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22 そっくりな笑顔
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ジェレミーが退室した後、そろそろ私も部屋に下がろうかと思って席を立つと、旦那様に呼び止められた。
「今日は、ジェレミーの我儘に付き合わせて悪かったな」
「?」
(何の事だろうか? 一緒に食事した事?)
と、考えている私に、旦那様は答えをくれた。
「さっきのエスコートの件だよ」
「ああ、問題ありません。私は治癒魔法が使えますから」
「あぁ、やっぱり、あの体勢は辛かったんだな。
フッ……。いや、済まない。
歩きにくそうにしている君と、誇らしげな顔をしたジェレミーの対比が面白くって、つい……フハッ……」
「もうっ! ジェレミーは真剣なのだから、笑わないで下さいよ」
「あははっ。…あ、いや、本当に済まない。
今度からは断ってくれても良いぞ。
振られるのもまた社会勉強だ」
(旦那様って……、こんな風に笑う事もあるのね)
今迄も微かな笑みくらいは見た事があったけど、基本は無表情だった。
こんなに楽しそうに笑う旦那様は初めて見る。
元々ジェレミーと旦那様の顔立ちはよく似ているけれど、笑うと益々そっくりで、勝手に親近感を抱いてしまいそうになる。
「断りませんよ。アレはアレで、私も楽しんでいたのですから」
大人の真似をして紳士的に振る舞おうと頑張るジェレミーは、身悶えするほど可愛らしかった。
「それなら良いが…。
あの子にあんまり気を遣い過ぎないで良いからな」
「それは勿論です。ダメな事はダメってちゃんと言いますよ」
可愛い子だからこそ、心を鬼にして。
グッと拳を握って、決意を新たにする。
とは言え、ジェレミーは良い子なので、私が叱らなきゃいけない場面はあまり無いと思うのだけど。
「ああ、多分君はそういう人なんだろう」
そう言った旦那様は、柔らかく微笑みながら私を見た。
いつもはジェレミーにしか向けないような、優しい眼差しを向けられて、少し……、
ほんの少しだけ、ときめいてしまった事は、私だけの秘密だ。
翌朝、フィルマンに呼ばれて、チェルシーと共に応接室を訪れると、二人の若い女性が待機していた。
私が入室したのを見て、二人は慌てて席を立ち、カテーシーをした。
「今日から働いて貰う、シルヴィ・バローとペネロープ・ブリュネです。
お二人共、デュドヴァン家の縁者になります」
フィルマンに紹介された二人は、私に挨拶をした。
「「よろしくお願い致します。奥様」」
「ええ、こちらこそ」
シルヴィはデュドヴァン家の遠縁のバロー子爵家の三女で、ペネロープは商家に嫁いだ旦那様の従姉の娘だそうだ。
二人共、十八歳だそうで、まだ少し幼さが残る顔立ちが可愛らしい。
シルヴィは快活で、人懐っこそうなタイプ。
ペネロープは、大人しいけど、しっかりしていそうなタイプだ。
「シルヴィの教育係は、こちらのチェルシーです。
本日は奥様のお世話を担当して頂きます。
ペネロープはグレースが教育係です。
今の時間ですと、ランドリールームにいると思いますので、私が案内しましょう」
フィルマンとペネロープは辞去の挨拶をして部屋を出た。
「よろしくお願いします、チェルシー先輩」
シルヴィは、張り切った様子でチェルシーに声を掛けた。
「『先輩』は、やめてくれる?」
「分かりました、チェルシーさん。
先ずは、何をしましょう?」
「今日はお天気が良いから、午前中は庭園を散歩しようと思っているの。
あ、でもその前に、騎士団の方に少しだけ顔を出します。
午後は義息子の服を作る為に仕立て屋が来るから、その立ち合いをする予定よ」
私が今日のスケジュールを伝えると、シルヴィは「はいっ」と元気に答えた。
「奥様が建物の外に出る時は、敷地内であっても出来るだけ護衛を帯同させてね。
邸内の案内は受けたかしら?」
「はい、大体覚えました」
「じゃあ、騎士の待機部屋に行って、今の時間だとレオって騎士が休憩してるはずだから、呼んで来てくれる?」
「かしこまりました」
ペコリと頭を下げて部屋を出るシルヴィだが、足を向けたのは騎士の待機部屋とは反対の方向だった。
「そっちじゃないっ!!」
チェルシーが慌てて引き留め、道順を簡単に説明している。
シルヴィは、ちょっと抜けているみたい。
大丈夫かしら?
