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第六章:もう一人のエゴイスト

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 学園祭が近くなってきているからだろうか、どことなく学校全体が浮ついている気がした。どこかの教室からはバンドの練習の音が聞こえてくるし、窓にはポスターのようなものが貼ってあるし。しかし、めんどくせえな、というのが鑓水の感覚だった。


「……!」


 校門を抜けてしばらく歩いていると、前方から黄色い声が聞こえてくる。ゆらりと視線をそちらに向ければ……予想はしていたが、波折がいた。相変わらずの王子様のような笑顔をみんなに振りまいて、周りの女どもはきゃーきゃーと騒いでいる。


(……世界がちげえな)


 鑓水はずんずんと歩いて行って、波折に追いついた。鑓水に気付いた女が「おはよー鑓水!」なんて気軽に挨拶をしてくる。鑓水は笑ってそれらに挨拶を返すと、波折に向き直った。


「波折! おはよ!」

「おはよう、慧太」


 波折が鑓水に挨拶を返せば、また周りが騒ぎ出す。会長と副会長が活動以外でそろうところなんてあんまり見ないもんな、と鑓水は心中でため息をついて、波折と歩調を合わせて歩き出す。

 取り巻きを抜けだして、玄関で靴を履き替えているところで、鑓水はしゃがみこんだ状態から波折を見上げた。訝しげな顔をしている波折をみて鑓水はにかっと笑ってやると、波折の手をとる。


「……何」

「波折ってさ、手、綺麗だよな」

「はあ? 気持ち悪い」


 一瞬で手を振り払われて、鑓水はからからと笑った。自分を横切って下駄箱に靴を閉まっている波折を、横目で見つめる。


(薬指の付け根に、小さなほくろ)

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