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25 ばら撒かれた怪文書
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「大変ですっ、財務部からも感染者が複数出ました!」
王太子の執務室に駆け込んで来た文官が、泣きそうな声で報告した。
「感染者を医務室に運べ。
濃厚接触者は、二日間、東の塔で隔離だ」
「医務室はもう一杯です」
「あ゛ーーー、では、東の塔の一部の部屋を、感染者が療養出来る様に整えろ」
「それではまだ感染していない濃厚接触者の感染確率が高くなってしまうのでは?」
文官の意見は尤もなのだが、余裕のないアルフォンスは苛立ちを隠せず、執務机をドンッと拳で叩いた。
その大きな音に、文官は肩を震わせる。
「……ではどうしろと言うのだ?
こんな事態は初めてなのだから、手探りでやっていくしか無いだろう。
それから、財務部に他の部署から人員を補充しろ」
こんな遣り方では益々感染が広がりそうである。しかも、簡単に人員の補充などと言うが、今はどこの部署も人手不足なのだ。
杜撰な対策に不信感を持ちながらも、文句を言ってる暇も惜しい。
「……はい」
渋々ながらも頷き、文官は慌てて駆け出して行った。
その後ろ姿を見送ったアルフォンスは、眉間を揉み解しながら深く重い溜息を吐き出した。
同盟国でも一月ほど前に流行したこの病は、その国から帰国した外交官がこちらに持ち込んでしまった物らしい。
感染しても命の危険はほぼ無いというのは不幸中の幸いだったが、感染力は非常に強く、喉が腫れ上がり高熱が二週間以上も続く。
既に王宮で働く者の半数近くが感染し、アルフォンスの父である国王も、昨日ついに倒れた。
王宮内の仕事が回らず、国の運営が麻痺しつつある。
市井にも少しずつ感染者が出始めているらしく、民の不満は爆発寸前だ。
アルフォンスも対応に追われており、もう四日くらい、まともに眠れていない。
食事をする時間すら惜しいくらいに忙しいのだ。
(ミシェルに婚約破棄を宣言し、聖女をクビにしてから、全てが上手く行かない……)
一体どこで間違ってしまったのか?
アルフォンスは遠い目をして窓の外を見ていた。
「ん……? アレは何だ?」
王宮の近くにある時計塔から、何か紙切れのような白い物が大量に舞い散っているのを目にしたアルフォンスは、訝しげに呟いた。
「誰かが、ビラでも撒いているのでしょうか?」
「ビラ、か……」
側近の一人が何気無く口にした言葉だったが、それが何故だか妙にアルフォンスの心に引っ掛かった。
所謂、『嫌な予感』とでも言うヤツだろうか。
そして、その予感は見事に的中してしまう。
数分後、先程とは違う文官が、執務室に駆け込んで来た。
両手に大量の白い紙を抱えて。
「アルフォンス殿下、大変ですっっ!!」
「今度は何だっ!?」
執務机の前で、処理しても処理しても減らない大量の書類に埋もれていたアルフォンスは、うんざりしながら顔を上げた。
「こんな物がっ、王都の街中にばら撒かれて……っ!!」
その文官は、抱えていた紙の内の一枚を、震える手で差し出す。
そこにはビッシリと文字が書かれていた。
その内容とは───、
『王家と教会の闇 筆頭聖女は何故冤罪を着せられたのか!?』
と言う、センセーショナルな見出しの後に、夜会でアルフォンスとステファニーがミシェルに行った婚約破棄の顛末が、まるで見て来たかの様に事細かに記されていた。
「誰がこんな物を……。
それに、冤罪って…、一体どう言う事なんだ?」
肝心の冤罪について、そのビラには具体的な記述が無く、『冤罪の詳細については、次号を待て!』と締め括られていた。
(次号って何だ? まだこんな物を撒き散らすつもりなのか?)
怒りに任せてグシャッとビラを握り潰したアルフォンスの手は、微かに震えている。
「ただの悪戯でしょう。冤罪なんて、そんなはずは無いですよ」
と、鼻で笑った側近は、『婚約破棄をするにあたってミシェルを調査せよ』とアルフォンスに命じられて、関係者の証言を集めた者だった。
教会関係者達は『ミシェル様はとても素晴らしい方ですよ』と口を揃えたが、それは筆頭聖女の肩書きを持つ彼女を庇っているのだと判断された。
何故なら聖女達は全く逆の証言をしたからだ。
彼女達は口々にミシェルの横暴と怠慢を証言した。
美しい聖女達が涙ながらに訴えるその姿を見れば、とても嘘をついているとは思えなかった。
だから、彼は、自分の調査に間違いは無いと確信を持っていたのだ。
「……そうか。そう、だよな?」
アルフォンスは自分に言い聞かせる様に、強く頷いた。
胸の奥からどんどん湧いて来る嫌な予感から、必死で目を逸らして。
王太子の執務室に駆け込んで来た文官が、泣きそうな声で報告した。
「感染者を医務室に運べ。
濃厚接触者は、二日間、東の塔で隔離だ」
「医務室はもう一杯です」
「あ゛ーーー、では、東の塔の一部の部屋を、感染者が療養出来る様に整えろ」
「それではまだ感染していない濃厚接触者の感染確率が高くなってしまうのでは?」
文官の意見は尤もなのだが、余裕のないアルフォンスは苛立ちを隠せず、執務机をドンッと拳で叩いた。
その大きな音に、文官は肩を震わせる。
「……ではどうしろと言うのだ?
