誰の目にも輝きを

ヨージー

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 演劇部の練習は体育館で行うものだと考えていたが、実際には体育館を利用する運動部の方が勢力として強いため、ほとんど体育館は活用しない。ではどこを活用するのか、弥伊子は驚いた。普通の教室だった。普通教室の机を動かし、活用できるスペースを産み出していた。弥伊子は芦屋恭子の強硬により、演劇部の活動へ連れ出されていた。もちろん演者としてではない。弥伊子は発表会の類いは苦手だったし、人前を好む方ではない。それに美術も平均点、服を作るなんてこともしたことがない。それではなんの関係があって演劇部の部活動の席に呼ばれているのか。友人であるところの藤田飛鳥の活躍を見にきたわけではない。それならば公演会に足を運べばいい。事実弥伊子はかつて公演会を見たこともある。今回の公演では、藤田飛鳥の配役に驚きこそしたが、そのために練習に駆けつけるほどのこともない。それでは、もう一人、練習に参加する異端児、獅童宰都のためだろうか。彼は南洞弥伊子にとっては思い人であり、彼の姿を記憶に残すために参加するというのは青春を謳歌する高校生としてはなくはない話なのかもしれない。獅童宰都は件の両親との相談のあと、一皮むけたように学校生活を楽しんでいる。芦屋恭子からの突然のオファーにも二つ返事だったのだという。弥伊子は芦屋恭子の頼みだったから、という点に関しては考えないことにして気持ちを落ち着けていた。きっと今の獅童宰都ならば、どんな学校行事にも精力的に率先して臨んでいたことだろう。だが、獅童宰都の存在をもってしても弥伊子がその場にいる理由には足らなかった。その理由としてあげるならば獅童宰都の出演承諾に伴い、須藤綾もまた練習に駆けつけようとしたらしいが、演劇部の練習の邪魔になると演劇部員らに弾かれたらしい。では何故南洞弥伊子は許されたのか。それは南洞弥伊子が今回の公演に限り、関係者といえたからだ。もちろん、何かの意図を持って芦屋恭子が練習に外部の生徒を招いたとしたら、通された可能性もなくはないのかもしれないが、今回の件に芦屋恭子の意向は関係ない。もとをただせば関係なくはないのだが、今回練習に弥伊子が連れ込まれたのは他の演劇部員らからの依頼による。知り合いだった芦屋恭子に弥伊子を呼ぶ白羽の矢がたったに過ぎない。弥伊子としては他の誰かから強いて言うならば獅童宰都くらいだが、であったのなら足を運ばなかったろうとも思う。藤田飛鳥は弥伊子に今回に限っては公演を見てほしくなかったろうし、外部の獅童宰都に人を呼ぶ権限などないのも明らかだ。ゆえに適任といえば適任なのだが。今回の公演に関して弥伊子が演劇部からお声がかかった経緯はやはり芦屋恭子による原因があるが、弥伊子にも理由のもとがある。それはもとをたどると獅童宰都と親しくなって本を読み始めたことだったりするし、そのきっかけとなった芦屋恭子の存在によるものなのかもしれない。けれど芦屋恭子に言わせれば違うらしい。彼女は弥伊子の勧誘にあたりこういった。
「どんな理由であれ、物語を作ることにしたのはお前の意思だろう」
南洞弥伊子は今回の演劇部公演に関して脚本家として練習から立ち会っている。
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