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11 観劇の後

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肝心の歌劇だが、素晴らしかった。
直前の最悪なトラブルのせいで、内容が頭に入らないかとも思ったが、観始めてしまえば夢中になれた。
ジェラルド様も楽しんでくれたみたいで、終始ご機嫌だった。

「時間も早いですし、まだセシリアと一緒にいたいです。
近くのカフェでお茶でも飲みながら、少しお話し出来ませんか?」

嬉しい誘いに二つ返事で頷いた。

内装を淡いピンクで統一した、女性に人気がありそうなカフェ。

「素敵なカフェですね。
以前、誰方かといらしたのですか?」

ちょっと意地悪な質問をしてみると、「とんでもない!」と慌てて否定された。

〝歌劇を観た後に、女性を連れて行くと喜ばれる店を知らないか?〟と、事前にご友人にリサーチして回ったらしい。
最初から誘って下さるつもりだったのね。なんて用意周到なのか。
態々複数のご友人に聞いて回るジェラルド様を想像したら、なんだか微笑ましく思えてきた。

「このお店は、チョコレート系のケーキが美味しいんだそうです」

折角なので、私はご友人お勧めのチョコレートケーキと紅茶を注文した。
濃厚なチョコレートのケーキは、甘さ控えめで上品な美味しさ。

二人でお茶とケーキを楽しみながら、先程観たばかりの歌劇の感想を言い合ったり、他にも色々と会話が弾んだ。


ひとしきり話した所で、ふとジェラルド様が真剣な顔になった。

「今日は折角お誘い頂いたのに、愚弟のせいで不快な思いをさせて申し訳ありません」

「ジェラルド様が謝る事ではありません。
貴方は私を庇って下さったじゃないですか。
それよりも・・・・・・やはりセルヴィッチ侯爵家は大変な状況なのですね。
ジェラルド様もご心配なのでは?」

私の質問に、ジェラルド様は緩く首を横に振った。

「私は優先順位を間違えたくないと思っています。
今の私にとって一番大切なのは貴女で、次は婚家となるランバート伯爵家です。
極端に言えば、貴女さえ幸せならばそれで良いのです。
セルヴィッチ侯爵家の件は、残念ではありますが、こうなった経緯を見れば仕方のない事だと思います。
貴女が巻き添えを食わなくて良かったとさえ思っている。
薄情だと思いますか?」

「いいえ。優しさだけではやっていけませんもの。
ジェラルド様が薄情ならば、私も薄情な人間ですわね」

二人で顔を見合わせて軽く笑った。

市民の生活は、領主である貴族の肩にかかっているのだ。
沢山の者を護らなければならないので、簡単に情に流されてはいけない。
時には家族でさえ切り捨てる判断が必要な場面も出てくる。
常に優先順位を考えなければいけないのだ。

今日、色々話してみて、ジェラルド様と私は、善悪の判断などの、様々な物の考え方、感じ方が似ているのではないかと思った。
彼と一緒に居ると、温かな気持ちになって、安心出来る。
恋や愛が生まれるかはまだ分からないが、パートナーとしての相性はとても良いかもしれない。

婚約者を変更して良かった。
私は初めてオズワルドの愚行に感謝した。
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