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想い人※
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「う、んん…っ…はぁ…」
瑛士の口から艶のある声が上がる。始めのうちは歯を食い縛り堪えていたのだが、だんだんと快感が増していって堪えることができなくなっていた。
ダグパールが部屋を去ってどのくらい経ったのか、瑛士は身体を駆け巡る快感に苦しんでいる。
布に擦れるだけで快感が沸き上がり、股間は痛いくらいに立ち上がっているが、拘束のせいで触ることもできない。こんな事をしている場合じゃないと、早くダレクの無事を確認したいのに思考が全く巡らず悔し涙を流していた。
「くぅ…~~っ…」
いくら身を捩っても快感が軽減されなくて苦しい。
ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、そちらを見やれば戻ってきたダグパールがほう、と嬉しそうに瑛士をまじまじと見つめてうっとりとした顔をした。
「なんと美しい。やはりよがる姿は芸術だ」
ベッドに腰かけたダグパールは瑛士のお腹を指先で滑らす。
「~~~ッッ!!」
それだけで瑛士のモノから勝手に白いのが吐き出された。
だけど、長く堪えていた瑛士のモノはその一回では治まらず、一度精を吐き出した余韻で腰がガクガクと細かく痙攣し、目の前がチカチカと眩んだ。
イッてしまった……、呆然としながら息を荒くしていれば、腹を汚す白いものを指先で掬って見せ付けてきた。
「おやおや、はしたない」
瑛士の顔が羞恥で熱くなる。趣味が悪い。
ダグパールは部屋に備え付けてあったチェストの中からローションボールを一つ取り、ニコリと笑う。
「けれど、それもなかなか浚るというもの」
□□□想い人□□□
ローションボールは名の通り溶けやすい素材で作られたビー玉程の袋に潤滑油が入れられたものだ。これは主に性交をする際に用いるもので、勿論瑛士は知っているものだし、それを取り出したということはこれから何が始まるのかは容易に想像できた。
「……や……やめろ……」
ズボンを下げ、脚を難なく広げるとダグパールが瑛士の孔を見た。
ダレク以外の人間に見られるなんて屈辱だった。
「やはり処女ではなかったか。残念だが、まぁ、その方がお互い楽しめる」
ローションボールを蕾に当て、ヌプンと中へとゆっくり押し込む。
覚えのある感覚に瑛士は叫んだ。必死に流されてたまるかと脚でダグパールの妨害を試みるが、魔法陣の効果の影響で力が殆ど入っておらず、難なく掴まれこちらも拘束されてしまった。しかもその拍子に中でボールが潰れて潤滑油が溢れた。
トロリとした感触が垂れるのを下半身に感じると、ダグパールが瑛士の中へと指を挿入し、ぐちゅぐちゅと掻き回し始める。
「ひ…、やっ、いやだっ!や…ああっ!」
ゴリと中のしこりを刺激されると、瑛士の身体が跳ねる。いつもよりも快感が強く喉がひくつく。
「ほうほう、効果はてきめんだな」
容赦なく中を弄くり回され、瑛士が首を横に振りながら逃げようとするが、ダグパールはなおいっそう激しく指で孔を刺激する。慣れた手付きに瑛士は軽く中イキをしてしまい、涙を流す。頭では嫌がっても体はすっかり魔法陣の効果で言うことを利かなくなってしまっていた。
このままダグパールに中まで汚されてしまうのかと、最悪のイメージしか湧かずに呻く。
そんな瑛士をダグパールは愉しげに弄ぶ。
優しく胸を愛撫し、しかし下は容赦なく攻め立てる。抑揚をつけ、だけど焦らしてダグパールは瑛士の欲求を増幅させていった。
瑛士自身がダグパールを求めるように、そうすれば心まで支配出来るからだ。
快感で頭がおかしくなりそうになりながらも瑛士は必死に抵抗した。パチンパチンと腕を拘束していたものが外され、快感に飲まれないように瑛士は近くのシーツを握り締め堪えた。
ダグパールの狙いが分かっていたからこそ、だ。
