シャボン玉

ヨージー

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「ねぇ、一番最後まで消えなかったシャボン玉ってどんな気持ちなのかな」
 彼女はそう言って笑った。俺はその問いにどう答えたのか覚えていない。

「尚太、ご飯」
 母親が大きな声で呼んでいる。母にはきっと、そうやって起こされる側の中に起こるわだかまりのような何か、がわからないのだろう。俺は時間を確認する。すると自分の書いたポストイットが目についた。今日は昨日終わらなかった資料作成のために早出する必要があった。俺は飛び起きて、本当に飛んでいたかはわからないけれど、そのくらいの気持ちで身支度をした。母親にご飯を断り、家をでた。

 幸い仕事は大事にい足らずにすんだが、朝に続き昼もほとんど抜きのような状況になってしまった。隙を見てコンビニに行こうと思案する。
「竹内さん、昼食べましたか?」
「篠田さん、ありがとうございます。あとで上手くやっときます」
 篠田さんは年下だが先輩だ。そこには俺の怠惰な学生時代が影響しているわけだが、特に重要ではないので省略。篠田さんは年下でそのことを気にしてか曖昧な距離ができている。しかし、その立ち居振舞いから、スペックの高さが感じられていて、かつ、人柄も申し分ない。尚太としては、内心応援している。頑張れ篠田さん。

 その日は残業もなく終わり、なんなら終盤は暇をもてあました。世の中もっといつもほどほどに頑張って回ればいいのに、妙に忙しくなったり、暇になったりと緩急をつけてくるから余計に疲れる、と内心ぼやいたが。いつもほどほどに忙しいというのも想像するに面倒くさそうだったので、辞去しておく。家では夕飯が用意されていて、父は夕食を終えて横になっていた。そんな父を見て、最近体型を気にし始めた自分としては、いい気なもんだ、と言いたい気持ちもあったが、なにも言わずに肉じゃがをありがたく頂戴した。尚太は、今でこそ実家から通勤しているが、学生のころは独り暮らしをしていて、その点で母親のありがたみは理解が進んだ。職場の事務の園崎さんは旦那が実家暮らしからそのまま結婚したため、そこの理解がないと漏らしていた。共働きが多い今の時代、その理解の差は問題だと一度話しになったことがある。けれど、尚太は母親の大変さを理解しながら特に感謝の言葉をかけているわけでもないし、手伝ってもいないので、むしろ断罪される側かもしれない、と思った。
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