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12 遠乗りデート(ダニエル視点)
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最近、トリシアが可愛い。
いや、元々可愛かったのだが、最近可愛いが過ぎる。
結婚式で口付けをしてからだ。
私の顔を見ると、頬を真っ赤に染めて、涙目で視線を逸らす。
ヤバい。堪らん。
トキメキで心臓が止まりかねない。
可愛いが頂点に達すると、人を殺せるほどの凶器になるとは知らなかった。
「旦那様、最近ポーカーフェイスが崩れています」
イバンに呆れた顔で注意される。
うん。
自分でも自覚がある。
「それは仕方が無いだろう。
見たか?あの可愛い生き物を」
「お気持ちは分かりますが、もう少し自制した方が宜しいかと。
全く奥様への想いが隠せてません」
「・・・・・・」
知ってる!
だって無理じゃん。
一応、頑張って無表情を心掛けてはいるが、勝手に頬は染まるし、口許は緩むし・・・。
トリシアの可愛いの波状攻撃に内心めちゃめちゃ身悶えている私を、使用人一同、ドン引きした目で見て来るが、もう知ったこっちゃ無い。
はぁ・・・。
いつまで隠し通せるのやら・・・。
だが、最近のトリシアの態度を見ていると、私を意識してくれているのではないかと感じる。
初恋を忘れてくれる日も近いかも知れないと、少しだけ期待してしまう。
「しかし、照れるトリシアは、最高に可愛いのだが、流石にこのままじゃマズいよな。
全く目を見てもらえないのも悲しいし、社交の際にもこの状態では、一緒に出席するのも難しい。
早く慣れてくれると良いのだが・・・」
「いっその事、デートにでも誘って、強制的に慣れて頂いては如何ですか」
───と、言う訳で。
遠乗りデートに誘ってみた。
馬か徒歩でしか行けない、私のお気に入りの場所に連れて行きたかったから。
(勿論下心も有りますけど、何か?)
馬に二人で乗れば、どうしたって体が密着する。
小さくて柔らかな体を腕の中に抱える様な体勢になると、フワリと甘い香りがした。
(oh・・・!)
自分で作り出した状況ではあるが、思った以上に理性が試される。
新手の拷問かな?
親密過ぎる距離感に固まってしまったトリシアは、首の後ろまで真っ赤になっている。
余りに可愛らしくて、つい笑いが込み上げて来た。
振り返って涙目で睨まれるのが、また堪らない。
トリシアを怖がらせない様に、ゆっくり馬を歩かせて、森の中へと入った頃には、漸く彼女の様子も落ち着いて来た。
「木漏れ日がキラキラして、綺麗ですね。
心なしか、空気も美味しいです」
「そうか。
連れて来て良かった」
久し振りにリラックスした様子の彼女を見た。
逆効果かもと心配したが、『強制的に慣れさせよう作戦』は、意外と上手くいったみたいだ。
私の方は、未だに悶々としているけれど・・・。
目的地である、渓流沿いにある美しい滝に到着した。
ここはとても空気が澄んでいて気持ちの良い場所だ。
滝壺は透明度が高く、碧く輝いており、時々小さな魚が跳ねた。
「素敵な場所ですね」
「ああ。
滝の水飛沫には、リラックス効果があるそうだ。
トリシアをどうしても連れて来たかったのだが、この場所は馬車では来られないからな。
馬に乗るのは怖く無かったか?」
「ええ、思ったより怖く無かったです。
ダンがしっかり支えてくれていたので・・・」
ヤバい。
頬が緩む。
慌てて表情を引き締めて、後ろから別の馬で着いて来たイバンを振り返る。
有能な執事は指示をしなくとも、大きく平らな岩の上に、シートを広げて、トリシアが座る場所にはクッションを敷く。