「ふふ、愛い。快感に身を委ねよ、その方が楽だぞ。それに、身体のほうはもう、我慢が効かないのではないか?」
孔がひくつく。奥のうずきを何とかしてくれとうねっている。
指なんかじゃ物足りない。もっと大きくて長いものでぐちゃぐちゃにして欲しい。奥の方まで貫いて欲しい。理性なんか手放してこの快感の地獄から解放されたい。
犯して欲しい。壊して欲しい。何も考えられないくらいに滅茶苦茶に抱き潰して、お腹が膨れるまで欲を腹の奥底へ叩き付けて欲しい。それこそ孕むまで。
「諦めて余のモノになれ、エージよ。その方が楽だ」
だけど、だけれども、絶対に瑛士は折れるものかとダグパールを殺す気で睨んだ。
“誰がお前のものになってやるかよ”と。
「ふざ…けるなっ…!ふっううっ!」
ダグパールは瑛士のその顔にゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上がった。
そうだ。簡単には手に入らないだろう。だからこそ、完全に服従させたい。
「強情だな。だが、もうじきお前は余のモノだ。この際魔法陣を復活させられる力があるかないかは最早関係ない。すぐにあやつよりも余が佳い事が身をもって知るだろう」
このままだと不味いとわかっているが、魔法陣のせいで身体に力が入らなくて抵抗がままならない。頭もおかしくなっている。必死に押さえ付けているが、体は悲鳴を上げていた。もう堪えられないと。
分かっていた。このままだともうあと数分で、きっと理性の方が壊れてしまう。
悔し涙を流しながらダグパールを睨み付けるが、ダグパールはその顔も佳いといいながら服を脱ぎ始めた。ああ、もうだめだ…。
諦め掛けたその時、近くで連続の爆発音が轟き城を揺らした。
なんだと、ダグパールが窓の方を見やる。
扉が激しく叩かれ、ダグパールが呼ばれた。
「大変です!何者かに城壁を攻撃されています!」
「……」
不機嫌な顔のダグパールが服を着直しながら扉の向こうにいる部下に向かって返事を返した。
「わかった。すぐに行く」
こちらを向き微笑む。
「待っておれ、すぐに戻ってくる」
それだけ言うとダグパールは部屋を出ていった。
「……!」
ダレクの気配に気付き、瑛士の理性は快感の渦から引き戻された。
彼が近くにいる。
あまりの嬉しさに瑛士は頬を叩いて、残った快感を弾き飛ばした。
やっぱり死んでいなかった。
幸運なことにダグパールは瑛士の手を拘束し忘れている。今なら!
「手錠がない……」
しかも何故か手錠も一緒に外されていた。もしや、極限の状態にすれば、瑛士が魔法陣修復の技でも見せると思ったのだろうか。
「……チャンスだ」
きっとこれ以降、こんなチャンスは訪れない。
監視カメラ的な魔法陣があるかどうかは知らないが、すかさずお腹の魔法陣の周りに結界の魔法陣を描き、反転能力を付与。身体に巡っていた熱がみるみる内に引いていく。
良かった、普通に魔法陣が使える。
だけど、此処では絶対に魔法陣を修復や上書きはしない。たとえダグパールの目的がすでにソレではなくても、今後のために隠しておくべきだ。
幸いにも瑛士は他にも様々な魔法陣を扱えるのだ。できることは多い。
服を整え扉に施錠の魔法陣を大量に張り付け、防音の魔法陣も描く。
すぐさま窓近くの壁に砂化の魔法陣を描いて壁を脆くすると、爆発の魔法陣で破壊し、外へと脱出した。
「うおっと…」
屋根が雨で滑りやすくなっているらしく、着地の際に少し滑った。ギリギリ落ちなかったものの、落ちてしまえば大怪我は免れない。
恐怖と緊張で息が荒くなっているが、それでも慎重に足裏に滑り止めの魔法陣を仕込み、棟へと繋がる方の屋根へと飛び移る。
まだ少し滑るが走れないことはない、手足が震えるけれど、気合いを入れ直し先日シミュレーションした通りに屋根を走る。
後方には穴の空いた監禁部屋。見える限りだと無人でまだ俺の事は見つかってないみたいだ。
「諦めてたまるか。俺は必ずダレクの元へ帰るんだ…!」
前を向き、このまま行けるところまで走りきる。
◆◆◆
「上手く行ったな」
「ええ、今頃場内の兵はあわてふためいて確認に向かっているはずだ」
