指折り数え

6.

「もしもし」
受話器をとるとはじめから男の呻き声が聞こえた。先日のものとは内容が異なった。男の呻き方が最初からかなり大きかった。そこには、これから自分の身に何が起きるのかわかっている恐怖が受け取れた。男の呻き声で何かが変わることはなく、最後には昨日と同じ悲鳴が聞こえた。
「現金は用意できたか？」
「…用意できました」
一転した後の淡白な合成音声が幹恵を動揺させる。
「これから指定する株式を購入しろ」
「株、ですか」
そこからは電子音声が株の明細を繰り返し伝えてきた。警察がメモをとる。
「また連絡する」
電話はその言葉で切断された。
警察は事前に家に盗聴器がないか確認し終えていたこともあり、電話の終話直後から各方面へ連絡をとりはじめた。わかったことはすべての身代金を株の購入へ使うにはもう一日かかるということだった。