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水色の章
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「あの女の人、本当に亡霊に取り憑かれていたのか?」
まず先ほどの女性のもとへ行ってみよう。そう思い立った織は、女性の去っていったあとを辿るようにして歩いていた。集落から出れば茫々と草が生い茂っていて、人の踏み込むことが困難な雰囲気。こんなところに人が住んでいるのかと思ったが、とりあえずはここを進んでいくしかない。
「さあ。俺が見た限りは、そういった気配はなかったけど。亡霊に纏わりつかれていたなら、憑依なんてされなくても多少は気配を感じるはずだけど……そういうのもなかったな」
「……じゃあ亡霊云々っていうのは村人の勝手な噂だな」
先ほどの女性には亡霊が憑いている、なんて聞いて怖気づいていた織だが、鈴懸の話を聞いて少しだけほっとする。おかしな行動をとる人を「化け物に取り憑かれている」なんていって遠ざける、というのは特別おかしな話ではない。今回の件もそれと同じようなものだろう……織はそう思った。
しばらく歩いていれば、少しだけひらけた場所に出る。歩けば草木が体を掠めるといった、今までの獣道とは違った景色になった。少し遠くの方に、小さな民家が見える。
あれが、先ほどの女性の家だろう……そう判断した織は、さっそく民家に近づいていく。一歩踏み出した、そのときだ。
「……えっ」
くい、と後ろから誰かに引っ張られた。鈴懸かと思ったが……鈴懸は隣に立っているから、彼ではない。
振り返ってみて――織は声をあげそうになった。12・3歳ほどの女の子が、着物を引っ張ってきている。それまで全く気配を感じなかったため、織は驚いてしまったのだ。
「……、ど、どうしたの?」
「……」
子どもへどう接すればいいのかはわからない。しかし、無視をするわけにもいかない。なんとか織が話しかけてみれば、女の子はぼーっと織の顔を見上げて、首をかしげる。
「道に迷ったの?」
「……」
「どこから来たの?」
「……」
こんな、人里離れた奥地に女の子が一人でいたら危険である。近くに家があるなら連れて行ってあげようと思ったが……女の子は一切言葉を発しない。どうすればいいのだろうと織が参っていると、女の子はぱっと織のもとから離れてどこかへ走り去っていってしまった。
不思議な子どもだった。織がぼんやりと女の子が去っていったところを見つめていると、鈴懸がうーん、と小さく唸る。
「あの子、妙な気配がしたな」
「えっ? 人間じゃないとか?」
「いや……わからない。でも、普通の人間からはしない気配がした」
「えー……?」
普通の人じゃない気配、なんて言われても。あの子と接している間、織は特に違和感を覚えなかった。たしかに変わった子ではあるが、妖怪の類には思えない。しっかりと実態があったし、体にもちゃんと血が通っていたと思う。
あの子のことが気がかりだ。しかしもう姿を消してしまった。
「……とりあえず、さっきの人のところにいってみようか」
仕方なく、織は当初の目的の女性を探すことに決めた。後ろ髪を引かれる思いではあったが、遠方に見えた家に向かって歩き出した。
まず先ほどの女性のもとへ行ってみよう。そう思い立った織は、女性の去っていったあとを辿るようにして歩いていた。集落から出れば茫々と草が生い茂っていて、人の踏み込むことが困難な雰囲気。こんなところに人が住んでいるのかと思ったが、とりあえずはここを進んでいくしかない。
「さあ。俺が見た限りは、そういった気配はなかったけど。亡霊に纏わりつかれていたなら、憑依なんてされなくても多少は気配を感じるはずだけど……そういうのもなかったな」
「……じゃあ亡霊云々っていうのは村人の勝手な噂だな」
先ほどの女性には亡霊が憑いている、なんて聞いて怖気づいていた織だが、鈴懸の話を聞いて少しだけほっとする。おかしな行動をとる人を「化け物に取り憑かれている」なんていって遠ざける、というのは特別おかしな話ではない。今回の件もそれと同じようなものだろう……織はそう思った。
しばらく歩いていれば、少しだけひらけた場所に出る。歩けば草木が体を掠めるといった、今までの獣道とは違った景色になった。少し遠くの方に、小さな民家が見える。
あれが、先ほどの女性の家だろう……そう判断した織は、さっそく民家に近づいていく。一歩踏み出した、そのときだ。
「……えっ」
くい、と後ろから誰かに引っ張られた。鈴懸かと思ったが……鈴懸は隣に立っているから、彼ではない。
振り返ってみて――織は声をあげそうになった。12・3歳ほどの女の子が、着物を引っ張ってきている。それまで全く気配を感じなかったため、織は驚いてしまったのだ。
「……、ど、どうしたの?」
「……」
子どもへどう接すればいいのかはわからない。しかし、無視をするわけにもいかない。なんとか織が話しかけてみれば、女の子はぼーっと織の顔を見上げて、首をかしげる。
「道に迷ったの?」
「……」
「どこから来たの?」
「……」
こんな、人里離れた奥地に女の子が一人でいたら危険である。近くに家があるなら連れて行ってあげようと思ったが……女の子は一切言葉を発しない。どうすればいいのだろうと織が参っていると、女の子はぱっと織のもとから離れてどこかへ走り去っていってしまった。
不思議な子どもだった。織がぼんやりと女の子が去っていったところを見つめていると、鈴懸がうーん、と小さく唸る。
「あの子、妙な気配がしたな」
「えっ? 人間じゃないとか?」
「いや……わからない。でも、普通の人間からはしない気配がした」
「えー……?」
普通の人じゃない気配、なんて言われても。あの子と接している間、織は特に違和感を覚えなかった。たしかに変わった子ではあるが、妖怪の類には思えない。しっかりと実態があったし、体にもちゃんと血が通っていたと思う。
あの子のことが気がかりだ。しかしもう姿を消してしまった。
「……とりあえず、さっきの人のところにいってみようか」
仕方なく、織は当初の目的の女性を探すことに決めた。後ろ髪を引かれる思いではあったが、遠方に見えた家に向かって歩き出した。
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