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第7章 旅立ち
幕間 望郷(ロサンゼルス)
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女に投げ飛ばされたいという気持ちはロハンにはわからない。
それどころか女から離れたい。視界に入っていない方が安心出来る。
以前は隙あらば手当たり次第に多くの女性に近づき仲良くなろうと画策しまくっていた彼だがリアル人狼ゲームの後では180度変わった。
何年経っても女性恐怖症が治らない。
アクシデントで妨げられなければロハンは票を集め処刑されていた。女たちの剥き出しの殺意の目が今も忘れられない。
求められるままに教えている古武術は教室と言える規模になり女性の入門希望者も来るが全て断っている。
まずは体格が違う女性の指導について学んでいないので安全が保証出来ないこと。次に、
『実は女性に殺されかけたことがありまして……』
今も女性恐怖症が克服出来ていないと告白すれば適当に勘違いして憐憫と共に納得してくれる。
自分たちが放り込まれたのは「第三ゲーム」と報道で呼ばれていた。
まともに成立しなかった初回、やっとゲームになった2回目に続きあの会社が企画した3回目のゲームだそうだ。その後は海外へ逃げ戻って開催したミッションスクールの高校生たちのゲームが「第四ゲーム」とされている。
第四ゲームサバイバーでただひとり経済的理由で進学しなかった少年が女に投げられたい変態野郎だ。名前は聞いたが正直どうでもいい。彼はその後悪魔のささやきに唆され、あこぎな方法で大金を集め同級生より二年遅れで大学に進学した。
という訳で今は財力もあるのだからアメリカにも来られるだろうがラクシュミから要望の取次はない。
投げられたいというより、女性にという方が重要なのだろうがその辺りラクシュミはわかっていないのか、理解していてわざとなのか。
そして問題の「悪魔」はラクシュミだ。
(あの頃警察官じゃなかったか?)
少し前に警察を辞め、経験を活かして調査会社に就職したと本人が知らせてきた。
だが父経由の情報では事実は違う。警察よりもっと恐ろしい、その親玉のようなところに誘われ転職したと聞いている。
「なのにコレかよ」
憮然としてスマホを眺める。
『何で俺が豪華客船に乗らなきゃならないんでしょうか』
第四ゲームの哀れな高校生たちとは違い自分たちは賞金をぶんどっている。学費に使っただろう年下の連中はともかくラクシュミは貯えたままではないのか?
『ラクシュミさんが行かれてもよろしいのでは?』
『君が一番お金持ちでしょう。客層に合っている』
今でも秘匿性の高いアプリでの連絡だ。
お金に不自由したことがないのはその通りだが、豪華客船を楽しむ層はロハンたちとは別種の存在だ。どうせ白人主体の社交世界だろうし何が楽しいのかわからない。
『下調べは必要なの。よろしく』
やはり女は恐い。
『大学もやっと卒業して暇でしょう?』
止めてくれ。
最初の大学でドロップアウトし、移った先でも留年してやっと終えた学生時代はもう思い出したくもない。
ロハンは留学が決まった時の元州知事との会話を思い出した。
ーーーーー
リアル人狼ゲームから生還して少しして米国留学の手筈を整えてきたのは当時州知事だった閣下本人だった。
「あの俺、勉強苦手なんですが。父から聞いていませんか」
カレッジだけで十分、海外の四年制のユニバーシティなど無理だと青くなったロハンに、自分を知っているのはいいことだと彼は笑った。
「今回は君の経歴を汚さずに渡航する一番いい方法を選んだに過ぎない。わたしも学生時代勉強は苦手だったから気持ちはわかるが、そこは勘弁してくれ」
「閣下がですか?」
お父さんから聞いていないのかと逆に問われ首を横に振る。
知事と父は同じ大学に通っていた。
自分と彼の息子も同じだった。この絆は一生続くとロハンは信じていた。
リアル人狼ゲームで囚われていた時、戻ったら奴とつるんでくだらないことで盛り上がり、飲んで踊って、ツーリングをしてとそれを望みに耐えていた。
親友だと思っていた男は、知事ですら手を出せない事件に巻き込まれたことで面子が潰されたと激怒した。次代を継ぐ彼ら兄弟の怒りを買ったロハンの海外追放を条件に、父や兄は何とか今の地位に留まることを許された。
知事閣下の補佐は何百年、もしかしたら何千年と続いている我が家の家業だ。ロハンひとりのために失う訳にはいかない。
当の知事は昔からの優しいおじさんのままだった。
『君は何も悪くない。だが、この年になれば親が言ったからどう出来もしないのは君にもわかるだろう』
親友の拒絶を伝えた同情と申し訳なさに溢れた顔をロハンは覚えている。
「君のお父さんは勉学によく励んでいたがわたしは駄目だった。それでも今は州のためにお役に立っている。そこまで卑下することじゃない。だが、大学時代真剣に勉学に取り組んでいたのはー」
彼は国政レベルの大臣や国会議員の名を出した。
「あの、日本の大学は入った後卒業するのがやさしいって聞いたんですがー」
日本留学帰りのクリスティーナの話だ。とにかく少しでも楽をしたい。
「君から聞いてそれも調べたよ。だが日本の大学は基本的に日本語で授業が行われる。君は覚える気はあるか?」
(あり得ねえ!)