こんな事態は初めてなのだから、手探りでやっていくしか無いだろう。
それから、財務部に他の部署から人員を補充しろ」
こんな遣り方では益々感染が広がりそうである。しかも、簡単に人員の補充などと言うが、今はどこの部署も人手不足なのだ。
杜撰な対策に不信感を持ちながらも、文句を言ってる暇も惜しい。
「……はい」
渋々ながらも頷き、文官は慌てて駆け出して行った。
その後ろ姿を見送ったアルフォンスは、眉間を揉み解しながら深く重い溜息を吐き出した。
同盟国でも一月ほど前に流行したこの病は、その国から帰国した外交官がこちらに持ち込んでしまった物らしい。
感染しても命の危険はほぼ無いというのは不幸中の幸いだったが、感染力は非常に強く、喉が腫れ上がり高熱が二週間以上も続く。
既に王宮で働く者の半数近くが感染し、アルフォンスの父である国王も、昨日ついに倒れた。
王宮内の仕事が回らず、国の運営が麻痺しつつある。
市井にも少しずつ感染者が出始めているらしく、民の不満は爆発寸前だ。
アルフォンスも対応に追われており、もう四日くらい、まともに眠れていない。
食事をする時間すら惜しいくらいに忙しいのだ。
(ミシェルに婚約破棄を宣言し、聖女をクビにしてから、全てが上手く行かない……)
一体どこで間違ってしまったのか?
アルフォンスは遠い目をして窓の外を見ていた。
「ん……? アレは何だ?」
王宮の近くにある時計塔から、何か紙切れのような白い物が大量に舞い散っているのを目にしたアルフォンスは、訝しげに呟いた。
「誰かが、ビラでも撒いているのでしょうか?」
「ビラ、か……」
側近の一人が何気無く口にした言葉だったが、それが何故だか妙にアルフォンスの心に引っ掛かった。
所謂、『嫌な予感』とでも言うヤツだろうか。
そして、その予感は見事に的中してしまう。
数分後、先程とは違う文官が、執務室に駆け込んで来た。
両手に大量の白い紙を抱えて。
「アルフォンス殿下、大変ですっっ!!」
「今度は何だっ!?」
執務机の前で、処理しても処理しても減らない大量の書類に埋もれていたアルフォンスは、うんざりしながら顔を上げた。
「こんな物がっ、王都の街中にばら撒かれて……っ!!」
その文官は、抱えていた紙の内の一枚を、震える手で差し出す。
そこにはビッシリと文字が書かれていた。
その内容とは───、
『王家と教会の闇 筆頭聖女は何故冤罪を着せられたのか!?』
と言う、センセーショナルな見出しの後に、夜会でアルフォンスとステファニーがミシェルに行った婚約破棄の顛末が、まるで見て来たかの様に事細かに記されていた。
「誰がこんな物を……。
それに、冤罪って…、一体どう言う事なんだ?」
肝心の冤罪について、そのビラには具体的な記述が無く、『冤罪の詳細については、次号を待て!』と締め括られていた。
(次号って何だ? まだこんな物を撒き散らすつもりなのか?)
怒りに任せてグシャッとビラを握り潰したアルフォンスの手は、微かに震えている。
「ただの悪戯でしょう。冤罪なんて、そんなはずは無いですよ」
と、鼻で笑った側近は、『婚約破棄をするにあたってミシェルを調査せよ』とアルフォンスに命じられて、関係者の証言を集めた者だった。
教会関係者達は『ミシェル様はとても素晴らしい方ですよ』と口を揃えたが、それは筆頭聖女の肩書きを持つ彼女を庇っているのだと判断された。
何故なら聖女達は全く逆の証言をしたからだ。
彼女達は口々にミシェルの横暴と怠慢を証言した。
美しい聖女達が涙ながらに訴えるその姿を見れば、とても嘘をついているとは思えなかった。
だから、彼は、自分の調査に間違いは無いと確信を持っていたのだ。
「……そうか。そう、だよな?」
アルフォンスは自分に言い聞かせる様に、強く頷いた。
胸の奥からどんどん湧いて来る嫌な予感から、必死で目を逸らして。
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