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圭介とは次の休みに家に招く約束をした。智樹は家路を歩く。肩に掛けた修学旅行の荷物が疲労に追い打ちをかけてくる。夕暮れの空は赤みがさしていて、少し肌寒い。
「秘密の部屋なんて、本当にあるんだろうか」
智樹だって、話を聞いた後は少し浮足だっていた。けれど、そのあと祖父が亡くなり、そんな考えを持ったままではいられなくなっていた。多分、このまま忘れるはずだったのだ。修学旅行、そんな状況が、忘れかけていた秘密を思い出させるきっかけになったのだろう。このことがきっかけに本当に見つかるのだろうか。智樹は少しだけ気分が高揚したことを自覚した。期待は、しない方がいい。理性ではそう思っていても、落ち着かない心地になっていた。
圭介は団地のアパートの階段を上る。秘密の部屋、どんなものが考えられるだろうか。やっぱり忍者屋敷のようなつくりだろうか。壁が回転したり、本棚が動いたり、圭介の頭の中では様々なイメージが浮かんでは消えた。圭介は荷物のサイドポケットから鍵を取り出した。きしむ扉を開く。重い荷物を閉まる扉につっかえさせながら、家の中に疲れた体を押し込んだ。
「おかえり」
「ただいま」
圭介は荷物を床へ転がした。
智樹はバッグの中身を仕分け、洗濯ものを取り出した。智樹は外泊をあまり好まない。労力がかかりすぎる上に、帰宅後の片づけが追い打ちをかけるからだ。非日常というものに合わないたちなのだろう。だからこそ祖父との秘密を漏らしてしまうなんてことをしてしまった。今になって後悔が頭をよぎる。秘密は秘密のままがよかったのではなかろうか。これは亡くなった祖父に対する裏切りではないか、と自問する。自分には気にしすぎる悪いくせがあると、智樹は自覚している。大人になると考えることが増えていくという。この先の自分の行く末を案じて、智樹はため息をついた。
「圭介、食べ終わったなら食器をシンクに持っていきなさい」
圭介は母の言葉にうんざりしながら食器に手を付けた。けれど、圭介には刺激のない日常を塗り替えられるかもしれない、秘密の計画を持つ自分に、にやついてしまう。もし、何か見つけることができたら、智樹やその家族に気づかれることなく、息をひそめていた、屋敷に隠された秘密の構造、隠し扉や秘密の抜け穴などが圭介の頭に浮かんでは消えた。
部屋は少し湿った匂いがした。しばらく開けられていない祖父の部屋には湿気がこもっているようだ。祖父の部屋には本が多い。管理上あまりよくないかもしれない。こんど両親に相談してみようかと智樹は考えた。けれど、その智樹の問いかけをきっかけに祖父の品々の処分に話が及んでしまったらと思い、やめておくことにした。智樹は特段おじいちゃん子ということはなかったはずだ。それにもかかわらず、なぜ自分に秘密を託したのだろう。どちらかといえば姉の彩花の方が祖父とは親しかったように思う。
「智樹、ここにいたんだ」
通路から開いた扉越しに彩花が覗いている。
「姉さん」
「少しかび臭いね」
彩花の言葉に祖父の持ち物の処分がすでに検討されているかのように思われ、智樹は口をはさめなかった。
「ここに歴史あり、って感じね。おじいちゃんが生きてきた時間がここにつまっているのね、きっと」
彩花は手を体の後ろに組んで部屋に入ってくる。周囲を見渡しながら、本棚の本を一冊抜き取った。
「おじいちゃんね、ここにある本を取り出して読んでいることあまりなかったんだ」
「そうなんだ…」
「ここには読み終えた本をしまうだけ、なんでとってあるのか聞いたことがあるの」
「へえ、なんだって?」
「思いが残ってしまって、捨てられなかったそう」
「思い?」
「そう、わかんないよね。単に物を捨てられない方って、だけだったとも思えるけど、自分の積み重ねてきた物に囲まれると、自分の世界みたいに思えるんだって」
智樹は自分の世界という言葉に何か神秘的なものを感じ取った。智樹は祖父に対して優しかったという印象が強いものの、具体的なエピソードは覚えていない。祖父には在ったのだろうか、秘密を託すだけの思い出が。祖父の部屋で祖父との思い出を顧みる彩花を見ていると疑問は強まった。祖父の家族にも言わなかった秘密とはなんだろうか。
「秘密の部屋なんて、本当にあるんだろうか」
智樹だって、話を聞いた後は少し浮足だっていた。けれど、そのあと祖父が亡くなり、そんな考えを持ったままではいられなくなっていた。多分、このまま忘れるはずだったのだ。修学旅行、そんな状況が、忘れかけていた秘密を思い出させるきっかけになったのだろう。このことがきっかけに本当に見つかるのだろうか。智樹は少しだけ気分が高揚したことを自覚した。期待は、しない方がいい。理性ではそう思っていても、落ち着かない心地になっていた。
圭介は団地のアパートの階段を上る。秘密の部屋、どんなものが考えられるだろうか。やっぱり忍者屋敷のようなつくりだろうか。壁が回転したり、本棚が動いたり、圭介の頭の中では様々なイメージが浮かんでは消えた。圭介は荷物のサイドポケットから鍵を取り出した。きしむ扉を開く。重い荷物を閉まる扉につっかえさせながら、家の中に疲れた体を押し込んだ。
「おかえり」
「ただいま」
圭介は荷物を床へ転がした。
智樹はバッグの中身を仕分け、洗濯ものを取り出した。智樹は外泊をあまり好まない。労力がかかりすぎる上に、帰宅後の片づけが追い打ちをかけるからだ。非日常というものに合わないたちなのだろう。だからこそ祖父との秘密を漏らしてしまうなんてことをしてしまった。今になって後悔が頭をよぎる。秘密は秘密のままがよかったのではなかろうか。これは亡くなった祖父に対する裏切りではないか、と自問する。自分には気にしすぎる悪いくせがあると、智樹は自覚している。大人になると考えることが増えていくという。この先の自分の行く末を案じて、智樹はため息をついた。
「圭介、食べ終わったなら食器をシンクに持っていきなさい」
圭介は母の言葉にうんざりしながら食器に手を付けた。けれど、圭介には刺激のない日常を塗り替えられるかもしれない、秘密の計画を持つ自分に、にやついてしまう。もし、何か見つけることができたら、智樹やその家族に気づかれることなく、息をひそめていた、屋敷に隠された秘密の構造、隠し扉や秘密の抜け穴などが圭介の頭に浮かんでは消えた。
部屋は少し湿った匂いがした。しばらく開けられていない祖父の部屋には湿気がこもっているようだ。祖父の部屋には本が多い。管理上あまりよくないかもしれない。こんど両親に相談してみようかと智樹は考えた。けれど、その智樹の問いかけをきっかけに祖父の品々の処分に話が及んでしまったらと思い、やめておくことにした。智樹は特段おじいちゃん子ということはなかったはずだ。それにもかかわらず、なぜ自分に秘密を託したのだろう。どちらかといえば姉の彩花の方が祖父とは親しかったように思う。
「智樹、ここにいたんだ」
通路から開いた扉越しに彩花が覗いている。
「姉さん」
「少しかび臭いね」
彩花の言葉に祖父の持ち物の処分がすでに検討されているかのように思われ、智樹は口をはさめなかった。
「ここに歴史あり、って感じね。おじいちゃんが生きてきた時間がここにつまっているのね、きっと」
彩花は手を体の後ろに組んで部屋に入ってくる。周囲を見渡しながら、本棚の本を一冊抜き取った。
「おじいちゃんね、ここにある本を取り出して読んでいることあまりなかったんだ」
「そうなんだ…」
「ここには読み終えた本をしまうだけ、なんでとってあるのか聞いたことがあるの」
「へえ、なんだって?」
「思いが残ってしまって、捨てられなかったそう」
「思い?」
「そう、わかんないよね。単に物を捨てられない方って、だけだったとも思えるけど、自分の積み重ねてきた物に囲まれると、自分の世界みたいに思えるんだって」
智樹は自分の世界という言葉に何か神秘的なものを感じ取った。智樹は祖父に対して優しかったという印象が強いものの、具体的なエピソードは覚えていない。祖父には在ったのだろうか、秘密を託すだけの思い出が。祖父の部屋で祖父との思い出を顧みる彩花を見ていると疑問は強まった。祖父の家族にも言わなかった秘密とはなんだろうか。
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