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10 悪役ムーブ

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「リュシー、おはよう。
今日も可愛いね。毎日君に会えて僕は幸せだよ」

青空が眩しい朝の学園で、私の登校を待ち構えていた殿下が、馬車から降りるのに手を貸してくれる。

入学した日の帰り道でまさかの告白を受けてから、二か月あまり。
殿下の私に対する愛情表現は、どんどん過剰になっている気がする。

「・・・おはようございます。殿下」

私は赤くなった頬が恥ずかしくて、顔を逸らして答えた。

ヒロインは懸命に殿下に近付こうと、あの手この手で迫っているみたいだけど、殿下の方は今の所、彼女に興味はなさそう・・・・・・と言うか、若干迷惑そうだ。

そんな中、私はどう動くべきなのか。


そう考えていたら、なんとヒロインの方が先に動いた。

「失礼致します。
リュシエンヌ・ベルジュロン様ですね?
私、アネット・モンタニエと申します」

教室移動のため、一人で廊下を歩いていると、彼女に呼び止められた。

勉強は出来るらしいが、伯爵家に引き取られたばかりの彼女は、貴族社会の常識には疎いみたいだ。
突然公爵令嬢に声をかけて、行く手を遮る様に立ちはだかるなんて・・・
淑女教育は受けていないのかしら?

「そうですが、何か?」

「リュシエンヌ様は、ジュリアン様の婚約者だと伺いましたが、正直に言って、相応しく無いと思います。
学業の成績も、魔力量も私の方がずっと上ですもの」

え~。マジか。
ヒロインの方が悪役ムーブしちゃうの?
好感度があまりにも上がらないから、焦っているのかしら?

「モンタニエ伯爵令嬢、でしたか?
それは、貴女が判断する事では御座いません。
それから、許可もなく名前で呼ばないで頂けませんか?失礼ですよ」

私が静かに反論した所で、謀った様にジュリアン殿下と無駄にイケメンな側近候補達が通りかかった。
この側近達、絶対攻略対象だよね?

ヒロインの奴、態とこのタイミングで、私に因縁を付けたんだろうな。

案の定、彼女は殿下に駆け寄ると、庇護欲を掻き立てるような涙目で、訴える。

「ジュリアン様ぁ。
リュシエンヌ様が私を虐めるのです。
きっと、私とジュリアン様が親密なのが、気に入らないのですわ」

よく言うわ!
そっちが喧嘩を売ってきた癖に!

殿下は、私とヒロインを交互に見る。
ああ、やっぱり、悪役令嬢は疑われる運命なのかしら。
私は唇を噛み締めて、俯いた、の、だが。

「リュシー、嫉妬してくれたなんて、嬉しいよ。
心配しないで、僕の可愛い人。
僕の心は君だけの物だ」

キラキラした瞳で、真っ直ぐにこちらに向かって来た殿下は、私をそっと抱き締めた。
彼の胸に顔を埋める形になり、その温もりに、頭がクラクラする。

「な・・・・・・違っっ・・・!」

「照れるリュシーも可愛い」

真っ赤になった私を見て、殿下の瞳に益々熱が籠る。

ヒロインも、殿下の側近候補達もポカン顔だ。

待って。
そんなに引かないで。
馬鹿ップルを見るような目で見ないで。

私だって出来れば、傍観者側に回りたいんだから。

「ああ、ところで、そこの女生徒。
僕は君と親密にした覚えは無い。
妙な妄想を口にしないでくれないか。
あと、僕の名前には、きちんと〝殿下〟と敬称を付ける様に」

一転して鋭い視線を向けられたヒロインは、顔色を無くした。


最近の殿下は、タガが外れた様に、事ある毎に甘い言葉を囁く。
前世でも今世でも、あまりイケメンに耐性がない私は、こんな規格外の美丈夫に愛を囁かれても、どう反応すれば良いのか分からないのだよ。

このゲーム、キザな台詞は少ないんじゃなかったっけ?
勘弁して欲しい。
マジで、どうしてこうなった?




気持ちを鎮めるには、何かに没頭するに限る。
私は学園から帰宅すると、離れの作業場に篭った。
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