軽食が入ったバスケットと、瓶に入れたアイスティーも用意してくれた。
「さあ、座って、お姫様」
エスコートして、クッションの上に座らせる。
「わぁ。なんだか凄く贅沢な気分ですね」
楽しそうに瞳を輝かせている。
今朝迄のぎこちなさが消えて、もうすっかり私の顔を見るのにも慣れたようだ。
あの、真っ赤になって慌てる様子を見る機会が減るのだと思うと、少しだけ残念ではあるが。
「あの、コレを、ダンに」
少し恥ずかしそうに、彼女が差し出したのは、小さな包み。
中身は緻密な刺繍を施したハンカチだった。
モチーフはイングレース公爵家の家紋である。
ウチの家紋は剣に絡み付いたドラゴンが描かれた、とても細かいデザインで、刺繍のモチーフにするには向いていない。
だが、これは、見事な技術で完璧に表現されているではないか。
「これは・・・まさか、トリシアが?」
「ええ。刺繍は得意なんです。
公爵家の家紋が難しいデザインだったので、挑戦してみたくなって。
お邸に住まわせて貰ってから、少しづつ刺したのです」
「凄いな。トリシアは手先が器用で、芸術的なセンスがあるのだな。
ピアノの腕も素晴らしかった」
「有難うございます。
エルミニオ様も、よくそう言って褒めてくれました」
彼女は懐かしむ様に微笑んだ。
「・・・そうか」
そこで彼の名前が出るのか・・・。
狡いな。
やはり、十年以上も温めていた想いを手離すのは、相当な時間が掛かるのだろう。
もしも私の方が先に、トリシアと知り合っていれば・・・・・・と、意味の無い事をつい考えてしまう。
「・・・ん?
ダンの前でピアノを弾いた事、ありましたっけ?」
あ、そうだった。
あの時、私が聴いていたのを、トリシアは知らない。
「いや、学園で、たまたま耳に入った事があったんだ」
「そうなんですね。
まさか、学生時代から私の存在をご存知だったなんて、思いませんでした」
───その頃から、ずっと好きだったよ。
素直にそう言えたら、どんなに良いだろう。
いや、元々可愛かったのだが、最近可愛いが過ぎる。
結婚式で口付けをしてからだ。
私の顔を見ると、頬を真っ赤に染めて、涙目で視線を逸らす。
ヤバい。堪らん。
トキメキで心臓が止まりかねない。
可愛いが頂点に達すると、人を殺せるほどの凶器になるとは知らなかった。
「旦那様、最近ポーカーフェイスが崩れています」
イバンに呆れた顔で注意される。
うん。
自分でも自覚がある。
「それは仕方が無いだろう。
見たか?あの可愛い生き物を」
「お気持ちは分かりますが、もう少し自制した方が宜しいかと。
全く奥様への想いが隠せてません」
「・・・・・・」
知ってる!
だって無理じゃん。
一応、頑張って無表情を心掛けてはいるが、勝手に頬は染まるし、口許は緩むし・・・。
トリシアの可愛いの波状攻撃に内心めちゃめちゃ身悶えている私を、使用人一同、ドン引きした目で見て来るが、もう知ったこっちゃ無い。
はぁ・・・。
いつまで隠し通せるのやら・・・。
だが、最近のトリシアの態度を見ていると、私を意識してくれているのではないかと感じる。
初恋を忘れてくれる日も近いかも知れないと、少しだけ期待してしまう。
「しかし、照れるトリシアは、最高に可愛いのだが、流石にこのままじゃマズいよな。
全く目を見てもらえないのも悲しいし、社交の際にもこの状態では、一緒に出席するのも難しい。
早く慣れてくれると良いのだが・・・」
「いっその事、デートにでも誘って、強制的に慣れて頂いては如何ですか」
───と、言う訳で。
遠乗りデートに誘ってみた。
馬か徒歩でしか行けない、私のお気に入りの場所に連れて行きたかったから。
(勿論下心も有りますけど、何か?)
