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9 愚かな男
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【side:オズワルド】
カフェでのトラブルの少し後の事。
オズワルドは、父親の執務室に呼ばれていた。
重厚なマホガニーの執務机の正面に立ち、姿勢を正して父の言葉を待つ。
「セシリア嬢とお前との婚約は、正式に破棄された。
今後は彼女に不用意に接触することは許さない」
「そんなっ!!それでは支援の件はどうなるのですか!」
オズワルドは性格には問題があるが、頭が悪いわけでは無い。
ランバート家に見切りをつけられれば、セルヴィッチ家の財政が破綻するという事は理解していた。
それでも、傍若無人な振る舞いを続けたのは、単に婚約破棄をされない自信があったからだ。
勉強が出来るオズワルドを、周囲は優秀だと褒めそやした。
しかもこの国では、セシリアのように真面目で賢いタイプの女性は、あまり選ばれない傾向にあった。
男性を立ててくれるような控えめな性格で、見た目は華やかな女性が人気なのだ。
だから多少無下にしたところで、自分が捨てられる筈がないと高を括っていた。
卒業パーティーで去って行ったセシリアを見て、漸くやり過ぎたと気付き、慌て始めたが後の祭りである。
「返済するに決まっているだろう!!
しかも、貴様の不貞の慰謝料まで払わねばならない!
全くなんて事をしてくれたのだ。我が家を潰したいのか?」
父の怒気を含んだ声に震え上がる。
「まあ、済んでしまった物は仕方がない。
これからの事だが、お前にはこの家の跡取りになってもらう」
「何故俺が!?兄上はどうするのです?」
「ランバート家に請求された額は、とても返せそうにない。
そこで、幾つかの制裁を受ける事を条件に、減額をしてもらった。
その一つが、ジェラルドのランバート家への婿入りだ」
「・・・!!兄上が、セシリアの新しい婚約者になるのですか!?」
「そう言う事だ。
これはランバート伯爵の温情だと思え。
そうでなければ、ウチは領地も邸も売り払わなければならなかった。
全てお前が撒いた種なのだから、責任は取ってもらう」
目の前が真っ暗になる。
兄は裕福な伯爵家に婿入りして悠々自適。
一方の自分は侯爵とはいえ、財政状況が最悪な実家を立て直さなければならないのだ。
しかも、慰謝料などの支払いで、以前よりずっと財布事情は厳しい。
「兄上が伯爵家に入るなら、ランバート伯爵に再度融資を依頼して・・・」
「出来る訳ないだろう!
お前はどこまで馬鹿なんだ!
今後一切の金銭支援はしない事と、交流を最小限にすると約束させられた。
縁戚になるからって頼ろうなどと思うな。
自分のした事の意味をよく考えて物を言え!」
父の怒りは益々強くなる。
「俺は・・・・・・どうすれば・・・」
「取り敢えず、直ぐにでも後継の教育を始める。
これは本来なら伯爵になるにしても必要だった教育だ。
他家に入るからと、お前の教育を疎かにし過ぎた事を後悔している。
それから、金の管理は引き続き私が行う。
お前のような信用できない者には任せられん。
爵位を譲った後も、お前の息子が成人するまでは、私が管理する予定だ」
要するに実権は握らせないと言う事だ。
「そんな・・・・・・」
「それから、お前にはマクドネル子爵令嬢と結婚してもらう」
これもランバート伯爵からの制裁の一つだった。
本来なら、オズワルドの新たな婚約者は、多額の持参金を用意してくれる令嬢か、領地を立て直せるほどの才覚のある令嬢を迎えたいところだ。
しかしランバート伯爵は、侯爵との話し合いの際に、
「オズワルド君の心はマクドネル子爵令嬢の物なのだそうですよ?
