10 / 18
10 悪役ムーブ
しおりを挟む
「リュシー、おはよう。
今日も可愛いね。毎日君に会えて僕は幸せだよ」
青空が眩しい朝の学園で、私の登校を待ち構えていた殿下が、馬車から降りるのに手を貸してくれる。
入学した日の帰り道でまさかの告白を受けてから、二か月あまり。
殿下の私に対する愛情表現は、どんどん過剰になっている気がする。
「・・・おはようございます。殿下」
私は赤くなった頬が恥ずかしくて、顔を逸らして答えた。
ヒロインは懸命に殿下に近付こうと、あの手この手で迫っているみたいだけど、殿下の方は今の所、彼女に興味はなさそう・・・・・・と言うか、若干迷惑そうだ。
そんな中、私はどう動くべきなのか。
そう考えていたら、なんとヒロインの方が先に動いた。
「失礼致します。
リュシエンヌ・ベルジュロン様ですね?
私、アネット・モンタニエと申します」
教室移動のため、一人で廊下を歩いていると、彼女に呼び止められた。
勉強は出来るらしいが、伯爵家に引き取られたばかりの彼女は、貴族社会の常識には疎いみたいだ。
突然公爵令嬢に声をかけて、行く手を遮る様に立ちはだかるなんて・・・
淑女教育は受けていないのかしら?
「そうですが、何か?」
「リュシエンヌ様は、ジュリアン様の婚約者だと伺いましたが、正直に言って、相応しく無いと思います。
学業の成績も、魔力量も私の方がずっと上ですもの」
え~。マジか。
ヒロインの方が悪役ムーブしちゃうの?
好感度があまりにも上がらないから、焦っているのかしら?
「モンタニエ伯爵令嬢、でしたか?
それは、貴女が判断する事では御座いません。
それから、許可もなく名前で呼ばないで頂けませんか?失礼ですよ」
私が静かに反論した所で、謀った様にジュリアン殿下と無駄にイケメンな側近候補達が通りかかった。
この側近達、絶対攻略対象だよね?
ヒロインの奴、態とこのタイミングで、私に因縁を付けたんだろうな。
案の定、彼女は殿下に駆け寄ると、庇護欲を掻き立てるような涙目で、訴える。
「ジュリアン様ぁ。
リュシエンヌ様が私を虐めるのです。
きっと、私とジュリアン様が親密なのが、気に入らないのですわ」
よく言うわ!
そっちが喧嘩を売ってきた癖に!
殿下は、私とヒロインを交互に見る。
ああ、やっぱり、悪役令嬢は疑われる運命なのかしら。
私は唇を噛み締めて、俯いた、の、だが。
「リュシー、嫉妬してくれたなんて、嬉しいよ。
心配しないで、僕の可愛い人。
僕の心は君だけの物だ」
キラキラした瞳で、真っ直ぐにこちらに向かって来た殿下は、私をそっと抱き締めた。
彼の胸に顔を埋める形になり、その温もりに、頭がクラクラする。
「な・・・・・・違っっ・・・!」
「照れるリュシーも可愛い」
真っ赤になった私を見て、殿下の瞳に益々熱が籠る。
ヒロインも、殿下の側近候補達もポカン顔だ。
待って。
そんなに引かないで。
馬鹿ップルを見るような目で見ないで。
私だって出来れば、傍観者側に回りたいんだから。
「ああ、ところで、そこの女生徒。
僕は君と親密にした覚えは無い。
妙な妄想を口にしないでくれないか。
あと、僕の名前には、きちんと〝殿下〟と敬称を付ける様に」
一転して鋭い視線を向けられたヒロインは、顔色を無くした。
最近の殿下は、タガが外れた様に、事ある毎に甘い言葉を囁く。
前世でも今世でも、あまりイケメンに耐性がない私は、こんな規格外の美丈夫に愛を囁かれても、どう反応すれば良いのか分からないのだよ。
このゲーム、キザな台詞は少ないんじゃなかったっけ?
勘弁して欲しい。
マジで、どうしてこうなった?
