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18 次々に降りかかる災難
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『貴殿らの婚姻に関する王命を撤回する。
貴殿の婚約者である、ミシェル・シャヴァリエ嬢と速やかに婚約を解消し、早急に彼女を登城させる様に』
デュドヴァン侯爵宛てに届けさせた書状に対する返信に、国王は頭を抱えていた。
『ふざけているのか?
ミシェルと私は王命に従って、既に入籍を済ませている。
そちらの要求の通りに婚姻をしたのに、今更私の妻をそちらへ返せとは、我々を馬鹿にしているとしか思えない。
我々は王家の玩具ではない。厳重に抗議する』
要約すればそういった内容だが、何とも回りくどく、慇懃無礼な表現で綴られていた。
この反応は、国王にとっては完全に誤算であった。
デュドヴァン侯爵は、『好色侯爵』などと影で呼ばれているが、その渾名が真実だったのは先代迄の事。
当代の侯爵であるクリストフは、極度の女嫌いであると、国王は気付いていたのだ。
だからこそ、ミシェルの仮の嫁ぎ先として、かの侯爵家を選んだ。
デュドヴァン侯爵家はそこそこの権力を持っているが、流石に王命には逆らわないだろう。
だが、女嫌いの彼が、ミシェルを本当の意味で妻として扱う事は無い。
おそらくは、白い結婚になる。
それならば、この国の法律によって、婚姻無効の手続きが可能であり、ほとぼりが冷めた頃に再度アルフォンスとの縁を結び直させる事が出来る。
デュドヴァン侯爵も、名ばかりで疎ましい存在であるはずの妻を、王家に『差し出せ』と言われれば、良い厄介払いになると喜んで送り返して来るだろう。
───そう予想していたのだが。
実際には、それとは正反対の反応が返って来た。
(いや、時期が悪かったのかも知れない)
流石に命令に従って入籍をした直後に、『やっぱり返せ』と言われれば、腹も立つだろう。
いくら厄介者の妻であっても。
ミシェルが居なくなった途端に問題が起き始めたから、つい焦って行動を起こしてしまった事が敗因かも知れない。
ならば、当初の計画通り、少しほとぼりが冷めるまで、一、二年時間を空けて、再度要求してみよう。
それまでなんとか、持ち堪える事が出来れば……。
───バンッッ!!!
執務机に向かって考えを巡らせていると、部屋の扉が突然勢い良く開いた。
「な、なんだ貴様っ!
ノックもせずに扉を開けるとは、不敬ではないかっっ!!」
国王の執務室に飛び込んで来たのは、側近の一人だった。
「陛下っ、そんな事を言っている場合ではございませんっ!!
王宮内に、感染症の症状を訴える者が多発しております!!」
「感染症だと? そんな物、サッサと治癒魔法で……」
「お忘れですかっ!?
現在、聖女達の魔力は結界の維持に全て費やされています。
治癒魔法の使用は不可能ですっっ!!」
「そ、そうであったな……。
あ゛ぁ…、一体何故、こんなにも問題が続けざまに起きるのだっ!?」
苛立ちのあまりガリガリと頭を掻き毟ると、国王の目の前にパラッと自身の髪が落ちて来た。
最近急激に薄くなってしまった彼の頭髪は、どんどん減って行くばかり。
その頃シャヴァリエ邸では、辺境伯夫妻が黒い笑みを浮かべながら、新聞を読んでいた。
ここ数日は毎日、王都の窮状や王家と聖女の失態が、新聞の一面を飾っている。
それを二人で読むのが、最近の夫婦の楽しみだ。
「こちらが手出しせずとも、勝手に自滅していきますわね」
「ああ。だが、それではちとつまらんな」
「ええ。ですから、私達もそろそろ少し動きませんか?」
「うむ。問題はどう動くか…。
サクッと殺ってしまうのも良いが、うちの娘は優しいから嫌がるかも知れないしなぁ」
歳を取っても変わらぬ美貌の二人が微笑み合う姿は美しいが、その会話の内容は途轍もなく不穏だ。
「そうですわね。
ミシェルにドン引きされてしまったら悲しいもの。
では、社会的な方向で、ジワジワと……」
「ああ、そうしよう」
「ウフフ」
「ハハハ」
やはり、この夫婦だけは、怒らせるべきではない。
貴殿の婚約者である、ミシェル・シャヴァリエ嬢と速やかに婚約を解消し、早急に彼女を登城させる様に』
デュドヴァン侯爵宛てに届けさせた書状に対する返信に、国王は頭を抱えていた。
『ふざけているのか?