婚約者がいても抑えられない程の、強い想いで愛し合う二人を引き裂くなど、可哀想でしょう?」
と、最高の笑顔で言い放ったのだ。
勿論、言葉通りの意味ではない。
娘を貶めた馬鹿な二人にも、罰を与えてやろうと思っての発言。
「お望み通りに結婚させてやるから、思う存分苦労するが良い」という意味だ。
がっくりと項垂れるオズワルド。
婚約者を大切にするだけで、明るい未来を掴むことが出来たのに。
今や彼の未来には暗雲しかない。
カフェでのトラブルの少し後の事。
オズワルドは、父親の執務室に呼ばれていた。
重厚なマホガニーの執務机の正面に立ち、姿勢を正して父の言葉を待つ。
「セシリア嬢とお前との婚約は、正式に破棄された。
今後は彼女に不用意に接触することは許さない」
「そんなっ!!それでは支援の件はどうなるのですか!」
オズワルドは性格には問題があるが、頭が悪いわけでは無い。
ランバート家に見切りをつけられれば、セルヴィッチ家の財政が破綻するという事は理解していた。
それでも、傍若無人な振る舞いを続けたのは、単に婚約破棄をされない自信があったからだ。
勉強が出来るオズワルドを、周囲は優秀だと褒めそやした。
しかもこの国では、セシリアのように真面目で賢いタイプの女性は、あまり選ばれない傾向にあった。
男性を立ててくれるような控えめな性格で、見た目は華やかな女性が人気なのだ。
だから多少無下にしたところで、自分が捨てられる筈がないと高を括っていた。
卒業パーティーで去って行ったセシリアを見て、漸くやり過ぎたと気付き、慌て始めたが後の祭りである。
「返済するに決まっているだろう!!
しかも、貴様の不貞の慰謝料まで払わねばならない!
全くなんて事をしてくれたのだ。我が家を潰したいのか?」
父の怒気を含んだ声に震え上がる。
「まあ、済んでしまった物は仕方がない。
これからの事だが、お前にはこの家の跡取りになってもらう」
「何故俺が!?兄上はどうするのです?」
「ランバート家に請求された額は、とても返せそうにない。
そこで、幾つかの制裁を受ける事を条件に、減額をしてもらった。
その一つが、ジェラルドのランバート家への婿入りだ」
「・・・!!兄上が、セシリアの新しい婚約者になるのですか!?」
「そう言う事だ。
これはランバート伯爵の温情だと思え。
そうでなければ、ウチは領地も邸も売り払わなければならなかった。
全てお前が撒いた種なのだから、責任は取ってもらう」
目の前が真っ暗になる。
兄は裕福な伯爵家に婿入りして悠々自適。
一方の自分は侯爵とはいえ、財政状況が最悪な実家を立て直さなければならないのだ。
しかも、慰謝料などの支払いで、以前よりずっと財布事情は厳しい。
「兄上が伯爵家に入るなら、ランバート伯爵に再度融資を依頼して・・・」
「出来る訳ないだろう!
お前はどこまで馬鹿なんだ!
今後一切の金銭支援はしない事と、交流を最小限にすると約束させられた。
縁戚になるからって頼ろうなどと思うな。
自分のした事の意味をよく考えて物を言え!」
父の怒りは益々強くなる。
「俺は・・・・・・どうすれば・・・」
「取り敢えず、直ぐにでも後継の教育を始める。
これは本来なら伯爵になるにしても必要だった教育だ。
他家に入るからと、お前の教育を疎かにし過ぎた事を後悔している。
それから、金の管理は引き続き私が行う。
お前のような信用できない者には任せられん。
爵位を譲った後も、お前の息子が成人するまでは、私が管理する予定だ」
要するに実権は握らせないと言う事だ。
「そんな・・・・・・」
「それから、お前にはマクドネル子爵令嬢と結婚してもらう」
これもランバート伯爵からの制裁の一つだった。
本来なら、オズワルドの新たな婚約者は、多額の持参金を用意してくれる令嬢か、領地を立て直せるほどの才覚のある令嬢を迎えたいところだ。
しかしランバート伯爵は、侯爵との話し合いの際に、
「オズワルド君の心はマクドネル子爵令嬢の物なのだそうですよ?
婚約者がいても抑えられない程の、強い想いで愛し合う二人を引き裂くなど、可哀想でしょう?」
と、最高の笑顔で言い放ったのだ。
勿論、言葉通りの意味ではない。
娘を貶めた馬鹿な二人にも、罰を与えてやろうと思っての発言。
「お望み通りに結婚させてやるから、思う存分苦労するが良い」という意味だ。
がっくりと項垂れるオズワルド。
婚約者を大切にするだけで、明るい未来を掴むことが出来たのに。
今や彼の未来には暗雲しかない。
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