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8 ヒロインの妄言
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お昼休み、私はいつもの様にグレッグと昼食を食べていた。
この学園の食堂は、護衛騎士も一緒に食事をする事も出来る。
お陰でボッチ飯をしなくて済んでいる。
誰かと一緒の方が美味しいもんね。
入学当初は声を掛けてくれる女生徒も居たのだが、最終的に断罪になってしまった場合に友人が巻き添えになると後味が悪いので、やんわりとお断りして、いつも一人で過ごしていた。
悪評が広まった今となっては、断るまでも無く、誰も近寄っては来ないのだが。
トホホ・・・。
「みんな、すっかりメアリー・ベックリーを信じきっているわね。
いやぁ、困ったもんだ」
日替わりセットのパスタをフォークに巻き付けながら呟く。
今日の日替わりは、ジェノベーゼのパスタと、蒸し鶏のサラダと、ミネストローネと、デザートのパンナコッタ。
好物ばっかりで密かにテンションが上がる。
「そう言いながら、お嬢様はあんまり真剣に悩んでいらっしゃらない様にお見受けするのですが?」
「まぁ、悩んでも仕方無いしねぇ。
だって、ほら、ご覧よ」
私の視線の先には、殿下達三人とヒロインの楽しそうな姿。
私とグレッグに気付いた殿下が、ムッとした表情になる。
何故目が合っただけで、あんな顔されねばならんのだ。
解せぬ。
「あんなに皆んな虜になっているんだから、私が何を言ったって、どうせ聞いては貰えないさ。
私みたいなキツい顔の女と、可愛らしい小動物みたいな女の子だったら、殿方は皆んなあっちを庇いたくなるのでしょう?」
「さあ?私の好みではないので」
「あんな可愛子ちゃんが好みじゃないなんて、グレッグは変わってるね。
・・・はっ!もしかして、私みたいなのが好みとか!?」
「・・・・・・そのくだり、もう一回やりますか?」
グレッグが氷の眼差しで私を見た。
「ごめんて。冗談だってば」
おっかしいなぁ。
ツンデレ枠は魔術師デュークの筈なのに、グレッグのツンデレ感が強い。
しかも今の所デレが無い。
悪役令嬢相手にはデレてくれないのか?
ケチめ!
「まぁ、冗談は置いといて・・・。
全くもって彼女は私の好みではありませんが、初めて会った頃は不思議な事に、何故か惹かれかけたんですよ」
おお、それってやっぱり強制力?
「ふーーーん。
じゃあ、なんで好きにならなかったのよ?」
「それが、お嬢様と一瞬だけ離れた隙に、一度彼女から話しかけられた事がありましてね。
自分はお嬢様に虐められているから、助けて欲しい、と私に訴えるのです。
私は殆どの時間をお嬢様と共に過ごしていますから、貴女がそんな事をしていないと知っているのに、何度そう言っても『アビゲイル様を庇う必要はないわ』とか言って、話にならないんですよ」
「やっぱり、彼女は私を陥れようとしているみたいね」
「・・・と言うよりも、お嬢様が悪だと盲信している様な、なんか変な感じなんですよ。
挙句の果てには、『グレッグさんもアビゲイル様にずっと虐げられているのでしょう?』とか言われまして。
そんな事実は無いと否定したのですが、『そんな筈ありません!グレッグさんは優しいから気付いてないかもしれないけど、私にはわかるの。アビゲイル様は貴方を虐げているのよ!』・・・だそうですよ。
もう、意味が分からなくて」
「何それ、怖い」
前世の世界では『被害者がセクハラだと思ったなら、それはセクハラだ』とよく言われていたが、その逆もまた然り。
例えば職場の同僚に壁ドンをされたとする。
された側が、その行為に嫌悪感や恐怖心を持ったならば、勿論それはセクハラだ。
だが、もしも相手の事が好きで、その行為にキュンとしたなら?
それは、セクハラではなくなる。
同じ様に被害者が虐げられていると思ってないなら、虐げてなどいないのだ。
本人達がただ戯れあっているだけのつもりであっても、『貴方は虐げられているわ!目を覚まして!』とか訴えるのだろうか?
余計なお世話過ぎるだろ。
「その会話で、私の彼女に対する評価は、ちょっと可愛らしい子から、めっちゃ気持ち悪い子になったのです」
・・・でしょうね。
それは、普通にドン引くわ。
他の四人の攻略対象者達は、暗示にかかったかの様に、ヒロインちゃんを盲信している。
グレッグまでそうなってしまったらと思うと怖かったけど、どうやら大丈夫みたい。
グレッグの感覚がマトモで良かった。
だが、実は攻略対象者は、もう一人だけ残っている。
私はまだ話した事が無いのだけれど。
彼も既に攻略されちゃってるっポイんだよね。
そんな事を考えていたら、いつの間にかデザートのパンナコッタに一粒だけ乗っていたイチゴが二粒に増えていた。
私が気付かない内に、グレッグが自分のイチゴを私の方に移動させていたのだ。
突然のデレ!?
