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その日は秋晴れといった言葉の似あう天気であったが、週をまたいで一層、冷え込んだ気がした。屋敷のチャイムに外へ出ると、圭介と亜香里が待ち構えていた。
「圭介?」
「なんだよ」
圭介の髪は異様に黒光りしている。
「ね」
亜香里も智樹にアイコンタクトをしてきた。二人を連れて屋敷に戻る。
「圭介、もう体調はいいの?」
「問題なし」
圭介は心なしか声を張っている。
「こんにちは」
玄関に入ると彩花が待ち構えていた。
「こんにちは」
圭介が誰よりも早く、大きな声で対応し、深々と頭を下げた。
「うわあ」
亜香里が肩をすくめる。圭介は亜香里ににらみを利かせる。亜香里は気づかなかったふりをしてそっぽを向いた。
「こんにちは」
亜香里が彩花とあいさつを交わす。二人はいくらか会話を交わしていたが、今度は彩花の方が少し変、というか興味津々といった様子だった。亜香里を含めて屋敷内を、新しい考えが浮かばないかと、一通り廻った後、和室の客間に二人を通して、しばらく先週の忍者屋敷について思い返して意見交換をした。正直、一般住宅に適用できそうな話とは思えないという話になった。落とし穴なんて、現代社会になんの用途があるのかなど、砕けた議論を行った。その後は智樹の親戚の建築業者についても話に挙がった。その人物は智樹の叔父にあたるが、正直、業種以上の知識は智樹にも乏しかった。お盆や正月には顔を合わせるが、智樹が近況を報告するような話が中心で叔父のことはあまり深く聞いたことはなかった。すると、その話のさなか、彩花が部屋に現れて、叔父の会社についていくらか教えてくれた。彩花の方が年上ということもあってか、智樹よりも大分詳しかった。智樹が訊ねると、彩花は智樹が、叔父さんに関心持っていないだけだと少し叱られた。実は叔父が智樹のことを自分の会社に誘いたがっていると言われたときには寝耳に水だった。彩花から言わせれば、態度を見ていれば誰でも分かるし、親族が智樹たちの屋敷でお酒を飲む際には、智樹が自室に控えた後、本人がそうぼやいていたのも一度や二度ではないらしい。叔父としては智樹が美術部という点も、製図の一歩として喜んでいるらしい。
「叔父さんは、このお屋敷の改装の際にも、全部引き受けてくれたらしくて、それも智樹を引き入れるために、お父さんたちへのゴマすりだって自分で言ってたの」
「え、ここ改装してるの?」
智樹は知らなかった。智樹と同じく二人も驚きの表情を浮かべている。
智也は二人を送りつつ三人で近くの駄菓子屋まで足を運んだ。
「さっきの話だと…」
口を開いたのは亜香里だった。他の二人が無言で亜香里に視線を向ける。もしかしたら隠し部屋自体が消失してしまったかもしれない。その考えをそれぞれに考えていた。
「でもさ、おじいちゃんは今年の春にそのことを智樹に話したんだろう?」
「いや、でもおじいちゃんも最後までしゃんとしていたように見えたけど、もしかしたら、昔の記憶と混濁していたのかも」
「こんだ…?」
圭介のフォローも智樹自身で否定的に返してしまう。
「でも、逆にさ、おじいさんが叔父さんに改装を頼んだ際に、秘密の部屋について何か話しているかもしれない」
亜香里がひらめいたように笑顔で智樹に話しかける」
「彩花さんの話だと智樹がまだ小さいころの改装だったんだろう?そしたら、その“つゆだく”になってなかったころかもしれない」
「つゆだく?でも、うん、そうだね。そうかもしれない」
「そうだ、叔父さんに会えたりしないのかな」
亜香里が言う。
「普通に会えると思うよ。叔父さん県内に住んでいるし」
「ちかっ」
圭介が駄菓子のカツをほおばりながら言った。
「叔父さんが秘密の部屋について知っているかはわからないから、その話抜きで会えるよう連絡とってみるよ」
週明けに圭介と亜香里は、智樹が屋敷の修繕時の資料を見たいと電話を叔父にかけて了承を得られたことを聞いた。次の週末に三人は叔父の会社へ出向くことになった。叔父の本田和人は智樹が建築に進む気があるのか、と乗り気らしい。
「圭介?」
「なんだよ」
圭介の髪は異様に黒光りしている。
「ね」
亜香里も智樹にアイコンタクトをしてきた。二人を連れて屋敷に戻る。
「圭介、もう体調はいいの?」
「問題なし」
圭介は心なしか声を張っている。
「こんにちは」
玄関に入ると彩花が待ち構えていた。
「こんにちは」
圭介が誰よりも早く、大きな声で対応し、深々と頭を下げた。
「うわあ」
亜香里が肩をすくめる。圭介は亜香里ににらみを利かせる。亜香里は気づかなかったふりをしてそっぽを向いた。
「こんにちは」
亜香里が彩花とあいさつを交わす。二人はいくらか会話を交わしていたが、今度は彩花の方が少し変、というか興味津々といった様子だった。亜香里を含めて屋敷内を、新しい考えが浮かばないかと、一通り廻った後、和室の客間に二人を通して、しばらく先週の忍者屋敷について思い返して意見交換をした。正直、一般住宅に適用できそうな話とは思えないという話になった。落とし穴なんて、現代社会になんの用途があるのかなど、砕けた議論を行った。その後は智樹の親戚の建築業者についても話に挙がった。その人物は智樹の叔父にあたるが、正直、業種以上の知識は智樹にも乏しかった。お盆や正月には顔を合わせるが、智樹が近況を報告するような話が中心で叔父のことはあまり深く聞いたことはなかった。すると、その話のさなか、彩花が部屋に現れて、叔父の会社についていくらか教えてくれた。彩花の方が年上ということもあってか、智樹よりも大分詳しかった。智樹が訊ねると、彩花は智樹が、叔父さんに関心持っていないだけだと少し叱られた。実は叔父が智樹のことを自分の会社に誘いたがっていると言われたときには寝耳に水だった。彩花から言わせれば、態度を見ていれば誰でも分かるし、親族が智樹たちの屋敷でお酒を飲む際には、智樹が自室に控えた後、本人がそうぼやいていたのも一度や二度ではないらしい。叔父としては智樹が美術部という点も、製図の一歩として喜んでいるらしい。
「叔父さんは、このお屋敷の改装の際にも、全部引き受けてくれたらしくて、それも智樹を引き入れるために、お父さんたちへのゴマすりだって自分で言ってたの」
「え、ここ改装してるの?」
智樹は知らなかった。智樹と同じく二人も驚きの表情を浮かべている。
智也は二人を送りつつ三人で近くの駄菓子屋まで足を運んだ。
「さっきの話だと…」
口を開いたのは亜香里だった。他の二人が無言で亜香里に視線を向ける。もしかしたら隠し部屋自体が消失してしまったかもしれない。その考えをそれぞれに考えていた。
「でもさ、おじいちゃんは今年の春にそのことを智樹に話したんだろう?」
「いや、でもおじいちゃんも最後までしゃんとしていたように見えたけど、もしかしたら、昔の記憶と混濁していたのかも」
「こんだ…?」
圭介のフォローも智樹自身で否定的に返してしまう。
「でも、逆にさ、おじいさんが叔父さんに改装を頼んだ際に、秘密の部屋について何か話しているかもしれない」
亜香里がひらめいたように笑顔で智樹に話しかける」
「彩花さんの話だと智樹がまだ小さいころの改装だったんだろう?そしたら、その“つゆだく”になってなかったころかもしれない」
「つゆだく?でも、うん、そうだね。そうかもしれない」
「そうだ、叔父さんに会えたりしないのかな」
亜香里が言う。
「普通に会えると思うよ。叔父さん県内に住んでいるし」
「ちかっ」
圭介が駄菓子のカツをほおばりながら言った。
「叔父さんが秘密の部屋について知っているかはわからないから、その話抜きで会えるよう連絡とってみるよ」
週明けに圭介と亜香里は、智樹が屋敷の修繕時の資料を見たいと電話を叔父にかけて了承を得られたことを聞いた。次の週末に三人は叔父の会社へ出向くことになった。叔父の本田和人は智樹が建築に進む気があるのか、と乗り気らしい。
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