38 / 47
38.
しおりを挟む
演劇部の練習は体育館で行うものだと考えていたが、実際には体育館を利用する運動部の方が勢力として強いため、ほとんど体育館は活用しない。ではどこを活用するのか、弥伊子は驚いた。普通の教室だった。普通教室の机を動かし、活用できるスペースを産み出していた。弥伊子は芦屋恭子の強硬により、演劇部の活動へ連れ出されていた。もちろん演者としてではない。弥伊子は発表会の類いは苦手だったし、人前を好む方ではない。それに美術も平均点、服を作るなんてこともしたことがない。それではなんの関係があって演劇部の部活動の席に呼ばれているのか。友人であるところの藤田飛鳥の活躍を見にきたわけではない。それならば公演会に足を運べばいい。事実弥伊子はかつて公演会を見たこともある。今回の公演では、藤田飛鳥の配役に驚きこそしたが、そのために練習に駆けつけるほどのこともない。それでは、もう一人、練習に参加する異端児、獅童宰都のためだろうか。彼は南洞弥伊子にとっては思い人であり、彼の姿を記憶に残すために参加するというのは青春を謳歌する高校生としてはなくはない話なのかもしれない。獅童宰都は件の両親との相談のあと、一皮むけたように学校生活を楽しんでいる。芦屋恭子からの突然のオファーにも二つ返事だったのだという。弥伊子は芦屋恭子の頼みだったから、という点に関しては考えないことにして気持ちを落ち着けていた。きっと今の獅童宰都ならば、どんな学校行事にも精力的に率先して臨んでいたことだろう。だが、獅童宰都の存在をもってしても弥伊子がその場にいる理由には足らなかった。その理由としてあげるならば獅童宰都の出演承諾に伴い、須藤綾もまた練習に駆けつけようとしたらしいが、演劇部の練習の邪魔になると演劇部員らに弾かれたらしい。では何故南洞弥伊子は許されたのか。それは南洞弥伊子が今回の公演に限り、関係者といえたからだ。もちろん、何かの意図を持って芦屋恭子が練習に外部の生徒を招いたとしたら、通された可能性もなくはないのかもしれないが、今回の件に芦屋恭子の意向は関係ない。もとをただせば関係なくはないのだが、今回練習に弥伊子が連れ込まれたのは他の演劇部員らからの依頼による。知り合いだった芦屋恭子に弥伊子を呼ぶ白羽の矢がたったに過ぎない。弥伊子としては他の誰かから強いて言うならば獅童宰都くらいだが、であったのなら足を運ばなかったろうとも思う。藤田飛鳥は弥伊子に今回に限っては公演を見てほしくなかったろうし、外部の獅童宰都に人を呼ぶ権限などないのも明らかだ。ゆえに適任といえば適任なのだが。今回の公演に関して弥伊子が演劇部からお声がかかった経緯はやはり芦屋恭子による原因があるが、弥伊子にも理由のもとがある。それはもとをたどると獅童宰都と親しくなって本を読み始めたことだったりするし、そのきっかけとなった芦屋恭子の存在によるものなのかもしれない。けれど芦屋恭子に言わせれば違うらしい。彼女は弥伊子の勧誘にあたりこういった。
「どんな理由であれ、物語を作ることにしたのはお前の意思だろう」
南洞弥伊子は今回の演劇部公演に関して脚本家として練習から立ち会っている。
「どんな理由であれ、物語を作ることにしたのはお前の意思だろう」
南洞弥伊子は今回の演劇部公演に関して脚本家として練習から立ち会っている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる