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第十章:その弱さを知ったとき

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 ――目の前に正座する彼女が、棗だとは信じたくなかった。

 「階段で転んだの」と言って笑う彼女の体は痣だらけ。隣に座る錫が、彼女の肩を抱いている。



「……子供ができたって……まだ棗ちゃんは15でしょう……?」

「はい。だから16歳になったら結婚できます、錫さんと」



 棗の両親と、そして鑓水の両親は信じられないといった目で棗と錫を見つめていた。当たり前だ。付き合っている様子もなかった二人が「結婚する」などと言っている。しかも、まだ15歳の棗がすでに懐妊しているというのだ。


 まだ若すぎる二人が結婚するなど、双方の両親がそう簡単に納得できるわけがなかった。しかし、もう胎内に子を宿しているというからには、反対することもできない。女一人で子を育ててゆくのは大変であるし、堕胎させるなどもってのほかだ。なにより二人が幸せそうにしているのだから、無理やり仲を引き裂くことができなかった。

 ――結局、二人は結婚することに決まってしまった。棗は高校には進学せず、鑓水家に住むことになった。せっかく決まった進路まで変える必要があるのかと思ったが、棗がそうしたいと言って聞かなかった。

 ……おかしい。この場にいる人間のなかで誰よりもそう思ったのは、鑓水だった。錫の自分を見つめる気味の悪い目つきに気付いたとき――すべてに、気付いてしまった。
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