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2 ゲームと現実と

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私が優香だった時、人生の最後にダウンロードした乙女ゲーム。
私が生まれたこの場所は、多分その中の世界。

アビゲイル・ランチェスターという名前は、そのゲームの悪役令嬢と一致する。
公爵令嬢で王太子の婚約者。
両親とお兄様と私の四人家族。
家族構成などもゲームと同じだ。

グレッグは、悪役令嬢の従者であり攻略対象の一人。
他の主要な登場人物達の四歳年上で、『頼れるお兄さん』的な枠。

更に、私の婚約者の王太子。
フレデリック殿下も、勿論攻略対象である。

出来る事ならば彼との婚約は回避したかったけど、一週間程前に既に婚約成立しちゃってるんだよね。
前世を思い出すのが遅すぎたのよ。


これだけ見ても、ここがゲームの世界だと考えるのには充分でしょ?


もしかして、前世のゲームで王太子殿下だけしか攻略出来なかった事が心残り過ぎて、この世界に転生してしまったとか?
だとしたら、是非ともヒロインに転生したかったよ。
何故に悪役令嬢?
中途半端に願いを叶えられても困るんだよね。
そういうの、ありがた迷惑って言うんだよ。


だが、ゲームと違っている部分もあるようで・・・。
私は鏡を覗き込んで、首を捻る。

「おっかしいなぁ・・・」

思わず呟きが漏れてしまった。

ゲームの中のアビゲイルは、プラチナブロンドのストレートヘアに、ルビー色の瞳だったのだ。
だが、私は・・・、
顔立ちはゲームのアビゲイルそのものなのに、ストレートの黒髪に黒い瞳なのだ。

前世で見慣れた色味は落ち着くので、個人的には気に入っているのだけれど・・・・・・。
両親と違う色を持って生まれた私は、当時周囲を騒つかせたらしい。
母の不貞を疑う者もいたが、ランチェスター公爵家の歴史を調べてみると、八代前の当主に嫁いで来た女性が黒髪黒目だったと分かり、隔世遺伝であると結論付けられた。
顔立ちはどう見ても、父に似ているしね。
しかし、その騒動のせいで私と家族の関係は、今でも若干ギクシャクしている。

ゲームの中のアビゲイルは、両親に溺愛された典型的な我儘令嬢だった。


そのせいだろうか・・・。
ゲームの中では、アビゲイルは子供の頃から酷い癇癪持ちで、長年グレッグを虐げて来たって設定だった筈なのだが・・・。
アビゲイルとして生まれてからの記憶をいくら思い起こしてみても、そんなに酷い仕打ちをしてしまった覚えは無い。

「ねぇ、グレッグさんや」

「なんです?お嬢様。
また急に変な言葉遣いをして」

「ちょいとお聞きしたいのだけれど、私、今まで貴方を虐げて来たかしら?」

「は?何の話ですか?」

グレッグは面倒臭そうに片眉を上げた。
『コイツまた妙な事を言い出したぞ』と、顔に大きく書いてある・・・気がする。

私、一応貴方の主なんだけど?

「良いから、答えておくれよ」

「・・・お嬢様は、たまに少し我儘を仰いますし、突拍子も無い言動に驚かされたりはしますけど、別に虐げられてはいませんよ」

「だよねぇ。良かった」

被害者(仮)との間に見解の相違が無かった事に胸を撫で下ろす。

転生前の私が影響を与えているのだろうか。
優香だった私の魂がアビゲイルに混ざり込んだせいで、アビゲイルがオリジナルと少し違ってしまったのかも。

だとすると、婚約破棄や断罪が起こるとは限らないのではないか?


前世の私は、ゲームだけでなく、ラノベも嗜むタイプのオタクだったのだ。
その中には、悪役令嬢を主人公にした異世界転生物の小説も多くあった。
それらは大抵の場合、何故か王子に溺愛される結末や、隣国の王太子(イケメン)に助けられて求婚され、幸せになる結末を迎える。

勿論、過度に楽観視する事は危険だが、逆に過度に不安になる必要もないのでは無いか。
この世界がどの様なことわりで動いているか分からない以上、シナリオ通りに進むとは限らないのだから。

フレデリック殿下には、まだ顔合わせの時にしかお会いしていないけれど、相性が悪いとは感じなかった。
殿下の方も、まだ私に悪感情を持ってはいない筈。
勿論、ヒロインを虐めるつもりも無いし。

それに・・・・・・

もしも、最悪、断罪されたとしても、このゲームのシナリオ通りに進むのであれば、から、最終的には冤罪は晴らされる可能性が高いと私は思っている。

ならば、怯えてばかりいないで、新しい人生を楽しまなければ損ではないか。

ほら、グレッグを見てごらんよ。
すっごいキラキラのイケメン。
フレデリック殿下も勿論イケメン。
モブのお兄様でさえ、眩しい程のイケメン。
無料でイケメン見放題。
目の保養の過剰供給だよ。
乙女ゲーム好きとしては、この状態を楽しまない手はないよね。

しかも、アビゲイルもゲームの登場人物だけあって、気が強そうな顔立ちではあるけどなかなかの美人!
悪役ポジなので恋とかは出来ないかも知れないけど、オシャレとかは楽しめるんじゃないかな。

強メンタルなのが私の長所だ。
折角生まれ変わったのだから、この人生、前世短命だった分を取り戻すくらい、楽しみながら生き抜いてやろう。

そう決意して、先ずは目の前のイケメンを鑑賞する事にする。

フルーツの香りがする美味しい紅茶を楽しみながら、グレッグをポーッと眺めていると目が合ってしまった。

「どうしました?
オヤツのシュークリームが足りなかったですか?」

「・・・いや、違うから」

グレッグの美貌に見惚れていただけなのに、オヤツの追加の催促だと思われた。

私、いつの間にそんな食いしん坊キャラに?
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