上 下
50 / 236
第五章:キミとの時間は刹那に

しおりを挟む
「……お兄ちゃん顔どうしたの」

「へ?」


 料理が完成して、テーブルに並べているとき。夕紀が沙良に怪訝な顔をしてそう尋ねた。そんなことを聞かれる心当たりが全くない沙良は、きょとんとすることしかできない。


「……顔……すっごいにやけてる」

「あっ!?」


 指摘されて、沙良はぱしりと自分の頬を叩いた。

 料理の最中、結局波折はずっと沙良のすぐ側にいた。時には密着もした。その嬉しさの余韻が残っていたんだ……と自分のにやけ面の原因に気付いた沙良は、慌てて真顔を取り繕う。三人分並べ終えて、波折がテーブルを挟んで自分の前に立ったとき……沙良は思わずかあっと顔を赤らめてしまった。


「は、はやく食べよう! 料理冷めないうちに!」


 だらしのない顔を、波折に悟られたくない。沙良は慌ててそう叫ぶ。

 いつも夕紀は沙良の向かい側に座るが、今日は隣に座った。沙良がちらりと夕紀の顔を覗き見ると、なにやらるんるんとしている。いただきますをすれば、さっそく夕紀はハンバーグを口に運んだ。


「……美味しい!」


 満面の笑みでそう言った夕紀に、沙良は照れくさそうに笑う。波折に細かく指導を受けながらではあるが、自分がつくったもの。自分の料理を美味しいと言ってもらえて、なんだかものすごく嬉しかった。


「お兄ちゃん、これからもつくってよ!」

「えっ……えっとー」


 にこにことしながら夕紀に頼まれて、沙良は口ごもる。つくってやりたいのは山々だが、一人で料理できるほど技術を会得していない。期待を込めた眼差しで見つめられて、断るにも断れなくて沙良が苦笑いをしていると、向かいに座っていた波折が仏頂面で言ってくる。


「つくってやれば」

「え、えー……でも俺、まだちゃんとつくる自身ないっていうか……」


 波折に「そうですよねー!」と夕紀が同調してしまって、更に断りにくい。困ったように沙良が唸っていれば、波折がため息をついた。


「……また、教えてやるから」

「……え?」

「料理くらいできるようになれよ」

「えっと、……また、うちに来てくれるってこと……ですか!?」

「……夕紀ちゃんのためだからな。おまえのためじゃない」


 おおおお……なんて沙良が感動で震えていると、夕紀がぱっと立ち上がる。


「ほ、ほんとうですか! 波折さん、またきてくれるんですか!?」

「うん。夕紀ちゃんが嫌じゃなければ」

「と、とんでもない! 波折さんが来てくれるの、嬉しいです!」


 夕紀は目をきらきらとさせて大声でそういう。頬がどことなく、赤い。よく考えれば波折は学園の王子様で何百人ものファンがいて、たぶん学園で一番モテる男で一番イケメンで。そんな年上のお兄さんが家に来てくれる、というのなら夕紀も嬉しいに違いない。……これは予想外のライバルだ、なんて沙良は考えてしまう。


「波折さんってお兄ちゃんの先輩なんですよね! っていうことは生徒会ですか?」

「うん、生徒会長」

「せ、生徒会長……! かっこいい……! えっ、JSの生徒会長ってことはJSで一番頭がいいってことですよね!」

「う、うーん、まあ、」

「すごい! 将来は裁判官確定ですね!」

「……そうだね」


 ともかく、波折が家族と仲良くなってくれるのは嬉しい。沙良は冷凍食品よりもずっと美味しいハンバーグを口に運びながら、二人の会話を聞いていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...