ーーーーー
その日本語をラクシュミはマスターしたらしい。
先日ノンネイティブ向けの日本語試験の一番難しい級に合格したと聞いた。
女に投げられたい男よりよほど変態じゃないかと思う。
(ってあの人結婚しないのか)
あの時最年長だったクリスティーナより年上になったはずだが。
クリスティーナの手記や遺髪などの発見で、第三ゲームの捜査報告書は予定より一年近く遅れて発表された。
第四ゲームでリアル人狼ゲームの存在が明らかになった時もこの時も、これで帰国が許されるのではないかと希望に縋ったが現実は変わらない。
最初の会場で死んだ犠牲者は警察が庭を掘り起こし家族の元に戻った。
だが後半の会場で死者の処理に雇われた裏社会の連中は四散し、アビマニュにクリスティーナ、探偵女のダルシカらの遺体は未だ発見されていない。
ロハンも同じだ。帰れない。
その原因を作った大元は誰だ?
ーリアル人狼ゲーム運営の連中だ。
『わかりました。乗ります。条件を教えてください』
それどころか女から離れたい。視界に入っていない方が安心出来る。
以前は隙あらば手当たり次第に多くの女性に近づき仲良くなろうと画策しまくっていた彼だがリアル人狼ゲームの後では180度変わった。
何年経っても女性恐怖症が治らない。
アクシデントで妨げられなければロハンは票を集め処刑されていた。女たちの剥き出しの殺意の目が今も忘れられない。
求められるままに教えている古武術は教室と言える規模になり女性の入門希望者も来るが全て断っている。
まずは体格が違う女性の指導について学んでいないので安全が保証出来ないこと。次に、
『実は女性に殺されかけたことがありまして……』
今も女性恐怖症が克服出来ていないと告白すれば適当に勘違いして憐憫と共に納得してくれる。
自分たちが放り込まれたのは「第三ゲーム」と報道で呼ばれていた。
まともに成立しなかった初回、やっとゲームになった2回目に続きあの会社が企画した3回目のゲームだそうだ。その後は海外へ逃げ戻って開催したミッションスクールの高校生たちのゲームが「第四ゲーム」とされている。
第四ゲームサバイバーでただひとり経済的理由で進学しなかった少年が女に投げられたい変態野郎だ。名前は聞いたが正直どうでもいい。彼はその後悪魔のささやきに唆され、あこぎな方法で大金を集め同級生より二年遅れで大学に進学した。
という訳で今は財力もあるのだからアメリカにも来られるだろうがラクシュミから要望の取次はない。
投げられたいというより、女性にという方が重要なのだろうがその辺りラクシュミはわかっていないのか、理解していてわざとなのか。
そして問題の「悪魔」はラクシュミだ。
(あの頃警察官じゃなかったか?)
少し前に警察を辞め、経験を活かして調査会社に就職したと本人が知らせてきた。
だが父経由の情報では事実は違う。警察よりもっと恐ろしい、その親玉のようなところに誘われ転職したと聞いている。
「なのにコレかよ」
憮然としてスマホを眺める。
『何で俺が豪華客船に乗らなきゃならないんでしょうか』
第四ゲームの哀れな高校生たちとは違い自分たちは賞金をぶんどっている。学費に使っただろう年下の連中はともかくラクシュミは貯えたままではないのか?