馬に二人で乗れば、どうしたって体が密着する。
小さくて柔らかな体を腕の中に抱える様な体勢になると、フワリと甘い香りがした。
(oh・・・!)
自分で作り出した状況ではあるが、思った以上に理性が試される。
新手の拷問かな?
親密過ぎる距離感に固まってしまったトリシアは、首の後ろまで真っ赤になっている。
余りに可愛らしくて、つい笑いが込み上げて来た。
振り返って涙目で睨まれるのが、また堪らない。
トリシアを怖がらせない様に、ゆっくり馬を歩かせて、森の中へと入った頃には、漸く彼女の様子も落ち着いて来た。
「木漏れ日がキラキラして、綺麗ですね。
心なしか、空気も美味しいです」
「そうか。
連れて来て良かった」
久し振りにリラックスした様子の彼女を見た。
逆効果かもと心配したが、『強制的に慣れさせよう作戦』は、意外と上手くいったみたいだ。
私の方は、未だに悶々としているけれど・・・。
目的地である、渓流沿いにある美しい滝に到着した。
ここはとても空気が澄んでいて気持ちの良い場所だ。
滝壺は透明度が高く、碧く輝いており、時々小さな魚が跳ねた。
「素敵な場所ですね」
「ああ。
滝の水飛沫には、リラックス効果があるそうだ。
トリシアをどうしても連れて来たかったのだが、この場所は馬車では来られないからな。
馬に乗るのは怖く無かったか?」
「ええ、思ったより怖く無かったです。
ダンがしっかり支えてくれていたので・・・」
ヤバい。
頬が緩む。
慌てて表情を引き締めて、後ろから別の馬で着いて来たイバンを振り返る。
有能な執事は指示をしなくとも、大きく平らな岩の上に、シートを広げて、トリシアが座る場所にはクッションを敷く。
軽食が入ったバスケットと、瓶に入れたアイスティーも用意してくれた。
「さあ、座って、お姫様」
エスコートして、クッションの上に座らせる。
「わぁ。なんだか凄く贅沢な気分ですね」
楽しそうに瞳を輝かせている。
今朝迄のぎこちなさが消えて、もうすっかり私の顔を見るのにも慣れたようだ。
あの、真っ赤になって慌てる様子を見る機会が減るのだと思うと、少しだけ残念ではあるが。
「あの、コレを、ダンに」
少し恥ずかしそうに、彼女が差し出したのは、小さな包み。
中身は緻密な刺繍を施したハンカチだった。
モチーフはイングレース公爵家の家紋である。
ウチの家紋は剣に絡み付いたドラゴンが描かれた、とても細かいデザインで、刺繍のモチーフにするには向いていない。
だが、これは、見事な技術で完璧に表現されているではないか。
「これは・・・まさか、トリシアが?」
「ええ。刺繍は得意なんです。
公爵家の家紋が難しいデザインだったので、挑戦してみたくなって。
お邸に住まわせて貰ってから、少しづつ刺したのです」
「凄いな。トリシアは手先が器用で、芸術的なセンスがあるのだな。
ピアノの腕も素晴らしかった」
「有難うございます。
エルミニオ様も、よくそう言って褒めてくれました」
彼女は懐かしむ様に微笑んだ。
「・・・そうか」
そこで彼の名前が出るのか・・・。
狡いな。
やはり、十年以上も温めていた想いを手離すのは、相当な時間が掛かるのだろう。
もしも私の方が先に、トリシアと知り合っていれば・・・・・・と、意味の無い事をつい考えてしまう。
「・・・ん?
ダンの前でピアノを弾いた事、ありましたっけ?」
あ、そうだった。
あの時、私が聴いていたのを、トリシアは知らない。
「いや、学園で、たまたま耳に入った事があったんだ」
「そうなんですね。
まさか、学生時代から私の存在をご存知だったなんて、思いませんでした」
───その頃から、ずっと好きだったよ。
素直にそう言えたら、どんなに良いだろう。
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