土の中に魔法陣を書いた紙を水銀で地中に潜り込ませ、大量に起爆させた。ソレを陽動にダレク達は裏へと回り込み、侵入作戦を開始していた。
ダレク達が出たのは城の中にある後宮専用の庭園だった。
とはいえ最近は使われていないのか荒れていたが、ダレク達にとっては隠れて隙を伺うのに好都合。目標は前方に見える古びた塔。
あそこを足掛けに一気に侵入しようという腹だ。
あともう少しで棟へと着くと言うときに、スサが棟の中腹を指差し驚きの声を上げた。
「アレクさん!あれ!」
「!」
スサの指す方向へと視線を向けると、塔の上に誰かいた。
「…あれは」
距離があって鮮明手はなかったが、ダレクは確信した。あれはエージだと。
敵の油断を突いて逃走してきたのだ。
「大変です!クリハラさん囲まれてしまってます!」
よく見てみると、エージは塔の上で複数人に取り囲まれていた。
エージも易々と捕まるわけにはいかないと身構えているけれど、時間の問題だった。どうする、ここから魔法攻撃を仕掛ければエージを巻き込んでしまう。
考え、ダレクは賭けに出た。
「エージ!!!!」
ダレクが叫ぶ、するとエージらしき影がこちらを見て、言葉を返した。
「ダレク!!」
間違いなくエージの声で、ダレクは思わず目頭が熱くなる。
ようやく会えた。
塔に到達する寸前に、部屋に仕掛けていた鍵の魔法陣を突破され、追い掛けてきた。
追い付かれてなるものかと、どんどん強くなるダレクの気配に速度が上げる。
塔に辿り着いたとき、瑛士の脚が思わずすくんだ。
想定以上にこの塔は高かった。
いや、地面が城を中心になだらかに傾斜していたからその分高さが増しているらしい。
「もう逃げられないぞ!大人しくしろ!」
「はっ」
脚がすくんだその瞬間に追い付かれ、取り囲まれてしまった。
しかも相手は捕獲用の仕掛けさすまたを装備している。一度あれに囚われてしまえばもう逃げられない。攻撃するにしても結界を張るにしても魔法陣だと時間が掛かる。瑛士は魔法陣無しの魔法を扱えない自分に腹が立った。
どうするかと思案する。
何かないか。この状況を打開できる策は。
「まさかこんなすぐに逃げ出すとは思わなかったぞ。予想以上に強かでますます気に入った」
そうこうしている間にも最も来て欲しくない人物、ダグパールが笑顔でやって来た。
「だが、悪足掻きも此処までだ。いい加減に諦めて余のもとに──」
「エージ!!!!」
「!?」
求めていた声が耳に響いて、瑛士は声がした方向へと顔を向けた。
棟の下にダレクがいる。
「ダレク!!」
なら、何を恐れることがあろうか。
最後の覚悟が決まり、瑛士は目の前のダグパールに不敵な笑みを浮かべて見せる。
「残念でしたが、ここで終わるわけにはいきません」
「なにを…」
ダグパールの言葉を遮るようにくるりと踵を返して、瑛士は思い切りダレクの方向へと跳んだ。
これが答えだ。
「俺の想い人は、ただの一人だけだあああああ!!!!」
下方にダレクの姿をはっきりと確認した。驚きの表情をしながらも、ダレクは既に瑛士に向かって両腕を広げていた。
「ダレク!俺を受け止めてください!!」
後ろでダグパールが止める声が聞こえたけれど、残念ながら俺はダレクのモノだ。
両手を広げたダレクに見事受け止められ、ぐるんと回って衝撃を逃がした。ダレクの匂いに包み込まれて、安堵した。
ああ、やっと帰ってきた。
「大丈夫か、エージ。怪我はないか?」
「それはこちらの台詞ですよ。生きてて良かった」
「さ、逃げますよ!」
ダグパールを一瞥すると、そのままダレクに抱き抱えられてその場から逃走した。
塔の上で姿を隠した三人を眺めるダグパールは口許に笑みを浮かべていた。
「ふ…、逃げられてしまったか」
こんな高さから飛び下りるとは想定外だった。
あんな顔していてなんという度胸だ。
逃げられたというのに、何故だかダグパールは口許に笑みが浮かぶ。
「追わなくてよろしいので?」
「ああ、今追わずとも、後日アスコアニで交渉すればいいことだ」
そうだ、まだ彼の所有権はこちらにあるのだから。