『ラクシュミさんが行かれてもよろしいのでは?』
『君が一番お金持ちでしょう。客層に合っている』
今でも秘匿性の高いアプリでの連絡だ。
お金に不自由したことがないのはその通りだが、豪華客船を楽しむ層はロハンたちとは別種の存在だ。どうせ白人主体の社交世界だろうし何が楽しいのかわからない。
『下調べは必要なの。よろしく』
やはり女は恐い。
『大学もやっと卒業して暇でしょう?』
止めてくれ。
最初の大学でドロップアウトし、移った先でも留年してやっと終えた学生時代はもう思い出したくもない。
ロハンは留学が決まった時の元州知事との会話を思い出した。
ーーーーー
リアル人狼ゲームから生還して少しして米国留学の手筈を整えてきたのは当時州知事だった閣下本人だった。
「あの俺、勉強苦手なんですが。父から聞いていませんか」
カレッジだけで十分、海外の四年制のユニバーシティなど無理だと青くなったロハンに、自分を知っているのはいいことだと彼は笑った。
「今回は君の経歴を汚さずに渡航する一番いい方法を選んだに過ぎない。わたしも学生時代勉強は苦手だったから気持ちはわかるが、そこは勘弁してくれ」
「閣下がですか?」
お父さんから聞いていないのかと逆に問われ首を横に振る。
知事と父は同じ大学に通っていた。
自分と彼の息子も同じだった。この絆は一生続くとロハンは信じていた。
リアル人狼ゲームで囚われていた時、戻ったら奴とつるんでくだらないことで盛り上がり、飲んで踊って、ツーリングをしてとそれを望みに耐えていた。
親友だと思っていた男は、知事ですら手を出せない事件に巻き込まれたことで面子が潰されたと激怒した。次代を継ぐ彼ら兄弟の怒りを買ったロハンの海外追放を条件に、父や兄は何とか今の地位に留まることを許された。
知事閣下の補佐は何百年、もしかしたら何千年と続いている我が家の家業だ。ロハンひとりのために失う訳にはいかない。
当の知事は昔からの優しいおじさんのままだった。
『君は何も悪くない。だが、この年になれば親が言ったからどう出来もしないのは君にもわかるだろう』
親友の拒絶を伝えた同情と申し訳なさに溢れた顔をロハンは覚えている。
「君のお父さんは勉学によく励んでいたがわたしは駄目だった。それでも今は州のためにお役に立っている。そこまで卑下することじゃない。だが、大学時代真剣に勉学に取り組んでいたのはー」
彼は国政レベルの大臣や国会議員の名を出した。
「あの、日本の大学は入った後卒業するのがやさしいって聞いたんですがー」
日本留学帰りのクリスティーナの話だ。とにかく少しでも楽をしたい。
「君から聞いてそれも調べたよ。だが日本の大学は基本的に日本語で授業が行われる。君は覚える気はあるか?」
(あり得ねえ!)
ーーーーー
その日本語をラクシュミはマスターしたらしい。
先日ノンネイティブ向けの日本語試験の一番難しい級に合格したと聞いた。
女に投げられたい男よりよほど変態じゃないかと思う。
(ってあの人結婚しないのか)
あの時最年長だったクリスティーナより年上になったはずだが。
クリスティーナの手記や遺髪などの発見で、第三ゲームの捜査報告書は予定より一年近く遅れて発表された。
第四ゲームでリアル人狼ゲームの存在が明らかになった時もこの時も、これで帰国が許されるのではないかと希望に縋ったが現実は変わらない。
最初の会場で死んだ犠牲者は警察が庭を掘り起こし家族の元に戻った。
だが後半の会場で死者の処理に雇われた裏社会の連中は四散し、アビマニュにクリスティーナ、探偵女のダルシカらの遺体は未だ発見されていない。
ロハンも同じだ。帰れない。
その原因を作った大元は誰だ?
ーリアル人狼ゲーム運営の連中だ。
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