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第十章:その弱さを知ったとき

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 中学三年の冬だった。お互いの進路も決まり、再び鑓水の家で二人で会うことが多くなった。

 初雪が降った日のことだった。いつものように鑓水の家で、二人で過ごしていた。棗はなにやら緊張した面持ちで、鑓水の隣に座っている。いつもは棗が話しかけて、鑓水がそれに受け答えをするといった会話の仕方だったため、棗が黙りこむと途端に二人の間に言葉が少なくなってしまう。外で静かに降る雪から、しんしんと音が聞こえてきそうな静寂が、部屋のなかに広がった。


「……あのね、けいちゃん」


 ふと、棗が話を切り出す。ちらりと鑓水が視線を落として棗の表情を窺い見れば……彼女の顔は真っ赤だった。鑓水はそこまで鈍感ではない。

 ああ、まずいな、と思ってしまった。


「……私、けいちゃんのこと、好き」


 心に、ズシンと重石のようなものがのしかかる。鑓水は棗のことを大切に思っていた。しかし、いまさら彼女としてみれるか、といったら答えはノーだった。あまりにも、友達としてみていた時間が長すぎた。


「……ごめん。棗のこと、そういうふうにはみれない」


 棗のことを傷つけたくない、そう思っても、好きでもないのに付き合うほうが彼女を傷つける。鑓水は身を裂くような想いで、彼女の告白を断った。

 棗は、ひどくショックを受けたような顔をしていた。ぽろ、と涙を一筋流したあと、大声で泣きだしてしまった。慰めることもできず、鑓水はただ、彼女が泣き止むのを待つことしかできなかった。


「わかった、……わたし、けいちゃんのこと、あきらめる……」

「……ごめん」

「あのね、ひとつだけ、お願いきいてほしいの」


 棗は涙を拭って、嗚咽を必死に堪え、無理やり笑う。痛々しいその笑顔に、鑓水の胸がきりきりと傷んだ。


「……キス、して欲しいの」

「……」

「……初めてのキス、けいちゃんにしてほしい。本当に、これで諦めるから……お願い、けいちゃん。キス、してください」


 ――雪の降る、日だった。冷たい雪はとけることはなく、静かに積もっていた。一生にただ一度の、大好きな人とのキスに歓び震えた棗の瞳からこぼれた涙は、冷えきった頬を濡らし、ほんの少しだけ温めた。
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