「引き上げるぞ。怪我人の確認と被害状況の確認をしてくれ」
「は!」
瑛士の口から艶のある声が上がる。始めのうちは歯を食い縛り堪えていたのだが、だんだんと快感が増していって堪えることができなくなっていた。
ダグパールが部屋を去ってどのくらい経ったのか、瑛士は身体を駆け巡る快感に苦しんでいる。
布に擦れるだけで快感が沸き上がり、股間は痛いくらいに立ち上がっているが、拘束のせいで触ることもできない。こんな事をしている場合じゃないと、早くダレクの無事を確認したいのに思考が全く巡らず悔し涙を流していた。
「くぅ…~~っ…」
いくら身を捩っても快感が軽減されなくて苦しい。
ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、そちらを見やれば戻ってきたダグパールがほう、と嬉しそうに瑛士をまじまじと見つめてうっとりとした顔をした。
「なんと美しい。やはりよがる姿は芸術だ」
ベッドに腰かけたダグパールは瑛士のお腹を指先で滑らす。
「~~~ッッ!!」
それだけで瑛士のモノから勝手に白いのが吐き出された。
だけど、長く堪えていた瑛士のモノはその一回では治まらず、一度精を吐き出した余韻で腰がガクガクと細かく痙攣し、目の前がチカチカと眩んだ。
イッてしまった……、呆然としながら息を荒くしていれば、腹を汚す白いものを指先で掬って見せ付けてきた。
「おやおや、はしたない」
瑛士の顔が羞恥で熱くなる。趣味が悪い。
ダグパールは部屋に備え付けてあったチェストの中からローションボールを一つ取り、ニコリと笑う。
「けれど、それもなかなか浚るというもの」
□□□想い人□□□
ローションボールは名の通り溶けやすい素材で作られたビー玉程の袋に潤滑油が入れられたものだ。これは主に性交をする際に用いるもので、勿論瑛士は知っているものだし、それを取り出したということはこれから何が始まるのかは容易に想像できた。
「……や……やめろ……」
ズボンを下げ、脚を難なく広げるとダグパールが瑛士の孔を見た。
ダレク以外の人間に見られるなんて屈辱だった。
「やはり処女ではなかったか。残念だが、まぁ、その方がお互い楽しめる」
ローションボールを蕾に当て、ヌプンと中へとゆっくり押し込む。
覚えのある感覚に瑛士は叫んだ。必死に流されてたまるかと脚でダグパールの妨害を試みるが、魔法陣の効果の影響で力が殆ど入っておらず、難なく掴まれこちらも拘束されてしまった。しかもその拍子に中でボールが潰れて潤滑油が溢れた。
トロリとした感触が垂れるのを下半身に感じると、ダグパールが瑛士の中へと指を挿入し、ぐちゅぐちゅと掻き回し始める。
「ひ…、やっ、いやだっ!や…ああっ!」
ゴリと中のしこりを刺激されると、瑛士の身体が跳ねる。いつもよりも快感が強く喉がひくつく。
「ほうほう、効果はてきめんだな」
容赦なく中を弄くり回され、瑛士が首を横に振りながら逃げようとするが、ダグパールはなおいっそう激しく指で孔を刺激する。慣れた手付きに瑛士は軽く中イキをしてしまい、涙を流す。頭では嫌がっても体はすっかり魔法陣の効果で言うことを利かなくなってしまっていた。
このままダグパールに中まで汚されてしまうのかと、最悪のイメージしか湧かずに呻く。
そんな瑛士をダグパールは愉しげに弄ぶ。
優しく胸を愛撫し、しかし下は容赦なく攻め立てる。抑揚をつけ、だけど焦らしてダグパールは瑛士の欲求を増幅させていった。
瑛士自身がダグパールを求めるように、そうすれば心まで支配出来るからだ。
快感で頭がおかしくなりそうになりながらも瑛士は必死に抵抗した。パチンパチンと腕を拘束していたものが外され、快感に飲まれないように瑛士は近くのシーツを握り締め堪えた。
ダグパールの狙いが分かっていたからこそ、だ。
「ふふ、愛い。快感に身を委ねよ、その方が楽だぞ。それに、身体のほうはもう、我慢が効かないのではないか?」
孔がひくつく。奥のうずきを何とかしてくれとうねっている。
