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95 《番外編》馴れ初めはバイオレンス③
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炎の壁の向こうで命乞いをする男に、アデライドは顔を顰めた。
「自分達は、金品を強奪する為だけに罪も無い人々の命を平気で奪っておいて、自分の命は惜しむのね」
「おっ俺だって、好きでこんな生活しているわけじゃ無い!
お前ら貴族には、底辺の人間の気持ちなんて分からないんだ」
尤もらしい男の言葉を、アデライドは鼻で嗤った。
「はっ!! 分かりたくも無い。
持病があっても、幼な子を抱えていても、頑張って真面目に生きている人は沢山いるわ。
重い剣を振り回せるくらいに健康な体を持っているあなたが、ここまで底辺に堕ちてしまったのは、『他人の命を奪ってでも楽して金を手に入れたい』って言うクソみたいな考えのせいでしょうが。
あなたは知らないだろうけど、貴族ってのは何もしないで優雅な生活をしている訳では無いわ。
色々な義務を果たしているの。
領民の安寧の為に、あなた達みたいなクズを始末するのも、私達貴族の大切な義務の一つなのよ」
「始末……」
炎の中から、力無い呟きが聞こえる。
男に怒声を浴びせたアデライドは、急にオスカーに見られている事を思い出したのか、少し気まずそうな顔でおずおずと振り返った。
「あー……。
取り敢えず、喉は焼けてなかったみたいですね。
証言は取れそうですよ」
取り繕う様に微笑む彼女の姿を、オスカーは魂が抜けた様にボンヤリと眺めていた。
「あの……シャヴァリエ様?」
呼び掛けられたオスカーは、大股でアデライドに近付くと、その細い両手を包み込む様に握った。
「結婚、して下さい!」
「はい?」
「今日は私との見合いの為に、コチラに来て下さったのですよね?
その縁談は、貴女自身の希望だと伺いました。
もしそれが本当なら、是非、私と結婚して欲しい。
貴女を好きになりました」
「え、あの……」
「ダメですか?」
アデライドはまだ状況が飲み込めていないのに、オスカーは熱が篭った瞳でグイグイ迫って来る。
「…………します。結婚」
勢いに押されてとうとうアデライドが頷くと、オスカーは「やった!!」と叫んで彼女を抱き締めた。
「ねぇ、俺の事、忘れてない?」
炎の壁に捕らえられている男が、小さくボヤいた声は、二人の耳には入らなかった。
「お見合いをするつもりではありましたけど、あんな状況で突然プロポーズをされるとは夢にも思いませんでした」
昔話を終えて、懐かしそうに微笑むアデライドに、オスカーは見惚れていた。
彼女は年を重ねて尚も輝き続けている。
「君を捕まえなきゃと思ったから」
アデライドの敵を見据える鋭い眼差しや、ナイフを投げる時の冷ややかな微笑み、罪人を正論で黙らせた時の凛とした佇まい。
その全てが、オスカーの心に鮮烈な印象を与えた。
要するに、一瞬で恋に落ちたのだ。
「アデライドがとてもモテる事は知っていたし、面倒な事件に巻き込んでしまったから、私への印象はかなりマイナスだっただろう?
だから、焦ってあんなプロポーズに……」
無事に結婚した後、アデライドが実家から連れて来た侍女のロメーヌに、『ムードもへったくれも無い!!』と、しこたま怒られたのは、ちょっとしたトラウマだ。
「事件には巻き込まれましたが、貴方への印象は寧ろ良かったですよ。
私よりも弱い男に嫁ぐなんて真っ平ですもの」
アデライドは両親が自分を愛し、大切に育ててくれた事には、深く感謝をしている。
『政略結婚は強要しないから、好きになれそうな相手を選びなさい』と言ってくれた事にも。
しかし、その両親が持ってくる縁談の相手は、悉く彼女の好みとはかけ離れていた。
財力も地位も兼ね備え、麗しい容姿の見合い相手達。
一般的には良縁である。
だが、敢えて言おう。
彼等は、アデライドの好み的には完全に不合格だと。
彼女が男性を選ぶ時の第一条件は、『自分よりも強い者』だ。
顔の皮一枚の美醜など、彼女にとっては些事である。
オスカーの名誉の為に付け加えると、彼が醜いという意味では無い。
彼もワイルド系のイケメンである。
ただ、ちょっと……、なんの躊躇いも無く簡単に人を殺しそうに見えるだけ。
美男子からの求婚を断るアデライドを、家族は残念な物を見る様な目で見た。
しかし、元はと言えば、父と兄が『可愛いアデライドが、いざと言う時に自分を守れる様に』と施した攻撃魔法と武芸の英才教育のせいなのだ。
「私はもっと逞しい方が好きなのです。
少なくとも私よりは強くなければ、お話になりません」
そう言って譲らないアデライドに、父はそれまで交流も無かったオスカーへ、一か八かで釣り書きを送った。
何故なら、アデライドよりも強い同年代の貴族男性など、数える程しかいなかったのだ。
オスカーは騎士としても、魔法の使い手としても優秀だと噂に聞いていたアデライドは、この縁談を大いに喜んだ。
そして、オスカーが無詠唱で炎の壁を作り出したのを見た時、彼女もまた、一瞬で恋に落ちたのである。
オスカーは自分の事をモテないと思っている様だが、それは違う。
普段は無表情で眼光が鋭いので、怖がられる事も多いのだけれど、元々目鼻立ちは整っているし、年を重ねる程に渋みが増して益々良い男になった。
しかも、アデライドやミシェルといる時には柔らかで優しい表情になるのだから、夜会などでそれを見た一部のご夫人方には密かに人気が出始めているのだ。
だが、アデライドは、トラブルの芽は未然に摘むタイプ。
余計な虫が夫の周囲を飛び回る前に、こまめに駆除をしている。
駆除と言っても、勿論、殺している訳ではない。
相手の小さな弱みを握り、それを上手に使って牽制しているのだ。
夫は、まだ、それに気付いていない。
「君の男性の好みが変わっていて良かったよ」
「私も、見る目が無い女性が多くて良かったです」
花が咲き乱れる庭園で、夫婦は幸せそうに微笑み合った。
【義父母編・終】
────────────────
《おまけ》
この馴れ初めを聞いた場合の女性陣の反応。
ミシェル
「今の話の中に、ロマンスの要素が全く見つからないのですが……」
ニナ
「ディオン様はお義母様似ですね(遠い目)」
リズ
「お祖母様、素敵♡」
────────────────
かつてこんなにもキュンとしない馴れ初めがあったでしょうか?(笑)
お次は、ジェレミーの側近パトリックのお話を予定しております。
番外編で突如現れたパトリックは何者なのか? ジェレミーとの出会いは?
