赤い風船

赤い風船

ある男性が亡くなった。
会社で手酷いモラハラを受け、飛び込み自殺をしたそうだ。
一時期は話題になったが、ごまんとある自殺者のニュースの中に埋もれていった。
そのニュースが忘れられたころ、黒い服をきて、ピエロのようにべったりと真っ赤に唇を塗った女が電車のホームに立つようになった。
「恨む恨む恨む…。」
か細い声で女は、ニヤニヤ笑いながら、恨むと繰り返しいう。
みな気味悪がった。
遂に警察に通報された。
「恨む恨む恨む。」
女はそれしか言えない。
「奥さん、それやめてください。」
詳しく調べていくと、彼女は電車に飛び込み自殺をした男性の妻だった。
可愛いらしい顔をした花嫁姿の彼女の写真。隣で恥ずかしそうに笑う亡くなった男性。
結婚3年目にして子供にも恵まれた。
その折に、彼女の大好きだったおばあさんが癌になってしまった。保険には入っていなかった。
金がいる。
どうしても。
モラハラをマスコミにばらさない代わりに、でっぷりと太った社長は、おばあさんの治療費をいくらでも出すといった。
毎日、社長のオフィスにそれでもあなたの血も赤いのですか？と書かれた手紙と、赤い風船が届く。
毎日毎日毎日。
差出人は彼女、モラハラをしたのは社長。
毎日毎日毎日毎日、赤い風船は、届く。
オフィスが赤い風船で埋まる頃、社長は、ビルから飛び降りた。
「恨む恨む恨む。」
その声が、聞こえる。