「今日は、ジェレミーの我儘に付き合わせて悪かったな」
「?」
(何の事だろうか? 一緒に食事した事?)
と、考えている私に、旦那様は答えをくれた。
「さっきのエスコートの件だよ」
「ああ、問題ありません。私は治癒魔法が使えますから」
「あぁ、やっぱり、あの体勢は辛かったんだな。
フッ……。いや、済まない。
歩きにくそうにしている君と、誇らしげな顔をしたジェレミーの対比が面白くって、つい……フハッ……」
「もうっ! ジェレミーは真剣なのだから、笑わないで下さいよ」
「あははっ。…あ、いや、本当に済まない。
今度からは断ってくれても良いぞ。
振られるのもまた社会勉強だ」
(旦那様って……、こんな風に笑う事もあるのね)
今迄も微かな笑みくらいは見た事があったけど、基本は無表情だった。
こんなに楽しそうに笑う旦那様は初めて見る。
元々ジェレミーと旦那様の顔立ちはよく似ているけれど、笑うと益々そっくりで、勝手に親近感を抱いてしまいそうになる。
「断りませんよ。アレはアレで、私も楽しんでいたのですから」
大人の真似をして紳士的に振る舞おうと頑張るジェレミーは、身悶えするほど可愛らしかった。
「それなら良いが…。
あの子にあんまり気を遣い過ぎないで良いからな」
「それは勿論です。ダメな事はダメってちゃんと言いますよ」
可愛い子だからこそ、心を鬼にして。
グッと拳を握って、決意を新たにする。
とは言え、ジェレミーは良い子なので、私が叱らなきゃいけない場面はあまり無いと思うのだけど。
「ああ、多分君はそういう人なんだろう」
そう言った旦那様は、柔らかく微笑みながら私を見た。
いつもはジェレミーにしか向けないような、優しい眼差しを向けられて、少し……、
ほんの少しだけ、ときめいてしまった事は、私だけの秘密だ。
翌朝、フィルマンに呼ばれて、チェルシーと共に応接室を訪れると、二人の若い女性が待機していた。
私が入室したのを見て、二人は慌てて席を立ち、カテーシーをした。
「今日から働いて貰う、シルヴィ・バローとペネロープ・ブリュネです。
お二人共、デュドヴァン家の縁者になります」
フィルマンに紹介された二人は、私に挨拶をした。
「「よろしくお願い致します。奥様」」
「ええ、こちらこそ」
シルヴィはデュドヴァン家の遠縁のバロー子爵家の三女で、ペネロープは商家に嫁いだ旦那様の従姉の娘だそうだ。
二人共、十八歳だそうで、まだ少し幼さが残る顔立ちが可愛らしい。
シルヴィは快活で、人懐っこそうなタイプ。
ペネロープは、大人しいけど、しっかりしていそうなタイプだ。
「シルヴィの教育係は、こちらのチェルシーです。
本日は奥様のお世話を担当して頂きます。
ペネロープはグレースが教育係です。
今の時間ですと、ランドリールームにいると思いますので、私が案内しましょう」
フィルマンとペネロープは辞去の挨拶をして部屋を出た。
「よろしくお願いします、チェルシー先輩」
シルヴィは、張り切った様子でチェルシーに声を掛けた。
「『先輩』は、やめてくれる?」
「分かりました、チェルシーさん。
先ずは、何をしましょう?」
「今日はお天気が良いから、午前中は庭園を散歩しようと思っているの。
あ、でもその前に、騎士団の方に少しだけ顔を出します。
午後は義息子の服を作る為に仕立て屋が来るから、その立ち合いをする予定よ」
私が今日のスケジュールを伝えると、シルヴィは「はいっ」と元気に答えた。
「奥様が建物の外に出る時は、敷地内であっても出来るだけ護衛を帯同させてね。
邸内の案内は受けたかしら?」
「はい、大体覚えました」
「じゃあ、騎士の待機部屋に行って、今の時間だとレオって騎士が休憩してるはずだから、呼んで来てくれる?」
「かしこまりました」
ペコリと頭を下げて部屋を出るシルヴィだが、足を向けたのは騎士の待機部屋とは反対の方向だった。
「そっちじゃないっ!!」
チェルシーが慌てて引き留め、道順を簡単に説明している。
シルヴィは、ちょっと抜けているみたい。
大丈夫かしら?
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