誰の目にも輝きを

ヨージー

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 学校へ行けなくなる、そう言った獅童宰都に弥伊子は戸惑った。けれど、弥伊子は思い出した。獅童宰都が学校で呼び出されていた日のことを。
「親御さん?」
「そう、知ってたんだ。いや噂だよね」
「うん」
「両親はさ。大学への受験資格さえ手にできれば通学は必要ないと言うんだ」
弥伊子は実際に通学して卒業しなくても大学への入試を受けることができる制度をテレビで見たことがあった。
「大学も通信制でいいというんだ」
「じゃあ、大学も」
「通わない、らしい」
そう話す獅童宰都は物悲しそうだ。
「僕としてはそこにずっと抵抗していたんだけど、いよいよダメらしい」
「そんなの、親が止める話なの?」
「そんな一般論通じないよ」
獅童宰都は吐き捨てるように呟いた。そして、そのあとすぐに弥伊子に「ごめん」と言った。
「うちの親は変に頑固なんだよ。いつも割を食う」
獅童宰都はホームのベンチに座り背を預けた。弥伊子も隣へ座る。
「僕は親の仕事を継ぐことになるだろう、そう気づいたのはいくつのときだっただろう。そう、あやふやになるくらい前から決まっていた」
「…」
「南洞さんはあの和菓子屋さんを継ぐのかい?」
「そんなの、わからない」
「そう、だよね」
その表情に影が射している。
「僕はさ、別に今からなりたいものなんて特に思い付かない。だから、両親がそう望むのなら、それがいいのかなって。僕の人生は今までそう踏み固められてきている」
弥伊子は言葉が思い付かない。
「恭子はさ、すごいんだ自分で自分の仕事も将来も作ってしまう」
弥伊子は芦屋恭子の豪胆さを思い出す。
「僕にはああはなれない。うらやましいよ、正直」
弥伊子は少しだけひっかかる。
「恭子はお母さんに何かを求められたわけでもなく、小さな頃から目標へ向けて自分の道を見つけてきた。そんな風に僕も生きてこれたら、ってつい考えてしまう」
弥伊子は自分の知る芦屋恭子について考える。
「獅童くんが芦屋さんに憧れていることは、わかったよ。でも、でもさ、芦屋さんは確かにすごいけど、普通の子なんだよ」
「君は昔からの恭子のことを知らないから」
「ううん、獅童くんは芦屋さんを違うことにして逃げたいだけだよ」
獅童宰都が押し黙る。
「芦屋さんは確かに自分の夢がある。でも、それって普通のことじゃない?私だって将来何かになりたいとはまだ見つけられていないけど。でも夢を見るってありふれたことだと思う」
「…」
「夢のために頑張ることなんて誰でもできるし、いつからでも、できると思う」
弥伊子は向かいのホームへ視線を向ける。
「芦屋さんは特別じゃない。獅童くんも特別じゃない。今日の獅童くんの笑顔はみんなと同じなんだよ。楽しそうな同い年の男の子」
「でも、僕には」
「ねえ、獅童くんは自分のしたいことをご両親に伝えたの?」
「僕にはそんな願いは」
「学校へ行きたいんじゃないの?」
「それは夢じゃない」
「ううん、夢、だよ。したいことはみんな夢なんだよ」
「そんな程度のことでいいの?」
「夢に大きさなんて関係ないんだよ」
「僕はなんのために学校へ行きたいのかな」
「そんなの、楽しいからでいいじゃない」
獅童宰都と弥伊子の目があった。
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