指なんかじゃ物足りない。もっと大きくて長いものでぐちゃぐちゃにして欲しい。奥の方まで貫いて欲しい。理性なんか手放してこの快感の地獄から解放されたい。
犯して欲しい。壊して欲しい。何も考えられないくらいに滅茶苦茶に抱き潰して、お腹が膨れるまで欲を腹の奥底へ叩き付けて欲しい。それこそ孕むまで。
「諦めて余のモノになれ、エージよ。その方が楽だ」
だけど、だけれども、絶対に瑛士は折れるものかとダグパールを殺す気で睨んだ。
“誰がお前のものになってやるかよ”と。
「ふざ…けるなっ…!ふっううっ!」
ダグパールは瑛士のその顔にゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上がった。
そうだ。簡単には手に入らないだろう。だからこそ、完全に服従させたい。
「強情だな。だが、もうじきお前は余のモノだ。この際魔法陣を復活させられる力があるかないかは最早関係ない。すぐにあやつよりも余が佳い事が身をもって知るだろう」
このままだと不味いとわかっているが、魔法陣のせいで身体に力が入らなくて抵抗がままならない。頭もおかしくなっている。必死に押さえ付けているが、体は悲鳴を上げていた。もう堪えられないと。
分かっていた。このままだともうあと数分で、きっと理性の方が壊れてしまう。
悔し涙を流しながらダグパールを睨み付けるが、ダグパールはその顔も佳いといいながら服を脱ぎ始めた。ああ、もうだめだ…。
諦め掛けたその時、近くで連続の爆発音が轟き城を揺らした。
なんだと、ダグパールが窓の方を見やる。
扉が激しく叩かれ、ダグパールが呼ばれた。
「大変です!何者かに城壁を攻撃されています!」
「……」
不機嫌な顔のダグパールが服を着直しながら扉の向こうにいる部下に向かって返事を返した。
「わかった。すぐに行く」
こちらを向き微笑む。
「待っておれ、すぐに戻ってくる」
それだけ言うとダグパールは部屋を出ていった。
「……!」
ダレクの気配に気付き、瑛士の理性は快感の渦から引き戻された。
彼が近くにいる。
あまりの嬉しさに瑛士は頬を叩いて、残った快感を弾き飛ばした。
やっぱり死んでいなかった。
幸運なことにダグパールは瑛士の手を拘束し忘れている。今なら!
「手錠がない……」
しかも何故か手錠も一緒に外されていた。もしや、極限の状態にすれば、瑛士が魔法陣修復の技でも見せると思ったのだろうか。
「……チャンスだ」
きっとこれ以降、こんなチャンスは訪れない。
監視カメラ的な魔法陣があるかどうかは知らないが、すかさずお腹の魔法陣の周りに結界の魔法陣を描き、反転能力を付与。身体に巡っていた熱がみるみる内に引いていく。
良かった、普通に魔法陣が使える。
だけど、此処では絶対に魔法陣を修復や上書きはしない。たとえダグパールの目的がすでにソレではなくても、今後のために隠しておくべきだ。
幸いにも瑛士は他にも様々な魔法陣を扱えるのだ。できることは多い。
服を整え扉に施錠の魔法陣を大量に張り付け、防音の魔法陣も描く。
すぐさま窓近くの壁に砂化の魔法陣を描いて壁を脆くすると、爆発の魔法陣で破壊し、外へと脱出した。
「うおっと…」
屋根が雨で滑りやすくなっているらしく、着地の際に少し滑った。ギリギリ落ちなかったものの、落ちてしまえば大怪我は免れない。
恐怖と緊張で息が荒くなっているが、それでも慎重に足裏に滑り止めの魔法陣を仕込み、棟へと繋がる方の屋根へと飛び移る。
まだ少し滑るが走れないことはない、手足が震えるけれど、気合いを入れ直し先日シミュレーションした通りに屋根を走る。
後方には穴の空いた監禁部屋。見える限りだと無人でまだ俺の事は見つかってないみたいだ。
「諦めてたまるか。俺は必ずダレクの元へ帰るんだ…!」
前を向き、このまま行けるところまで走りきる。
◆◆◆
「上手く行ったな」
「ええ、今頃場内の兵はあわてふためいて確認に向かっているはずだ」
土の中に魔法陣を書いた紙を水銀で地中に潜り込ませ、大量に起爆させた。ソレを陽動にダレク達は裏へと回り込み、侵入作戦を開始していた。
ダレク達が出たのは城の中にある後宮専用の庭園だった。