そうやって、さりげなく、ちょびっとだけ優しくするのが狡いんだよなぁ。
イチゴ一粒で喜んじゃう私も私だけどさ。
でも、グレッグはやっぱり良い奴だね。
デレが無いとか言ってゴメンよ。
この学園の食堂は、護衛騎士も一緒に食事をする事も出来る。
お陰でボッチ飯をしなくて済んでいる。
誰かと一緒の方が美味しいもんね。
入学当初は声を掛けてくれる女生徒も居たのだが、最終的に断罪になってしまった場合に友人が巻き添えになると後味が悪いので、やんわりとお断りして、いつも一人で過ごしていた。
悪評が広まった今となっては、断るまでも無く、誰も近寄っては来ないのだが。
トホホ・・・。
「みんな、すっかりメアリー・ベックリーを信じきっているわね。
いやぁ、困ったもんだ」
日替わりセットのパスタをフォークに巻き付けながら呟く。
今日の日替わりは、ジェノベーゼのパスタと、蒸し鶏のサラダと、ミネストローネと、デザートのパンナコッタ。
好物ばっかりで密かにテンションが上がる。
「そう言いながら、お嬢様はあんまり真剣に悩んでいらっしゃらない様にお見受けするのですが?」
「まぁ、悩んでも仕方無いしねぇ。
だって、ほら、ご覧よ」
私の視線の先には、殿下達三人とヒロインの楽しそうな姿。
私とグレッグに気付いた殿下が、ムッとした表情になる。
何故目が合っただけで、あんな顔されねばならんのだ。
解せぬ。
「あんなに皆んな虜になっているんだから、私が何を言ったって、どうせ聞いては貰えないさ。
私みたいなキツい顔の女と、可愛らしい小動物みたいな女の子だったら、殿方は皆んなあっちを庇いたくなるのでしょう?」
「さあ?私の好みではないので」
「あんな可愛子ちゃんが好みじゃないなんて、グレッグは変わってるね。
・・・はっ!もしかして、私みたいなのが好みとか!?」
「・・・・・・そのくだり、もう一回やりますか?」
グレッグが氷の眼差しで私を見た。
「ごめんて。冗談だってば」
おっかしいなぁ。
ツンデレ枠は魔術師デュークの筈なのに、グレッグのツンデレ感が強い。
しかも今の所デレが無い。
悪役令嬢相手にはデレてくれないのか?
ケチめ!
「まぁ、冗談は置いといて・・・。
全くもって彼女は私の好みではありませんが、初めて会った頃は不思議な事に、何故か惹かれかけたんですよ」
おお、それってやっぱり強制力?
「ふーーーん。
じゃあ、なんで好きにならなかったのよ?」
「それが、お嬢様と一瞬だけ離れた隙に、一度彼女から話しかけられた事がありましてね。
自分はお嬢様に虐められているから、助けて欲しい、と私に訴えるのです。
私は殆どの時間をお嬢様と共に過ごしていますから、貴女がそんな事をしていないと知っているのに、何度そう言っても『アビゲイル様を庇う必要はないわ』とか言って、話にならないんですよ」
「やっぱり、彼女は私を陥れようとしているみたいね」
「・・・と言うよりも、お嬢様が悪だと盲信している様な、なんか変な感じなんですよ。
挙句の果てには、『グレッグさんもアビゲイル様にずっと虐げられているのでしょう?』とか言われまして。
そんな事実は無いと否定したのですが、『そんな筈ありません!グレッグさんは優しいから気付いてないかもしれないけど、私にはわかるの。アビゲイル様は貴方を虐げているのよ!』・・・だそうですよ。
もう、意味が分からなくて」
「何それ、怖い」
前世の世界では『被害者がセクハラだと思ったなら、それはセクハラだ』とよく言われていたが、その逆もまた然り。
例えば職場の同僚に壁ドンをされたとする。
された側が、その行為に嫌悪感や恐怖心を持ったならば、勿論それはセクハラだ。
だが、もしも相手の事が好きで、その行為にキュンとしたなら?
それは、セクハラではなくなる。
同じ様に被害者が虐げられていると思ってないなら、虐げてなどいないのだ。
本人達がただ戯れあっているだけのつもりであっても、『貴方は虐げられているわ!目を覚まして!』とか訴えるのだろうか?
余計なお世話過ぎるだろ。
「その会話で、私の彼女に対する評価は、ちょっと可愛らしい子から、めっちゃ気持ち悪い子になったのです」
・・・でしょうね。
それは、普通にドン引くわ。
他の四人の攻略対象者達は、暗示にかかったかの様に、ヒロインちゃんを盲信している。
グレッグまでそうなってしまったらと思うと怖かったけど、どうやら大丈夫みたい。
グレッグの感覚がマトモで良かった。
だが、実は攻略対象者は、もう一人だけ残っている。
私はまだ話した事が無いのだけれど。
彼も既に攻略されちゃってるっポイんだよね。
そんな事を考えていたら、いつの間にかデザートのパンナコッタに一粒だけ乗っていたイチゴが二粒に増えていた。
私が気付かない内に、グレッグが自分のイチゴを私の方に移動させていたのだ。
突然のデレ!?
そうやって、さりげなく、ちょびっとだけ優しくするのが狡いんだよなぁ。
イチゴ一粒で喜んじゃう私も私だけどさ。
でも、グレッグはやっぱり良い奴だね。
デレが無いとか言ってゴメンよ。
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