その答えが明らかになります♪
ジェレミーが学園に入学する直前からのスタートです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
「自分達は、金品を強奪する為だけに罪も無い人々の命を平気で奪っておいて、自分の命は惜しむのね」
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尤もらしい男の言葉を、アデライドは鼻で嗤った。
「はっ!! 分かりたくも無い。
持病があっても、幼な子を抱えていても、頑張って真面目に生きている人は沢山いるわ。
重い剣を振り回せるくらいに健康な体を持っているあなたが、ここまで底辺に堕ちてしまったのは、『他人の命を奪ってでも楽して金を手に入れたい』って言うクソみたいな考えのせいでしょうが。
あなたは知らないだろうけど、貴族ってのは何もしないで優雅な生活をしている訳では無いわ。
色々な義務を果たしているの。
領民の安寧の為に、あなた達みたいなクズを始末するのも、私達貴族の大切な義務の一つなのよ」
「始末……」
炎の中から、力無い呟きが聞こえる。
男に怒声を浴びせたアデライドは、急にオスカーに見られている事を思い出したのか、少し気まずそうな顔でおずおずと振り返った。
「あー……。
取り敢えず、喉は焼けてなかったみたいですね。
証言は取れそうですよ」
取り繕う様に微笑む彼女の姿を、オスカーは魂が抜けた様にボンヤリと眺めていた。
「あの……シャヴァリエ様?」
呼び掛けられたオスカーは、大股でアデライドに近付くと、その細い両手を包み込む様に握った。
「結婚、して下さい!」
「はい?」
「今日は私との見合いの為に、コチラに来て下さったのですよね?
その縁談は、貴女自身の希望だと伺いました。
もしそれが本当なら、是非、私と結婚して欲しい。
貴女を好きになりました」
「え、あの……」
「ダメですか?」
アデライドはまだ状況が飲み込めていないのに、オスカーは熱が篭った瞳でグイグイ迫って来る。
「…………します。結婚」
勢いに押されてとうとうアデライドが頷くと、オスカーは「やった!!」と叫んで彼女を抱き締めた。
「ねぇ、俺の事、忘れてない?」
炎の壁に捕らえられている男が、小さくボヤいた声は、二人の耳には入らなかった。
「お見合いをするつもりではありましたけど、あんな状況で突然プロポーズをされるとは夢にも思いませんでした」
昔話を終えて、懐かしそうに微笑むアデライドに、オスカーは見惚れていた。
彼女は年を重ねて尚も輝き続けている。
「君を捕まえなきゃと思ったから」
アデライドの敵を見据える鋭い眼差しや、ナイフを投げる時の冷ややかな微笑み、罪人を正論で黙らせた時の凛とした佇まい。
その全てが、オスカーの心に鮮烈な印象を与えた。
要するに、一瞬で恋に落ちたのだ。
「アデライドがとてもモテる事は知っていたし、面倒な事件に巻き込んでしまったから、私への印象はかなりマイナスだっただろう?
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無事に結婚した後、アデライドが実家から連れて来た侍女のロメーヌに、『ムードもへったくれも無い!!』と、しこたま怒られたのは、ちょっとしたトラウマだ。
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アデライドは両親が自分を愛し、大切に育ててくれた事には、深く感謝をしている。
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しかし、その両親が持ってくる縁談の相手は、悉く彼女の好みとはかけ離れていた。
財力も地位も兼ね備え、麗しい容姿の見合い相手達。
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顔の皮一枚の美醜など、彼女にとっては些事である。
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ただ、ちょっと……、なんの躊躇いも無く簡単に人を殺しそうに見えるだけ。
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オスカーは自分の事をモテないと思っている様だが、それは違う。
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しかも、アデライドやミシェルといる時には柔らかで優しい表情になるのだから、夜会などでそれを見た一部のご夫人方には密かに人気が出始めているのだ。
だが、アデライドは、トラブルの芽は未然に摘むタイプ。
余計な虫が夫の周囲を飛び回る前に、こまめに駆除をしている。
駆除と言っても、勿論、殺している訳ではない。
相手の小さな弱みを握り、それを上手に使って牽制しているのだ。
夫は、まだ、それに気付いていない。
「君の男性の好みが変わっていて良かったよ」
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花が咲き乱れる庭園で、夫婦は幸せそうに微笑み合った。
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《おまけ》
この馴れ初めを聞いた場合の女性陣の反応。
ミシェル
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