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3 攻略対象者との交流

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「本日は、お招き頂き、有難うございます」

青空が広がる麗かな日。
沢山の春の花々が咲き誇る王宮の庭園で、私は婚約者と向かい合っていた。

「なかなか時間が取れなくて、済まなかったね」

私の目の前で、キラキラ輝く笑顔を惜しげも無く振りまいているフレデリック殿下は、ゲームと寸分違わぬ高貴なお姿だ。
画面の中では見慣れた美貌だが、現実に間近で見るのは、やはり迫力が違ってとても緊張する。

「いいえ。
殿下がお忙しいのは、存じておりますもの。
そんな中でお時間をいただけた事、とても嬉しく思います」

「婚約者の為に時間を作るのは当たり前だよ。
私も、今日君に会えるのをとても楽しみにしていた。
婚約したのだから、君の事をアビーと呼んでもいいだろうか?」

「はい。光栄です、殿下」

「私の事は、どうかフレディと呼んで欲しい。
君とは長い付き合いになるのだから」

「・・・はい、フレディ様」

優しい瞳で見つめられると、つい鼓動が速くなってしまう。
前世では喪女だったので、三次元のイケメンへの耐性はゼロなのだ。

しかし、まさかこんなに早い段階で、愛称で呼ぶ事を許されるとは思わなかった。
親しくなれたみたいな錯覚を起こしてしまいそうだ。
勘違いしない様に気をつけなければ。

「アビーはイチゴが好きだと聞いたので、イチゴの菓子を色々用意させたんだよ。
気に入ってくれる物があると良いんだが」

「わぁ~!凄いですね」

王宮の侍女が運んで来たワゴンを見て、思わず感嘆の声を上げた。

そこに乗っていたのは、ケーキ、タルト、プリン、マドレーヌ、クッキーなどなど、様々なスイーツ。
全てにイチゴが使われている。
どれも一口サイズに作られているそれらは、王宮のパティシエが作っただけあって見た目もとても美しく、赤やピンクの小さなお菓子が整然と並んでいる様は可愛らしい。

(スマホがあったら、写真を撮るのになぁ)

私の好みを調べて、わざわざ用意して下さるとは意外だった。
真面目なフレデリック殿下は、政略の婚約者の事も大切にしようとしてくれているらしい。

美味しいイチゴのお菓子を食べながら、お互いの趣味の話や、殿下が最近学んでいるという隣国の文化の話などで盛り上がり、和気藹々と二人だけのお茶会の時間は過ぎて行った。

とても和やかな雰囲気だ。
殿下は私を気遣って、信頼関係を築こうとしてくれているみたいに見える。
こんな誠実な人が、本当に卒業パーティーでの断罪などするのだろうか?
いくら愛する人の敵だからって、大勢の前で貶めるような手段を取るなんて・・・・・・。
なんだか想像がつかない。



「ご歓談中、失礼致します。
殿下、そろそろ次のご予定のお時間になります」

そう言って殿下を呼びに来たのは、見覚えのある二人の男の子だった。

「もうそんな時間になるのか?
楽しい時間が過ぎるのは、早い物だな。
丁度良い、紹介しておこう。
アビー、この二人は私の幼馴染で、側近候補でもあるんだ」

・・・・・・知ってますとも。
二人とも攻略対象者ですもの。

「アビゲイル・ランチェスターと申します。
お二人にお会い出来て光栄ですわ」

第一印象が肝心。
丁寧に淑女の礼をとる。
断罪の可能性を低くする為には、出来れば攻略対象と円満な関係を築きたい。

「初めまして。
エリック・マクスウェルと申します。
殿下のお側に侍る者同士、今後は何かとお会いする機会が多いと思いますので、よろしくお願い致します」

朗らかに挨拶をしてくれたのは、現宰相閣下の長男。
少し小柄でニコニコと愛想のいい彼は、『可愛い系』を担当する攻略対象だ。

「ゴドフリー・スタントンです。
以後お見知り置きを」

キリリとした表情で短く挨拶したのは、スタントン伯爵家の三男。
父親は騎士団長で、彼も剣術の才能があり、嫡男では無いが将来は騎士爵を賜る事になるだろう。
『寡黙で強くて格好良い』って感じの攻略対象である。


「しかし、ランチェスター嬢は、噂に違わぬ美しさですね。
もう少し出会うのが早ければ良かったのに」

エリック様は人懐っこい笑顔で甘い言葉を吐く。
そう言えばこの人、こういうちょっとチャラいキャラだったわ。

「私の婚約者を口説くんじゃない!」

どう反応したらいいか悩んだ挙句に曖昧な微笑みを返すと、少し不機嫌な殿下がエリック様を窘めた。

「ちょっとした冗談じゃないですか。
嫉妬深い男は嫌われますよ」

揶揄う様に笑うエリック様に、殿下は苦い表情。

「アビー、私の側近候補が軽率な発言をして済まないね。
良かったら、馬車まで送ろう」

「有難うございます。
お時間はよろしいのですか?」

「ああ、まだ少しだけ余裕がある。
では、行こうか」

彼は爽やかに微笑みながら私の手を取る。

なぜか通常のエスコートではなく、恋人繋ぎで手を引かれ、馬車止め迄の道を歩いた。
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