気持ちを鎮めるには、何かに没頭するに限る。
私は学園から帰宅すると、離れの作業場に篭った。
今日も可愛いね。毎日君に会えて僕は幸せだよ」
青空が眩しい朝の学園で、私の登校を待ち構えていた殿下が、馬車から降りるのに手を貸してくれる。
入学した日の帰り道でまさかの告白を受けてから、二か月あまり。
殿下の私に対する愛情表現は、どんどん過剰になっている気がする。
「・・・おはようございます。殿下」
私は赤くなった頬が恥ずかしくて、顔を逸らして答えた。
ヒロインは懸命に殿下に近付こうと、あの手この手で迫っているみたいだけど、殿下の方は今の所、彼女に興味はなさそう・・・・・・と言うか、若干迷惑そうだ。
そんな中、私はどう動くべきなのか。
そう考えていたら、なんとヒロインの方が先に動いた。
「失礼致します。
リュシエンヌ・ベルジュロン様ですね?
私、アネット・モンタニエと申します」
教室移動のため、一人で廊下を歩いていると、彼女に呼び止められた。
勉強は出来るらしいが、伯爵家に引き取られたばかりの彼女は、貴族社会の常識には疎いみたいだ。
突然公爵令嬢に声をかけて、行く手を遮る様に立ちはだかるなんて・・・
淑女教育は受けていないのかしら?
「そうですが、何か?」
「リュシエンヌ様は、ジュリアン様の婚約者だと伺いましたが、正直に言って、相応しく無いと思います。
学業の成績も、魔力量も私の方がずっと上ですもの」
え~。マジか。
ヒロインの方が悪役ムーブしちゃうの?
好感度があまりにも上がらないから、焦っているのかしら?
「モンタニエ伯爵令嬢、でしたか?
それは、貴女が判断する事では御座いません。
それから、許可もなく名前で呼ばないで頂けませんか?失礼ですよ」
私が静かに反論した所で、謀った様にジュリアン殿下と無駄にイケメンな側近候補達が通りかかった。
この側近達、絶対攻略対象だよね?
ヒロインの奴、態とこのタイミングで、私に因縁を付けたんだろうな。
案の定、彼女は殿下に駆け寄ると、庇護欲を掻き立てるような涙目で、訴える。
「ジュリアン様ぁ。
リュシエンヌ様が私を虐めるのです。
きっと、私とジュリアン様が親密なのが、気に入らないのですわ」
よく言うわ!
そっちが喧嘩を売ってきた癖に!
殿下は、私とヒロインを交互に見る。
ああ、やっぱり、悪役令嬢は疑われる運命なのかしら。
私は唇を噛み締めて、俯いた、の、だが。
「リュシー、嫉妬してくれたなんて、嬉しいよ。
心配しないで、僕の可愛い人。
僕の心は君だけの物だ」
キラキラした瞳で、真っ直ぐにこちらに向かって来た殿下は、私をそっと抱き締めた。
彼の胸に顔を埋める形になり、その温もりに、頭がクラクラする。
「な・・・・・・違っっ・・・!」
「照れるリュシーも可愛い」
真っ赤になった私を見て、殿下の瞳に益々熱が籠る。
ヒロインも、殿下の側近候補達もポカン顔だ。
待って。
そんなに引かないで。
馬鹿ップルを見るような目で見ないで。
私だって出来れば、傍観者側に回りたいんだから。
「ああ、ところで、そこの女生徒。
僕は君と親密にした覚えは無い。
妙な妄想を口にしないでくれないか。
あと、僕の名前には、きちんと〝殿下〟と敬称を付ける様に」
一転して鋭い視線を向けられたヒロインは、顔色を無くした。
最近の殿下は、タガが外れた様に、事ある毎に甘い言葉を囁く。
前世でも今世でも、あまりイケメンに耐性がない私は、こんな規格外の美丈夫に愛を囁かれても、どう反応すれば良いのか分からないのだよ。
このゲーム、キザな台詞は少ないんじゃなかったっけ?
勘弁して欲しい。
マジで、どうしてこうなった?
気持ちを鎮めるには、何かに没頭するに限る。
私は学園から帰宅すると、離れの作業場に篭った。
117
お気に入りに追加
3,756
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる