10 / 13
9.
しおりを挟む
智樹は美術室で製作途中の作品へ取り掛かる。すると廊下から智樹が部屋に入ってきた。
「まだ帰らねえの?」
帰宅をせかす圭介に智樹は尋ねる。
「サッカー部は?」
圭介は視線を自分の指先にずらして言う
「いいの。どうせサッカー選手になれるわけでもないし、このままやっても、県大会一回戦がいいとこのうちでもレギュラーになれない」
「ふうん」
圭介は見回りをしつつ智樹の家でお茶して帰ることがほとんどだった
「亜香里は?」
「え?」
「…、来ないの?別にいいけど。宝探しにご執心だったでしょ」
智樹は圭介が亜香里にも仲間意識らしいものがあるのだな、と思い直した。いや、むしろ人付き合いとは、そういうものかもしれないな、とも思う。チームプレーの必要な圭介はもしかするとそういう意識が高いのだろう。
「亜香里は水泳部。部活動してるから平日は無理だよ」
「へ、水泳部、いま時期泳いでんの?寒くね」
「ああ、市の屋内プール、あるでしょ。たまに使わせてもらって、あとは基礎練習、だったかな。グラウンド走ってるって」
「何それ。ガチじゃん」
「そうだね。誰かと違って」
「嫌味言うなよ」
「あ、ごめん。そんなつもりないよ。運動部のことはよくわからない」
「線引きしやがって。亜香里ってそんな成績だしてんの?」
「さあ。でもうちの学校で成績いい運動部なんて聞いたことないけど」
「ふうん」
圭介は興味を失ったのか、テーブルの上のお茶菓子を口に運んだ。
「でも、そう思うと、変質者も日々街をねり歩いてるわけだろ。熱心だよな」
「毎日かはわからないけど、そうだね。確かに。働いてないのかな。それに変質者かはまだわからないんじゃない?不審者でしょ」
「んなの、どっちでも変わらんでしょ。無職か。なんか、そういうのって、働いてるやつがストレス発散にしてるイメージ。無職は考えてなかったな」
「そういうもの?」
「いや、わからんし」
最近は曇り空が多い。よけいに寒々しく感じられる。圭介は学校で亜香里の席に近づいてきた。下校時間のため、クラスに人はまばらだ。
「今日も部活なの?」
「まあ、そうだけど。なに?」
「いや、目標とかあるの?」
「何の話?気色悪い」
「あ、そ。それじゃ」
圭介は肩をすくめてから亜香里の席を離れようとする。
「ねぇ、ちょっと」
亜香里が圭介を呼び止める。圭介は体半分だけ振り返る。亜香里がめんどくさそうな視線を送っている。
「もやもやさせないでよ」
「…、部活行くんだろ。俺は行かないけど」
「なあにすねてんの」
「すねてねえよ。…、お前レギュラーなの?」
「違うけど?」
「ふうん」
「なに、レギュラー目指して頑張りましょうが、悪いわけ」
「いや、頑張れよ」
圭介は亜香里が何か言う前に教室を出た。
屋敷の中は部屋こそ多いが、学校と比べれば、全容を把握するのに時間はかからなかった。智樹も圭介も一応は屋敷に集まるたびに一通り歩いたり、仕掛けの類を探してみたりしていたが、何の収穫もなかった。やはり図面が致命的に二人の意欲を削いでいた。
「そもそも、見て歩いているだけで見つかるなら、住んでる智樹か、他の家族が気づかないわけないもんな」
圭介はソファに腰かける。智樹は暖炉の上に置かれた写真たてを手に取って見ていた。写真は自分が生まれる前の祖父、久良木のものだ。
「俺の聞き間違いだったのかもね」
圭介は座ったまま前かがみになり、ため息をつく。
「例えば、暖炉の中、どうだ?調べたことある?」
「え、いや、ないけど」
「よし、じゃあ」
圭介は言うなり、ソファから暖炉へ歩いてきた。
「汚いし、危ないかも」
圭介は動きを止めることなく、暖炉の中に入る。
「うわ、暗くて何も見えない」
智樹が生きているうちで暖炉に火が入っている状態を見たことがない。空調設備が備え付けられているので、使う必要がないのだ。智樹は携帯電話のライトをつけて圭介に渡す。盲点といえば盲点だが、そんなところに部屋への出入り口を作ったりするだろうか。
「なんもない。けぶい」
圭介が少しむせながら暖炉からでてきた。
「うわ」
「なに」
圭介の頭は黒ずんでいた。煤が服も汚している。
「ちょっと、顔洗ってこないとまずいかも」
「あ、え、まじか」
智樹はうろたえる圭介を洗面所に案内する。智樹は圭介が顔を洗う間にタオルを取りに向かう。少なくともあの暖炉を隠し部屋への出入りに使うことはないだろうな、と考える。使うことはもちろん清掃すらしていない。仮に隠し部屋への通路として使うのなら、暖炉としては使えないようにしなくては危険だ。隠し部屋にいる間にうっかり一酸化炭素中毒なんてこともあるかもしれない。その点使った痕跡が残っている暖炉は候補から外していいと思う。まして、智樹は煤だらけになった祖父を見たことがない。
「これ使って」
智樹は圭介にタオルを渡す。圭介がタオルで顔をぬぐっている間に、さっき考えた暖炉の話を伝えた。
「まぁ、そうだよな」
「急にあんなことしてどうした?」
「いや、そんな気分だっただけ。てか、服の汚れ落ちないよな」
「たぶん」
「タオル、買って返すわ」
「え、ああ、いいよ」
「うーん、今度なんか持ってくるわ」
「律儀だね」
「無頓着すぎ」
「まだ帰らねえの?」
帰宅をせかす圭介に智樹は尋ねる。
「サッカー部は?」
圭介は視線を自分の指先にずらして言う
「いいの。どうせサッカー選手になれるわけでもないし、このままやっても、県大会一回戦がいいとこのうちでもレギュラーになれない」
「ふうん」
圭介は見回りをしつつ智樹の家でお茶して帰ることがほとんどだった
「亜香里は?」
「え?」
「…、来ないの?別にいいけど。宝探しにご執心だったでしょ」
智樹は圭介が亜香里にも仲間意識らしいものがあるのだな、と思い直した。いや、むしろ人付き合いとは、そういうものかもしれないな、とも思う。チームプレーの必要な圭介はもしかするとそういう意識が高いのだろう。
「亜香里は水泳部。部活動してるから平日は無理だよ」
「へ、水泳部、いま時期泳いでんの?寒くね」
「ああ、市の屋内プール、あるでしょ。たまに使わせてもらって、あとは基礎練習、だったかな。グラウンド走ってるって」
「何それ。ガチじゃん」
「そうだね。誰かと違って」
「嫌味言うなよ」
「あ、ごめん。そんなつもりないよ。運動部のことはよくわからない」
「線引きしやがって。亜香里ってそんな成績だしてんの?」
「さあ。でもうちの学校で成績いい運動部なんて聞いたことないけど」
「ふうん」
圭介は興味を失ったのか、テーブルの上のお茶菓子を口に運んだ。
「でも、そう思うと、変質者も日々街をねり歩いてるわけだろ。熱心だよな」
「毎日かはわからないけど、そうだね。確かに。働いてないのかな。それに変質者かはまだわからないんじゃない?不審者でしょ」
「んなの、どっちでも変わらんでしょ。無職か。なんか、そういうのって、働いてるやつがストレス発散にしてるイメージ。無職は考えてなかったな」
「そういうもの?」
「いや、わからんし」
最近は曇り空が多い。よけいに寒々しく感じられる。圭介は学校で亜香里の席に近づいてきた。下校時間のため、クラスに人はまばらだ。
「今日も部活なの?」
「まあ、そうだけど。なに?」
「いや、目標とかあるの?」
「何の話?気色悪い」
「あ、そ。それじゃ」
圭介は肩をすくめてから亜香里の席を離れようとする。
「ねぇ、ちょっと」
亜香里が圭介を呼び止める。圭介は体半分だけ振り返る。亜香里がめんどくさそうな視線を送っている。
「もやもやさせないでよ」
「…、部活行くんだろ。俺は行かないけど」
「なあにすねてんの」
「すねてねえよ。…、お前レギュラーなの?」
「違うけど?」
「ふうん」
「なに、レギュラー目指して頑張りましょうが、悪いわけ」
「いや、頑張れよ」
圭介は亜香里が何か言う前に教室を出た。
屋敷の中は部屋こそ多いが、学校と比べれば、全容を把握するのに時間はかからなかった。智樹も圭介も一応は屋敷に集まるたびに一通り歩いたり、仕掛けの類を探してみたりしていたが、何の収穫もなかった。やはり図面が致命的に二人の意欲を削いでいた。
「そもそも、見て歩いているだけで見つかるなら、住んでる智樹か、他の家族が気づかないわけないもんな」
圭介はソファに腰かける。智樹は暖炉の上に置かれた写真たてを手に取って見ていた。写真は自分が生まれる前の祖父、久良木のものだ。
「俺の聞き間違いだったのかもね」
圭介は座ったまま前かがみになり、ため息をつく。
「例えば、暖炉の中、どうだ?調べたことある?」
「え、いや、ないけど」
「よし、じゃあ」
圭介は言うなり、ソファから暖炉へ歩いてきた。
「汚いし、危ないかも」
圭介は動きを止めることなく、暖炉の中に入る。
「うわ、暗くて何も見えない」
智樹が生きているうちで暖炉に火が入っている状態を見たことがない。空調設備が備え付けられているので、使う必要がないのだ。智樹は携帯電話のライトをつけて圭介に渡す。盲点といえば盲点だが、そんなところに部屋への出入り口を作ったりするだろうか。
「なんもない。けぶい」
圭介が少しむせながら暖炉からでてきた。
「うわ」
「なに」
圭介の頭は黒ずんでいた。煤が服も汚している。
「ちょっと、顔洗ってこないとまずいかも」
「あ、え、まじか」
智樹はうろたえる圭介を洗面所に案内する。智樹は圭介が顔を洗う間にタオルを取りに向かう。少なくともあの暖炉を隠し部屋への出入りに使うことはないだろうな、と考える。使うことはもちろん清掃すらしていない。仮に隠し部屋への通路として使うのなら、暖炉としては使えないようにしなくては危険だ。隠し部屋にいる間にうっかり一酸化炭素中毒なんてこともあるかもしれない。その点使った痕跡が残っている暖炉は候補から外していいと思う。まして、智樹は煤だらけになった祖父を見たことがない。
「これ使って」
智樹は圭介にタオルを渡す。圭介がタオルで顔をぬぐっている間に、さっき考えた暖炉の話を伝えた。
「まぁ、そうだよな」
「急にあんなことしてどうした?」
「いや、そんな気分だっただけ。てか、服の汚れ落ちないよな」
「たぶん」
「タオル、買って返すわ」
「え、ああ、いいよ」
「うーん、今度なんか持ってくるわ」
「律儀だね」
「無頓着すぎ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる