、私は彼女を虐めた事などありません」
このやり取り何度目だよ?
もう飽きた。
「虐めだけには飽き足らず、お前は裏の小川にメアリーを突き落として、殺そうとしただろう!」
エリックが可愛らしいお顔を歪めて叫ぶ。
とうとう殺人未遂の汚名まで着せられた。
私の隣に立つグレッグは、そろそろ限界だ。
袖口を引っ張って、小さく首を横に振って見せると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
そもそも、学園の裏の森から敷地内に流れ出ている小川は、水量が少なくて突き落としたからって溺れ死ぬ訳がないのに。
まあ、もちろん突き落としてなどいないのだが。
「実は私は泳げないので、余程の事が無い限り、川や池には近付かないのですよ。
子供の頃から付き合いのある貴方達なら、ご存知かと思いましたが・・・。
それに、あの浅い川で人を殺せるとは思えません。
それで殺人未遂は無理があるかと・・・」
あまりのバカバカしさにちょっと笑いそうになってしまい、扇で口元をそっと隠した。
「ハハッ!語るに落ちたな!
小川には近付かないと言った癖に、何故浅いと知っているのだ!?」
鬼の首を取ったみたいにドヤ顔されてもねぇ・・・。
「校舎の三階の窓から小川が見えますから。
確か、水深は人の足首程度だったかと。
私、視力は良い方ですの」
「・・・・・・」
なんだよ、そのポカン顔。
気付いて無かったの、お前らだけだぞ。
野次馬の人達は全員『でしょうね』って顔してるからな。
前から薄々感じてたけど、この人達、馬鹿なのかな?
この国大丈夫か?
疎まれているにも関わらず、やはり殿下との婚約は解消されなかった。
時折、ヒロインに籠絡された攻略対象者達に絡まれたりするが、もう私にとってはどうでも良い事だ。
グレッグやルシアン様と楽しく過ごす内に、あっという間に日々は過ぎ去って・・・・・・。
よく晴れた春の日、私達は、卒業を迎えた。
「ねぇ、グレッグ。
今日の卒業パーティーで、私はフレデリック殿下達からベックリー嬢への虐めについて断罪されて、婚約を破棄される予定なの」
「はい?何ですか、それ。
百歩譲ってそれが真実だとして、何故そんな事をお嬢様がご存知なんですか?」
「情報源は明かせないわ」
「新聞記者みたいな事言わないでくださいよ」
グレッグが呆れた顔になる。
冗談だと思われているらしい。
「とにかく、本当にそうなるのよ。
そこで、かなり酷い事を言われると思うんだけど・・・。
私は絶対に傷付いたりしないから、助けようとしないで。
黙って見守ってて欲しいの。
約束して?これは命令よ」
グレッグの両手を握って、彼の目を真剣に見つめる。
教科書を破られた時の様に、グレッグに傷付いて欲しくなくて、事前に伝えておくことにした。
それに、私は自分の冤罪を晴らすつもりでいるけれど、グレッグが私を護る為に彼等に抵抗したりすれば、罪に問われる可能性もある。
絶対に大人しくしておいて貰わなければ。
「・・・・・・貴女の命令なら、従います」
納得行かなそうな表情ではあるが、一応頷いてくれた事に安堵した。
だって、グレッグは私との約束を違えたりしない。
絶対に。
悪役らしく、真っ赤なドレスに身を包み、派手に着飾って・・・・・・
決戦の舞台へ、いざ、出陣。
卒業パーティーの会場となる学園のホールには、既に多くの生徒達が集まっていた。
煌びやかなシャンデリアの灯りに照らされて、皆、思い思いにダンスやお喋りを楽しんでいる。
私が入場すると、先程迄とは少し違った騒めきが広がった。
「アビゲイル・ランチェスター公爵令嬢!!」
会場に入って直ぐに、殿下が大声で私の名前を呼ぶ。
(せっかちね)
いつの間にか音楽が止んでおり、ついさっき迄ダンスを踊る人々が大勢居たはずのホールの真ん中に、ぽっかりと空間が出来ていた。
その中心に、攻略対象者四人と、ヒロインのベックリー男爵令嬢の姿があった。
私はグレッグにエスコートされて、輪の中心へと進み出た。
腕にしがみ付いたメアリーに優しい微笑みを向けていた殿下は、私達を見て苦々しい表情に変わる。
「アビゲイル・ランチェスター!!