とはいえ最近は使われていないのか荒れていたが、ダレク達にとっては隠れて隙を伺うのに好都合。目標は前方に見える古びた塔。
あそこを足掛けに一気に侵入しようという腹だ。
あともう少しで棟へと着くと言うときに、スサが棟の中腹を指差し驚きの声を上げた。
「アレクさん!あれ!」
「!」
スサの指す方向へと視線を向けると、塔の上に誰かいた。
「…あれは」
距離があって鮮明手はなかったが、ダレクは確信した。あれはエージだと。
敵の油断を突いて逃走してきたのだ。
「大変です!クリハラさん囲まれてしまってます!」
よく見てみると、エージは塔の上で複数人に取り囲まれていた。
エージも易々と捕まるわけにはいかないと身構えているけれど、時間の問題だった。どうする、ここから魔法攻撃を仕掛ければエージを巻き込んでしまう。
考え、ダレクは賭けに出た。
「エージ!!!!」
ダレクが叫ぶ、するとエージらしき影がこちらを見て、言葉を返した。
「ダレク!!」
間違いなくエージの声で、ダレクは思わず目頭が熱くなる。
ようやく会えた。
塔に到達する寸前に、部屋に仕掛けていた鍵の魔法陣を突破され、追い掛けてきた。
追い付かれてなるものかと、どんどん強くなるダレクの気配に速度が上げる。
塔に辿り着いたとき、瑛士の脚が思わずすくんだ。
想定以上にこの塔は高かった。
いや、地面が城を中心になだらかに傾斜していたからその分高さが増しているらしい。
「もう逃げられないぞ!大人しくしろ!」
「はっ」
脚がすくんだその瞬間に追い付かれ、取り囲まれてしまった。
しかも相手は捕獲用の仕掛けさすまたを装備している。一度あれに囚われてしまえばもう逃げられない。攻撃するにしても結界を張るにしても魔法陣だと時間が掛かる。瑛士は魔法陣無しの魔法を扱えない自分に腹が立った。
どうするかと思案する。
何かないか。この状況を打開できる策は。
「まさかこんなすぐに逃げ出すとは思わなかったぞ。予想以上に強かでますます気に入った」
そうこうしている間にも最も来て欲しくない人物、ダグパールが笑顔でやって来た。
「だが、悪足掻きも此処までだ。いい加減に諦めて余のもとに──」
「エージ!!!!」
「!?」
求めていた声が耳に響いて、瑛士は声がした方向へと顔を向けた。
棟の下にダレクがいる。
「ダレク!!」
なら、何を恐れることがあろうか。
最後の覚悟が決まり、瑛士は目の前のダグパールに不敵な笑みを浮かべて見せる。
「残念でしたが、ここで終わるわけにはいきません」
「なにを…」
ダグパールの言葉を遮るようにくるりと踵を返して、瑛士は思い切りダレクの方向へと跳んだ。
これが答えだ。
「俺の想い人は、ただの一人だけだあああああ!!!!」
下方にダレクの姿をはっきりと確認した。驚きの表情をしながらも、ダレクは既に瑛士に向かって両腕を広げていた。
「ダレク!俺を受け止めてください!!」
後ろでダグパールが止める声が聞こえたけれど、残念ながら俺はダレクのモノだ。
両手を広げたダレクに見事受け止められ、ぐるんと回って衝撃を逃がした。ダレクの匂いに包み込まれて、安堵した。
ああ、やっと帰ってきた。
「大丈夫か、エージ。怪我はないか?」
「それはこちらの台詞ですよ。生きてて良かった」
「さ、逃げますよ!」
ダグパールを一瞥すると、そのままダレクに抱き抱えられてその場から逃走した。
塔の上で姿を隠した三人を眺めるダグパールは口許に笑みを浮かべていた。
「ふ…、逃げられてしまったか」
こんな高さから飛び下りるとは想定外だった。
あんな顔していてなんという度胸だ。
逃げられたというのに、何故だかダグパールは口許に笑みが浮かぶ。
「追わなくてよろしいので?」
「ああ、今追わずとも、後日アスコアニで交渉すればいいことだ」
そうだ、まだ彼の所有権はこちらにあるのだから。
「引き上げるぞ。怪我人の確認と被害状況の確認をしてくれ」
「は!」
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