上 下
12 / 25

12 断罪は不可避

しおりを挟む
それからも、変わらぬ日々が続いた。

疎まれているにも関わらず、やはり殿下との婚約は解消されなかった。
時折、ヒロインに籠絡された攻略対象者達に絡まれたりするが、もう私にとってはどうでも良い事だ。

グレッグやルシアン様と楽しく過ごす内に、あっという間に日々は過ぎ去って・・・・・・。

よく晴れた春の日、私達は、卒業を迎えた。



「ねぇ、グレッグ。
今日の卒業パーティーで、私はフレデリック殿下達からベックリー嬢への虐めについて断罪されて、婚約を破棄される予定なの」

「はい?何ですか、それ。
百歩譲ってそれが真実だとして、何故そんな事をお嬢様がご存知なんですか?」

「情報源は明かせないわ」

「新聞記者みたいな事言わないでくださいよ」

グレッグが呆れた顔になる。
冗談だと思われているらしい。

「とにかく、本当にそうなるのよ。
そこで、かなり酷い事を言われると思うんだけど・・・。
私は絶対に傷付いたりしないから、助けようとしないで。
黙って見守ってて欲しいの。
約束して?これは命令よ」

グレッグの両手を握って、彼の目を真剣に見つめる。

教科書を破られた時の様に、グレッグに傷付いて欲しくなくて、事前に伝えておくことにした。
それに、私は自分の冤罪を晴らすつもりでいるけれど、グレッグが私を護る為に彼等に抵抗したりすれば、罪に問われる可能性もある。
絶対に大人しくしておいて貰わなければ。

「・・・・・・貴女の命令なら、従います」

納得行かなそうな表情ではあるが、一応頷いてくれた事に安堵した。
だって、グレッグは私との約束をたがえたりしない。
絶対に。


悪役らしく、真っ赤なドレスに身を包み、派手に着飾って・・・・・・
決戦の舞台へ、いざ、出陣。


卒業パーティーの会場となる学園のホールには、既に多くの生徒達が集まっていた。
煌びやかなシャンデリアの灯りに照らされて、皆、思い思いにダンスやお喋りを楽しんでいる。

私が入場すると、先程迄とは少し違った騒めきが広がった。

「アビゲイル・ランチェスター公爵令嬢!!」

会場に入って直ぐに、殿下が大声で私の名前を呼ぶ。

(せっかちね)

いつの間にか音楽が止んでおり、ついさっき迄ダンスを踊る人々が大勢居たはずのホールの真ん中に、ぽっかりと空間が出来ていた。

その中心に、攻略対象者四人と、ヒロインのベックリー男爵令嬢の姿があった。

私はグレッグにエスコートされて、輪の中心へと進み出た。

腕にしがみ付いたメアリーに優しい微笑みを向けていた殿下は、私達を見て苦々しい表情に変わる。

「アビゲイル・ランチェスター!!
今日この瞬間を持って、お前との婚約を破棄する!
悪足掻きせずに、素直に従った方が身のためだぞ。
お前の悪行は既に調べがついているのだからな」

高らかに宣言しているが、一体何をどう調べたと言うのか?
被害者に話を聞いただけでは、調べたとは言わないのですよ?

「アビゲイル様!早く罪を認めて謝れば、きっと優しいフレディ様は許してくださいます!」

瞳を潤ませながら、悪役令嬢を説得しようとするヒロイン。
だが、ゲームと違って私は何もしていない。

犯してもいない罪を謝罪するつもりは無いし、今更あんな婚約者に許して欲しいとも思わない。

「婚約破棄、承りましたわ」

平然とした顔で言い放つと、殿下は明らかに動揺した。
思ってた反応と違ったかしら?
ごめんなさいね。

そんな事よりも、さっきからグレッグのこめかみがピクピクしている。
まだ序盤戦よ?
大丈夫かしら?

「婚約破棄だぞ?
分かっているのか?」

「ええ。勿論、しっかりと理解しております。
王太子殿下の御心のままに」

「はっっ!!殊勝な心がけだな。
では、お前の悪行についても認めるのだな」

殿下は馬鹿にした様に吐き捨てる。
それとこれとは話が別だろ。

「いいえ。
認めたのは婚約破棄だけですわ。
私がどんな罪を犯したと仰るの?」

「貴様は、フレデリック殿下の真実の愛のお相手であるメアリーを、三年もの間虐め抜いたでは無いか!!」

唾が飛んで来そうな勢いで食って掛かるゴドフリー。
嫌だわ、汚い。もうちょっと離れて欲しい。

「真実の愛(笑)・・・ですか?
私にとっては、どうでも良い事ですわね。
何度も言いましたが、私は彼女を虐めた事などありません」

このやり取り何度目だよ?
もう飽きた。

「虐めだけには飽き足らず、お前は裏の小川にメアリーを突き落として、殺そうとしただろう!」

エリックが可愛らしいお顔を歪めて叫ぶ。

とうとう殺人未遂の汚名まで着せられた。

私の隣に立つグレッグは、そろそろ限界だ。
袖口を引っ張って、小さく首を横に振って見せると、苦虫を噛み潰したような顔をされた。

そもそも、学園の裏の森から敷地内に流れ出ている小川は、水量が少なくて突き落としたからって溺れ死ぬ訳がないのに。
まあ、もちろん突き落としてなどいないのだが。

「実は私は泳げないので、余程の事が無い限り、川や池には近付かないのですよ。
子供の頃から付き合いのある貴方達なら、ご存知かと思いましたが・・・。
それに、あの浅い川で人を殺せるとは思えません。
それで殺人未遂は無理があるかと・・・」

あまりのバカバカしさにちょっと笑いそうになってしまい、扇で口元をそっと隠した。

「ハハッ!語るに落ちたな!
小川には近付かないと言った癖に、何故浅いと知っているのだ!?」

鬼の首を取ったみたいにドヤ顔されてもねぇ・・・。

「校舎の三階の窓から小川が見えますから。
確か、水深は人の足首程度だったかと。
私、視力は良い方ですの」

「・・・・・・」

なんだよ、そのポカン顔。
気付いて無かったの、お前らだけだぞ。
野次馬の人達は全員『でしょうね』って顔してるからな。
前から薄々感じてたけど、この人達、馬鹿なのかな?

この国大丈夫か?
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

処理中です...