今日この瞬間を持って、お前との婚約を破棄する!
悪足掻きせずに、素直に従った方が身のためだぞ。
お前の悪行は既に調べがついているのだからな」
高らかに宣言しているが、一体何をどう調べたと言うのか?
被害者に話を聞いただけでは、調べたとは言わないのですよ?
「アビゲイル様!早く罪を認めて謝れば、きっと優しいフレディ様は許してくださいます!」
瞳を潤ませながら、悪役令嬢を説得しようとするヒロイン。
だが、ゲームと違って私は何もしていない。
犯してもいない罪を謝罪するつもりは無いし、今更あんな婚約者に許して欲しいとも思わない。
「婚約破棄、承りましたわ」
平然とした顔で言い放つと、殿下は明らかに動揺した。
思ってた反応と違ったかしら?
ごめんなさいね。
そんな事よりも、さっきからグレッグのこめかみがピクピクしている。
まだ序盤戦よ?
大丈夫かしら?
「婚約破棄だぞ?
分かっているのか?」
「ええ。勿論、しっかりと理解しております。
王太子殿下の御心のままに」
「はっっ!!殊勝な心がけだな。
では、お前の悪行についても認めるのだな」
殿下は馬鹿にした様に吐き捨てる。
それとこれとは話が別だろ。
「いいえ。
認めたのは婚約破棄だけですわ。
私がどんな罪を犯したと仰るの?」
「貴様は、フレデリック殿下の真実の愛のお相手であるメアリーを、三年もの間虐め抜いたでは無いか!!」
唾が飛んで来そうな勢いで食って掛かるゴドフリー。
嫌だわ、汚い。もうちょっと離れて欲しい。
「真実の愛(笑)・・・ですか?
私にとっては、どうでも良い事ですわね。
何度も言いましたが、私は彼女を虐めた事などありません」
このやり取り何度目だよ?
もう飽きた。
「虐めだけには飽き足らず、お前は裏の小川にメアリーを突き落として、殺そうとしただろう!」
エリックが可愛らしいお顔を歪めて叫ぶ。
とうとう殺人未遂の汚名まで着せられた。
私の隣に立つグレッグは、そろそろ限界だ。
袖口を引っ張って、小さく首を横に振って見せると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。
そもそも、学園の裏の森から敷地内に流れ出ている小川は、水量が少なくて突き落としたからって溺れ死ぬ訳がないのに。
まあ、もちろん突き落としてなどいないのだが。
「実は私は泳げないので、余程の事が無い限り、川や池には近付かないのですよ。
子供の頃から付き合いのある貴方達なら、ご存知かと思いましたが・・・。
それに、あの浅い川で人を殺せるとは思えません。
それで殺人未遂は無理があるかと・・・」
あまりのバカバカしさにちょっと笑いそうになってしまい、扇で口元をそっと隠した。
「ハハッ!語るに落ちたな!
小川には近付かないと言った癖に、何故浅いと知っているのだ!?」
鬼の首を取ったみたいにドヤ顔されてもねぇ・・・。
「校舎の三階の窓から小川が見えますから。
確か、水深は人の足首程度だったかと。
私、視力は良い方ですの」
「・・・・・・」
なんだよ、そのポカン顔。
気付いて無かったの、お前らだけだぞ。
野次馬の人達は全員『でしょうね』って顔してるからな。
前から薄々感じてたけど、この人達、馬鹿なのかな?
この国大丈夫か?
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