コンビーフとニガウリ炒め

うわさ

おじさんと私は2人して黙っていた。
「村田のおじさん、言いたいこと言うよね。」
「いやぁ心配してくれたんよ。」
まこにぃは苦しそうに笑った。
「うちの整体院にようきてくれてる。」
「漁師さんしよる？まだ？」
「いやぁ。しらん。」
昔のロックが薄く流れた。
私は青い海をぼーっと見た。
「じぃじやったら怒ってるんに。」
「いかんよ、けんか。」
「あっ、茜の家だ！」
「あんた、茜にあうと皆から嫌われるよー。」
「えい！下ろして！」
私は車を降りると、真っ直ぐに、茜の家に入った。
ここでは親しい人の家にはすぐ上がっていいんである。
「おう。」
「あかねー、げんき？」
「俺に会うと、皆から嫌われる。」
「いいんよ、いわしとけいわしとけ。」
茜は、バーをやっている。
おかまバーだ。
なかなか盛況で観光客が多いこの村では、茜はお金持ちの部類だ。
茜は黒いTシャツに、ジーパンでいつもいる。
「あんた若いね。」
「いやだぁ、俺も同じ30よ。サーティよ。」
カクテルをカチャカチャ混ぜると、はいっと私の前に置いた。
「梅の味がする！」
酸っぱくて美味しいカクテルを流し込む。
海から上がったからだに染み渡る。
「疲労には梅！つけたのー。」
カリカリと梅を齧る。
青梅をあまじょっぱくつけたやつは進む。
「あかねー、彼氏は？」
「それがさ。」
茜も梅を食べたみたいな顔をする。
酸っぱくて苦しい顔。
「俺、紀文さんに言い寄られてんだけど？いい迷惑！俺は皆のものっていって。」
私と茜は揃って笑った。
「紀文おじさん、昔は漫画が売れとったんに。」
紀文おじさんは今でもヘタウマなイラストを描いてよく遊んでいる。
「あんたよく自慢しよったね。」
「あんまり人生飛ばさないことよな。」
「ねー。」
2人でファミコンで遊んでいた頃に帰ったみたいだ。
この村では、すぐに時間が巻き戻る。
「あのさぁ、紀文さん病院つれてってよ。私おかまバーやってるから、あんたのばーさん私きらいやし。」
「私もどうしたもんかとね。」
紀文おじさん。
優しいおじさんだった。
漫画をよく貸してくれていつまでも子供のような人だった。
「なんだかな。」
私は自分の声がタバコで掠れていることに、気がついた。