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インセスト~ヘンゼルとグレーテルによる悲喜劇~
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しおりを挟む「椛、無事なんだろうな。変な薬使ってあんなことになってたけど」
夜になり、部屋で待機を命じられていたヘンゼルは、ヴィクトールが入ってくるなり目も合わせることなく問う。抑揚のないその声からは、明確な拒絶の意思が現れていた。その理由を察した――いや、そうなることを予想していたヴィクトールは、動じることなく答える。
「無事さ。さっき目を覚ましたと報告をうけた。しばらくショーにはでない」
「そう」
ヴィクトールがベッドに座るヘンゼルの隣についても、ヘンゼルは顔を合わせようとしない。
「さっさとしろよ」
「え?」
「セックスするんじゃないの」
「……っ!」
俯きながらヘンゼルが発した言葉に、ヴィクトールは酷く動揺した。初めてヘンゼルから誘ってきたというのに、彼との距離は今までで一番遠いような気がした。……当たり前だ。彼はあのサーカスをみたのだから。
ヘンゼルはサーカスをみて、ヴィクトールがこのトロイメライ――見世物小屋の団長だということを、改めて知った。それまでトロイメライが見世物小屋だということは知っていても、あのような下劣なショーをする組織だとは知らなかった。改造人間をみた時点では、ただ自分へ降りかかる脅威に怯えるばかりでその組織の卑劣さを感じることはあまりなかった。だから、ヴィクトールをそこまで嫌悪することはなかった。むしろ、強い恐怖を感じたあとにあそこまで優しくされて、心を開きかけてしまった。
「ヘンゼルくん、」
「ドールになるには? どうすればいい? 俺が自分から誘えばいいか、俺がノリノリでケツ振ればいいか、どんなセックスすれば満足する! 言えよ、その通りにやってやるよ!」
こんな下衆に、心を開こうとしてしまった自分が憎たらしい。
しかし、どんなにヴィクトールへの嫌悪が募っても、ドールにならなければ椛は救えない。ヴィクトールに抱かれることは避けられない。状況は変わらない。ヘンゼルはもはやヤケになってヴィクトールに迫ったのだった。
「……ヘンゼルくん、君は、」
……こうなることはわかっていたが。ハッキリと拒絶の意思をみせられて、どこか、胸が痛んだのを感じ、ヴィクトールは戸惑う。ドールから恨みを買うことなんて、日常茶飯事、今更傷つくことなんてないはずなのに。
「君はなにもしないで」
それなのに、これ以上ヘンゼルから拒絶されるのは怖かった。そんな自分の心を知ってゆくのも怖かった。ならば、
(僕の気持ちを、ただ受け止めてくれよ)
拒絶の隙なんて、あたえない。
「……っ」
「ヘンゼルくん、まずは挿れられることだけに慣れればいいから」
「あっ……」
ヴィクトールはヘンゼルをうつ伏せに押し倒す。そして、服を脱がせてやると、臀部を持ち上げた。ヘンゼルは抵抗もせず、ただシーツを握りしめてこの行為の終わりを待っている。
「……もうちょっと、力を抜いて。痛いことはしないから」
「……」
「うん、そう……いい子」
手の甲が白くなるほどに力をこめてシーツを握りしめていた手から、力が抜ける。それを確認すると、ヴィクトールはヘンゼルの全身を撫で始めた。手のひらをつかって、腹部から鳩尾を辿り、胸元へ。ゆっくりと胸部を円を描くように撫で回すと、わずかにヘンゼルの身体が跳ねる。
「ここも……感じるようにならなくちゃね」
「……どうやって」
「覚えるんだよ、ここが気持ちいいところだって」
そう言ってヴィクトールはヘンゼルの背中に唇を寄せた。ヘンゼルの性感帯である、肩甲骨にキスを落とす。音を立てながらキスを繰り返し、指先で乳首を弄んだ。
「あっ……、ん、……ッ、は、」
やはりヘンゼルは肩甲骨がだいぶ弱いらしく、ヴィクトールがそこにキスを始めると早々に身体を揺らし始めた。吐息を徐々に荒げていき、時折甘い声が漏れ出してしまう。
「……う、ッ」
背中にヴィクトールの唇を感じるたびに、ゾクゾクと甘い電流のようなものが全身に走る。微かな彼の吐息が耳を掠めるたびに、身体の芯が熱くなってゆく。
ああ、煩わしい。
たしかにトロイメライの悪行には吐き気を催す程の嫌悪感を覚えていて、その頭であるヴィクトールは許せないと思っているのに。こうして触れられると、どうにも心が揺らぐ。もっと触れて欲しいと思う。相反する二つの感情が放つ火花が、鬱陶しい。
「……は、ぁッ、」
「ヘンゼルくん、」
「……呼ぶな! 俺の名前、呼ぶな……」
「……っ」
「おまえは、ただ……俺の身体弄ってればいいんだよ、名前を呼ぶ必要なんてないだろ!」
これ以上、心を揺らさないで。
「……あっ……!」
ゾク、頭の中が真っ白になる。シーツに額を押し付け、歯を食いしばり、与えられる刺激に必死に耐え、そうしている間にも全身が熱くなってくる。そうだ、こうして無理やり快楽を与えられているから心も引っ張られているだけ、ただの人間としての本能だ、ヴィクトールに触れてほしいなんて、そんなわけがない……誰が相手だって、きっと……
「……ヘンゼルくん」
「……っ、呼ぶなって……」
「どうして」
「不快だからだよ! おまえに名前を呼ばれると……胸が苦しくなる」
「……ヘンゼルくん」
「うっ、」
「こっちを見て言って……僕の目をみて」
ぐい、と頭を掴まれて無理やり振り向かされた。首が痛い、そんな文句を与える隙も与えてくれない。……いや、隙があったとしても、そんな言葉はでてこない。その紅い瞳と目が合った瞬間――ヘンゼルは何も考えられなくなってしまったから。
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