ミシェルと私は王命に従って、既に入籍を済ませている。
そちらの要求の通りに婚姻をしたのに、今更私の妻をそちらへ返せとは、我々を馬鹿にしているとしか思えない。
我々は王家の玩具ではない。厳重に抗議する』
要約すればそういった内容だが、何とも回りくどく、慇懃無礼な表現で綴られていた。
この反応は、国王にとっては完全に誤算であった。
デュドヴァン侯爵は、『好色侯爵』などと影で呼ばれているが、その渾名が真実だったのは先代迄の事。
当代の侯爵であるクリストフは、極度の女嫌いであると、国王は気付いていたのだ。
だからこそ、ミシェルの仮の嫁ぎ先として、かの侯爵家を選んだ。
デュドヴァン侯爵家はそこそこの権力を持っているが、流石に王命には逆らわないだろう。
だが、女嫌いの彼が、ミシェルを本当の意味で妻として扱う事は無い。
おそらくは、白い結婚になる。
それならば、この国の法律によって、婚姻無効の手続きが可能であり、ほとぼりが冷めた頃に再度アルフォンスとの縁を結び直させる事が出来る。
デュドヴァン侯爵も、名ばかりで疎ましい存在であるはずの妻を、王家に『差し出せ』と言われれば、良い厄介払いになると喜んで送り返して来るだろう。
───そう予想していたのだが。
実際には、それとは正反対の反応が返って来た。
(いや、時期が悪かったのかも知れない)
流石に命令に従って入籍をした直後に、『やっぱり返せ』と言われれば、腹も立つだろう。
いくら厄介者の妻であっても。
ミシェルが居なくなった途端に問題が起き始めたから、つい焦って行動を起こしてしまった事が敗因かも知れない。
ならば、当初の計画通り、少しほとぼりが冷めるまで、一、二年時間を空けて、再度要求してみよう。
それまでなんとか、持ち堪える事が出来れば……。
───バンッッ!!!
執務机に向かって考えを巡らせていると、部屋の扉が突然勢い良く開いた。
「な、なんだ貴様っ!
ノックもせずに扉を開けるとは、不敬ではないかっっ!!」
国王の執務室に飛び込んで来たのは、側近の一人だった。
「陛下っ、そんな事を言っている場合ではございませんっ!!
王宮内に、感染症の症状を訴える者が多発しております!!」
「感染症だと? そんな物、サッサと治癒魔法で……」
「お忘れですかっ!?
現在、聖女達の魔力は結界の維持に全て費やされています。
治癒魔法の使用は不可能ですっっ!!」
「そ、そうであったな……。
あ゛ぁ…、一体何故、こんなにも問題が続けざまに起きるのだっ!?」
苛立ちのあまりガリガリと頭を掻き毟ると、国王の目の前にパラッと自身の髪が落ちて来た。
最近急激に薄くなってしまった彼の頭髪は、どんどん減って行くばかり。
その頃シャヴァリエ邸では、辺境伯夫妻が黒い笑みを浮かべながら、新聞を読んでいた。
ここ数日は毎日、王都の窮状や王家と聖女の失態が、新聞の一面を飾っている。
それを二人で読むのが、最近の夫婦の楽しみだ。
「こちらが手出しせずとも、勝手に自滅していきますわね」
「ああ。だが、それではちとつまらんな」
「ええ。ですから、私達もそろそろ少し動きませんか?」
「うむ。問題はどう動くか…。
サクッと殺ってしまうのも良いが、うちの娘は優しいから嫌がるかも知れないしなぁ」
歳を取っても変わらぬ美貌の二人が微笑み合う姿は美しいが、その会話の内容は途轍もなく不穏だ。
「そうですわね。
ミシェルにドン引きされてしまったら悲しいもの。
では、社会的な方向で、ジワジワと……」
「ああ、そうしよう」
「ウフフ」
「ハハハ」
やはり、この夫婦だけは、怒らせるべきではない。
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