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祖母にはお気に入りの椅子がある。ひどく古びたもので、祖母が座る度にミシリと危ない音がする。けれど、不思議と椅子は壊れていない。祖母は朝起きるとすぐにその椅子に向かう。そして、ミシリと、音を立てて座ったのち、動くことが滅多にない。夏の暑い日も、冬の寒い日も。祖母はもともと働き者だった。俺の小さな頃、祖母がなにもせずに座っている、何てことは見た記憶がなかった。けれど、祖父がなくなり、日々の生活にも苦労するようにもなった祖母を俺の両親が半ば強引にヘルパーを雇ったことで、祖母はただ、生きることしか、することがなくなってしまった。それから何週間かした頃、祖母はヘルパーさんに頼んで、物置の奥から、その古びた椅子を運び出させたらしい。それからずっと、祖母はその椅子と共に生活している。
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