アリスドラッグ

うめこ

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インセスト~ヘンゼルとグレーテルによる悲喜劇~

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「ねえ、ヘンゼルくん……大丈夫?」


 部屋をでて、少し暗い廊下を歩く。悠々と歩くヴィクトールの腕にしがみつくようにしてなんとか歩いているヘンゼルは誰がみても「変」だった。覚束ない足取りで、息を荒げ、ヴィクトールの肩に頭をあずけるようにしてふらふらと歩く。


「「止めて」あげてもいいよ?」

「……い、いい……!」

「ふうん、じゃあ「強く」してあげるね」

「……ッ!? あっ……あぁあっ!」


 がくん、とヘンゼルはその場に座り込んだ。そんなヘンゼルの様子をみてヴィクトールはにやにやと笑っている。


「あれ? 全然大丈夫ってさっき言ってたよね? お尻にバイブ挿れたくらいどうってことないんでしょ?」

「ひっ……ん、あぁっ……」

「もしかして、気持ちいいの?」

「ち、ちが……っ」

「じゃあ、立ちなよ。そして歩いて」


 ――シャワーからあがったヘンゼルを待ち構えていたのは、とあるヴィクトールの命令。『バイブを挿れた状態で「ホール」までいくこと』。まだ後ろに挿れられることに慣れていないヘンゼルに用意されたのは、指二本ほどの太さの遠隔操作を可能とするバイブだった。それをシャワーからあがるなり挿れられ、更にはコックリングも装着され、今この状況にあるのだ。

 歩こうとしても、踏み込んだ振動でバイブがイイところにあたってふらつく。常に微弱な刺激が中を満たしていて目眩がする。ヴィクトールにしがみついていなければ、まともに歩くことなどできなかった。


「僕、急いでいるんだよね。早く立って。ヘンゼルくん」

「ふ、……ぁ、あ……ま、って……でも、……」

「何? 気持ちよすぎて立てない? どうなの?」

「……う、や、ぁあ……き、もち……あぁあっ」

「聞こえない。あっ、もしかしてもっと強くしていいって言った?」

「ちっ、……ちがっ……あっ、……あぁあああッ!」

 ヴィクトールがバイブのスイッチをMAXまであげる。ビクビクと体を体を震わせてイッてしまったヘンゼルの目線に合わせて座り込んだヴィクトールは、へら、と笑ってみせた。


「止めて欲しい?」


 意地悪くそういったヴィクトールを、ヘンゼルは涙目で見上げた。そして震える手でヴィクトールのシャツを掴み、こくこくと頷いてスイッチを切って欲しいと懇願する。


「……そ、じゃあそれなりのお願いの仕方をしてよ」

「……おね、がい……?」

「キスして。キミから」


 ヴィクトールの手が、ヘンゼルの頬に添えられる。黒髪を梳いてやれば、ヘンゼルはぎゅっと目を閉じた。親指で唇を撫でてやれば、その唇が震える。


「……」


 目を眇め、ヴィクトールは「さあ、」、挑発してみせた。ヘンゼルはきゅっと悔しそうに眉を寄せたが、やがて諦めたように目を閉じた。快楽に頬を染め、涙に睫毛を濡らしたその顔は色香を放つ。ふらふらと膝立ちになり、未だ止まらないバイブの刺激に幽かな甘い声を洩らしながら、なんとかヴィクトールの肩に手を添える。そして、口づける。

 触れるだけのキスだった。「これでいいの?」、そんな風に見上げてくるヘンゼルに、ヴィクトールの中の嗜虐心がふつふつとこみあげてくる。


「んっ……!?」


 堪らず、ヴィクトールはヘンゼルに噛みつくようなキスをした。乱暴に後頭部を掴み、無理やり彼を引き寄せる。

  ヘンゼルに覆いかぶさるようにして、ヴィクトールはその唇を貪った。力が抜けてくたりとした彼の身体を乱暴に掻き抱いて、欲望をぶつけるようなキスをした。


「んんっ、ン、ふ、」


 唇をなぞるように舌を這わせれば、素直にそこを開いてくれる。彼は随分と快楽に弱いようだ。ヴィクトールは心の中で笑う。今まで極端に性から逃げてきた彼は、こうして無理やり快楽を与えられても抵抗の術を知らないのだろう。

 そうした横暴な口付けは、ヘンゼルの身体を震わせる。下から這い上がってくる甘美な波がヘンゼルの防御を一気に弱めてしまった。ヴィクトールの舌の進入をあっさりと許してしまったあとは、もう、されるがままだった。


「あ、あっ……ぁあ」


 唾液が唇の端から伝う。こぼれる吐息の熱さに視界が眩む。舌と舌を絡められれば境界線が解けたように、熱が交わってゆく。


「……ヘンゼルくん、」

「……ん、」

「目、あけて」


 自分という存在を、この快楽とともに焼き付けてやりたい。ヴィクトールは疼く欲望を口にする。

 ゆっくりと、その瞼がひらく。濡れた睫毛がきらきらと、その下に浮かぶ漆黒の瞳がゆらゆらと。

ああ、綺麗だ。心をとらえやるつもりが、囚われそうだ。再び唇を重ね、そんなことを思う。


「ん、んっ……」


 ヴィクトールがそんな揺らめく想いに駆られているなかで、ヘンゼルの心にも変化は生まれていた。初めてみたときに、悪魔のようだと思ったその赤い瞳。それに見つめられると、おかしくなってしまいそうになる。ぞくぞくと、熱い波が全身に襲い来る。

 ……もう、だめかもしれない。


「は、ぁあっ……」


 勝手にこぼれてくる甘い声。これは本当に自分のものなのだろうか。もうどうでもいい。全身がふわふわとして気持ちいい。水音に頭の中を満たされて、わけがわからなくなってくる。


「ん、ん……」

「……」


 とろりとした眼差しで自分を見つめてくるヘンゼルに、ヴィクトールの理性もそろそろ限界になっていた。予想外に目に悪い。くらりと眩暈を覚える。こんな声を、自分を見つめてあげているのかと思うと、きゅ、と心臓が苦しくなった。


「……!」


 そのとき、ヘンゼルがヴィクトールの背に手を回してくる。これにはさすがにヴィクトールも驚いてしまう。

 
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