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まず情報の少ない宍戸泰介と香椎柚子の二人について、宍戸泰介は家業の農家を継ぐ安定した未来が確約されていた。農家の子には将来の雇い主として腫れ物のように扱われていた。だからこそ林業に進むはずだった田口誠司と仲良くしていた。山での遭難のあと行方は分かっていない。次に香椎柚子は元々街の出身であてを失いやむなく村に移住。年の近い村の子たちと仲良くなった。遭難事件のあと、田口誠司の回復と村八分を見届けて村に母親を残して失踪している。最後に田口誠司は、村で家業の林業を営む予定だったけど、遭難騒動のために、足を潰した上に、村を追われて街に拠点を移した。だけど、田口誠司はなんの自己弁護もしなかったし、香椎柚子と結ばれることもなく、一見、何もかもを失ったように思える。さて、この内容から導かれる答えはなんでしょうね。
「本庄さん、今のまとめ方は…」
友也は自分の気づきに重ねて、貴音の考えを悟った。
「さすが佐切くん」
貴音は笑い始めた。
「え、なんですか?どういうことですか?」
幸也と慎吾は二人の顔を交互に見た。
「二人ともごめんなさいね。実は佐切くんには少しヒントをあげていたの」
今度は友也だけが二人に顔を見られた。
「田口誠司は、ちゃんとメリットがあってことに及んでいるのよ」
「え、と、でも、田口誠司は結果的に足を引きずるようなケガまでしてるのに、メリットなんて」
慎吾が言葉を挟む。
「そう、おそらく、もう田口誠司は山に入るような、林業のような仕事にはつけなかったでしょうね」
「え、それって」
幸也はコーヒーの缶を机に強く打ってしまう。
「田口誠司と宍戸泰介、発見されたのが反対だったら村八分なんてことになったかしら」
「ならなかったかもしれない…」
慎吾も分かったようだ。
「もし負傷して見つかった田口誠司が、村に受け入れられてしまったら、元通り林業に勤しむ人生になっていたでしょうね」
「香椎柚子は、田口誠司が村に残れなくなるための保険ですか…」
友也も言葉を挟んだ。
「じゃあ、宍戸泰介は…」
「もしかしたら、物事を見届けた香椎柚子と合流したのかもしれないわね」
「なにもそこまでしなくても」
「なかなか土地に根付いた文化を覆すのは難しいものよ」
サークル搭からの帰り道、友也は自転車を押して、徒歩通学の幸也と話していた。
「謎がとけてよかったな」
友也は幸也に笑いかけた。思ったよりも明るい答えに友也は気分よくなっていた。
「まあ、憶測だけどな」
「え、そうだけど」
幸也のドライな反応に友也は動揺した。
「人伝の話を証拠なしで推理してもらったんだから」
「嬉しくないの?」
「まさか、嬉しいよ。遠縁だけど、身内の疑いをはらってくれたみたいなものだから。俺にはあんな考えは思い浮かばなかったろうな」
「そうか」
「友也の友だちだから本庄さんがリップサービスしてくれたんだな」
幸也の言葉に、貴音の姿を思い浮かべた。
「それは…、ないな」
「本庄さん、今のまとめ方は…」
友也は自分の気づきに重ねて、貴音の考えを悟った。
「さすが佐切くん」
貴音は笑い始めた。
「え、なんですか?どういうことですか?」
幸也と慎吾は二人の顔を交互に見た。
「二人ともごめんなさいね。実は佐切くんには少しヒントをあげていたの」
今度は友也だけが二人に顔を見られた。
「田口誠司は、ちゃんとメリットがあってことに及んでいるのよ」
「え、と、でも、田口誠司は結果的に足を引きずるようなケガまでしてるのに、メリットなんて」
慎吾が言葉を挟む。
「そう、おそらく、もう田口誠司は山に入るような、林業のような仕事にはつけなかったでしょうね」
「え、それって」
幸也はコーヒーの缶を机に強く打ってしまう。
「田口誠司と宍戸泰介、発見されたのが反対だったら村八分なんてことになったかしら」
「ならなかったかもしれない…」
慎吾も分かったようだ。
「もし負傷して見つかった田口誠司が、村に受け入れられてしまったら、元通り林業に勤しむ人生になっていたでしょうね」
「香椎柚子は、田口誠司が村に残れなくなるための保険ですか…」
友也も言葉を挟んだ。
「じゃあ、宍戸泰介は…」
「もしかしたら、物事を見届けた香椎柚子と合流したのかもしれないわね」
「なにもそこまでしなくても」
「なかなか土地に根付いた文化を覆すのは難しいものよ」
サークル搭からの帰り道、友也は自転車を押して、徒歩通学の幸也と話していた。
「謎がとけてよかったな」
友也は幸也に笑いかけた。思ったよりも明るい答えに友也は気分よくなっていた。
「まあ、憶測だけどな」
「え、そうだけど」
幸也のドライな反応に友也は動揺した。
「人伝の話を証拠なしで推理してもらったんだから」
「嬉しくないの?」
「まさか、嬉しいよ。遠縁だけど、身内の疑いをはらってくれたみたいなものだから。俺にはあんな考えは思い浮かばなかったろうな」
「そうか」
「友也の友だちだから本庄さんがリップサービスしてくれたんだな」
幸也の言葉に、貴音の姿を思い浮かべた。
「それは…、ないな」
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