61 / 236
第六章:もう一人のエゴイスト
2
しおりを挟む
学園祭が近くなってきているからだろうか、どことなく学校全体が浮ついている気がした。どこかの教室からはバンドの練習の音が聞こえてくるし、窓にはポスターのようなものが貼ってあるし。しかし、めんどくせえな、というのが鑓水の感覚だった。
「……!」
校門を抜けてしばらく歩いていると、前方から黄色い声が聞こえてくる。ゆらりと視線をそちらに向ければ……予想はしていたが、波折がいた。相変わらずの王子様のような笑顔をみんなに振りまいて、周りの女どもはきゃーきゃーと騒いでいる。
(……世界がちげえな)
鑓水はずんずんと歩いて行って、波折に追いついた。鑓水に気付いた女が「おはよー鑓水!」なんて気軽に挨拶をしてくる。鑓水は笑ってそれらに挨拶を返すと、波折に向き直った。
「波折! おはよ!」
「おはよう、慧太」
波折が鑓水に挨拶を返せば、また周りが騒ぎ出す。会長と副会長が活動以外でそろうところなんてあんまり見ないもんな、と鑓水は心中でため息をついて、波折と歩調を合わせて歩き出す。
取り巻きを抜けだして、玄関で靴を履き替えているところで、鑓水はしゃがみこんだ状態から波折を見上げた。訝しげな顔をしている波折をみて鑓水はにかっと笑ってやると、波折の手をとる。
「……何」
「波折ってさ、手、綺麗だよな」
「はあ? 気持ち悪い」
一瞬で手を振り払われて、鑓水はからからと笑った。自分を横切って下駄箱に靴を閉まっている波折を、横目で見つめる。
(薬指の付け根に、小さなほくろ)
「……!」
校門を抜けてしばらく歩いていると、前方から黄色い声が聞こえてくる。ゆらりと視線をそちらに向ければ……予想はしていたが、波折がいた。相変わらずの王子様のような笑顔をみんなに振りまいて、周りの女どもはきゃーきゃーと騒いでいる。
(……世界がちげえな)
鑓水はずんずんと歩いて行って、波折に追いついた。鑓水に気付いた女が「おはよー鑓水!」なんて気軽に挨拶をしてくる。鑓水は笑ってそれらに挨拶を返すと、波折に向き直った。
「波折! おはよ!」
「おはよう、慧太」
波折が鑓水に挨拶を返せば、また周りが騒ぎ出す。会長と副会長が活動以外でそろうところなんてあんまり見ないもんな、と鑓水は心中でため息をついて、波折と歩調を合わせて歩き出す。
取り巻きを抜けだして、玄関で靴を履き替えているところで、鑓水はしゃがみこんだ状態から波折を見上げた。訝しげな顔をしている波折をみて鑓水はにかっと笑ってやると、波折の手をとる。
「……何」
「波折ってさ、手、綺麗だよな」
「はあ? 気持ち悪い」
一瞬で手を振り払われて、鑓水はからからと笑った。自分を横切って下駄箱に靴を閉まっている波折を、横目で見つめる。
(薬指の付け根に、小さなほくろ)
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる