誰の目にも輝きを

ヨージー

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「今から帰り?」
「藤田くん、どうして」
「…加藤さんに南洞さんが疲れた顔してたって聞いて」
「待ってたの?」
弥伊子は真澄と別れた時間を思い出す。あれはどのくらい前だっただろう。
「待ってた」
「演劇部は?」
「休んだ」
「なんで」
「一緒に帰ろうよ」
藤田飛鳥は泣きたくなるような優しい笑顔で弥伊子に話しかけた。弥伊子は同様しながらも藤田飛鳥と一緒に帰り始めた。
「南洞さんが遅刻するなんて、びっくりした」
「あ、あれは朝のメイクに時間が…」
「メイクしてもらったんだよね」
「…」
「僕もされたことあるんだ、実は」
「え?」
「僕は演劇部だから、劇でね」
「ああ」
「芦屋さんのメイク、すごいよね」
「うん、」
弥伊子は今朝、自分の部屋で見た自分の姿を思い出していた。あれは本当に自分だったのだろうか。メイクを落としてしまった今、自分の頭のなかで勝手に記憶を美化しているのでは、とも思うほどだ。でも本当のことだ。出回った写真のことに考えが至り、またため息をつきそうになる。
「僕も見たかったな」
藤田飛鳥の言葉に弥伊子はついかっとなりそうになり、藤田飛鳥にきつい視線を向けてしまった。弥伊子は急いで顔を背けた。
「いつも綺麗な南洞さんのメイク姿、今度は見せて欲しいな」
弥伊子は背けた顔を驚きでまた藤田飛鳥へ向ける。今度は藤田飛鳥の方が顔を背けていてよく表情は見えなかった。
「電車ちょうどいいのがありそうだね」
藤田飛鳥が駅の時刻表を示した。いつの間にか駅まで歩いてきていたらしい。弥伊子はまだ先ほどの発言から立ち直れておらず、言葉を返せなかった。
 電車内で二人は並んで椅子に腰かけた。電車の中は西日が指して眩しかった。そこからは普段通りの他愛のない話が続いた。最初は動揺が残っていた弥伊子も普通に話せるようになっていた。藤田飛鳥は弥伊子の降車駅まで乗り続けた。弥伊子は藤田飛鳥の降車駅を知らせたが、藤田飛鳥が譲らなかった。心配だから、そう目を見て言われて弥伊子は何も返せなくなってしまった。藤田飛鳥は結局弥伊子の家まで送ってくれた。弥伊子は、不安げに藤田飛鳥を見ていたが、藤田飛鳥は普段通りだった。弥伊子の家についたとき、辺りは暗くなり始めていた。
「ごめん、なんだかありがとう」
「僕こそ意地をはったみたいでごめん」
会話が止まってしまう。声をかけようとしたとき藤田飛鳥の視線がそれた。弥伊子が振り返ると見覚えのある重そうな鞄が見えた。
「弥伊子ママさん、この箱はどこに運べばいいの?」
芦屋恭子の声が聞こえた。
「どうして」
「あ、南洞さん、今日はお疲れ様、また明日」
藤田飛鳥は笑顔は変わらないものの慌てた素振りで走り去ってしまった。
「また明日」
弥伊子は慌てて帰る藤田飛鳥を見送った。
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