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第7章 旅立ち
7ー2 主犯
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バーラムには既に録画を送ってあるという。
テーブルの角にアッバース、左隣にルチアーノ。そこから左へイジャイ、スディープ、ヴィノードと座り翼を広げたように反対側の右にアディティとシャキーラが座る。椅子を動かして中央へ寄りアッバースのスマホを注視した。
スタンドに立てたスマホにナラヤンの姿が映り、息を呑んだ。
合掌し最初に神の名を呼んだ彼の顔は痩せて頬が削げただけではない。頬と口元に大きな傷が入っていた。はっきりして形の良い目元、程よく通った鼻筋と端正さは変わらないが、その容貌は色々見ているルチアーノにもぞっとするほどの凄みを感じさせた。
一度アッバースが動画を止める。
「少年院でやられたって」
育ちのいい雰囲気を持った彼がぶち込まれた時のことは想像出来る。
「職員の人たちは気を使ってくれてたそうだけど、それでも防げなくてリンチされたってことだ」
一時は入院もしたと説明する。
『ナマスカール。最初に、君たちの友人を殺したことをお詫びする』
ナラヤンは再度合掌した。
『ぼくには言われたくないかもしれないけれど、それでも君たちの卒業をうれしく思っている。ぼくも少年院を出所してから通った高校を卒業した。この後大学に進学する』
ヴィノードが目をすがめた。
この中で彼だけが進学しない。勉強の頑張りは見ていてわかったがそれでも今までの分は取り返せなかった。奨学生となれる成績は取れず彼は大学進学をあきらめた。
ショッピングマートの事務として既に働き出しているが今日は休みをもらったという。
『前からの希望通り我が国の古典文化を学ぶ。ただ、勉強する目的は変わった。ぼくの罪をどうしたらいいのか。殺した彼らと、ご遺族や関係する方々のために祈ることと、賠償金を送ること以外に何をするべきなのか。それを目的に勉強するつもりだ』
落ち着いた口調は以前の通りだ。
『ぼくが大学に進むことをよく思っていないご遺族もいらっしゃる』
彼らの未来を潰した本人が何故ということだろう。
『大学を出た方がもらえる給料がよくなる。親のお金ではなくぼくが稼いだお金から賠償金を払うことになっているご遺族もいらっしゃるから、その人たちに早くお渡し出来るようにと進学を決めた』
示談条件は遺族によってそれぞれだ。
マスコミ報道で「人狼」として逮捕された学生2名と、被害者であるクラスメートの親との裁判や示談の経過は流れてくる。ナラヤンの親が家を売ったお金で最初に話がついたのがニルマラのところで、他の4名のうち、
『うちの子だって逆になっていたかもしれないから』
とかなり手心を加えた額で話が決まったのがサントーシュのところ。
自分で稼いだお金との条件はハルジートとスレーシュのところだ。カマリの遺族とは今も裁判中で決着がついていない。
『ぼくのことになんて興味はないかもしれないね。あの時のことを話そう。最初に、ぼくが人狼の中の主犯だということは告白しておく』
ナラヤンは話し続けた。
『その前にぼくが、というかぼくたちが把握していた人狼は全部で7人だ。9人いると言われていたけど2人は誰だかわからない。人狼部屋はぼくたちの4号室とナイナたちの7号室だ。ただし、バーラムはぼくたちの企てに全く乗っていない。彼の名誉のためにここは明言しておく。……彼の高潔さがぼくにもあったならと後から何度も思った』
もし人狼全員がバーラムのように殺害を拒否したなら、彼らは連中に皆殺しにされて新たな人狼が指定されるだけだった。ナラヤンも今生きていなかった。
だからといって殺したことを後悔しないとはいかないのだろう。
『7人なのは、ニルマラは『漂泊者』で人狼陣営だが『人狼』役ではなかったからだ』
「え?」
テーブルに声が漏れる。
『ヴィノードが申し出ていたけど『漂泊者』はひとりだ。ナイナがかなり厳しく詰め寄って、ニルマラはパソコンの画面を固定して見せて証明したそうだ』
23時からの5分間ずっと配役のページで固定し、動けるようになってすぐナイナに示した。
『短い間にあの画面を偽装するのも難しいから『漂泊者』はニルマラだったとぼくはみている』
視線を集めたヴィノードは、
「あの場で言ったぞ。殺されたくねえからって。確かお前に文句言われたけど、」
アディティを顎で指してから、
「誰でも考えつくだろうから先を越される前に言っちまわなきゃって必死だったんだよ!」
と白状した。
「本当の役は何だったの」
尋ねるアディティに、
「ただの『村人』だ」
切り札の3日目脱出権も放棄したし、配役にも何の武器もない。生き延びるための作戦だったとヴィノードは説明した。
「もうひとりの人狼はガヤトリだよ」
言い出したのはスディープだ。
「ぼくの役の『子象』はひとりだけ『人狼』を知らされるんだ。初日からパソコンにガヤトリの番号が出てた」
彼女は初日脱出を図ったシャンティを止めようと部屋から身を乗り出して殺害された。
人狼だとはモニターで知っただろうが何の行動もしていない。
「あの部屋が人狼部屋だとぼくは勘違いしていて、カマリが殺されるまで疑っていた」
『最初の夜、モニターから自分の部屋が「人狼部屋」で全員が人狼役だと教えられた。その時、本気で殺人を犯そうと思っていたのはまだ誰もいなかったはずだ』
再開した動画の中でナラヤンは語った。
テーブルの角にアッバース、左隣にルチアーノ。そこから左へイジャイ、スディープ、ヴィノードと座り翼を広げたように反対側の右にアディティとシャキーラが座る。椅子を動かして中央へ寄りアッバースのスマホを注視した。
スタンドに立てたスマホにナラヤンの姿が映り、息を呑んだ。
合掌し最初に神の名を呼んだ彼の顔は痩せて頬が削げただけではない。頬と口元に大きな傷が入っていた。はっきりして形の良い目元、程よく通った鼻筋と端正さは変わらないが、その容貌は色々見ているルチアーノにもぞっとするほどの凄みを感じさせた。
一度アッバースが動画を止める。
「少年院でやられたって」
育ちのいい雰囲気を持った彼がぶち込まれた時のことは想像出来る。
「職員の人たちは気を使ってくれてたそうだけど、それでも防げなくてリンチされたってことだ」
一時は入院もしたと説明する。
『ナマスカール。最初に、君たちの友人を殺したことをお詫びする』
ナラヤンは再度合掌した。
『ぼくには言われたくないかもしれないけれど、それでも君たちの卒業をうれしく思っている。ぼくも少年院を出所してから通った高校を卒業した。この後大学に進学する』
ヴィノードが目をすがめた。
この中で彼だけが進学しない。勉強の頑張りは見ていてわかったがそれでも今までの分は取り返せなかった。奨学生となれる成績は取れず彼は大学進学をあきらめた。
ショッピングマートの事務として既に働き出しているが今日は休みをもらったという。
『前からの希望通り我が国の古典文化を学ぶ。ただ、勉強する目的は変わった。ぼくの罪をどうしたらいいのか。殺した彼らと、ご遺族や関係する方々のために祈ることと、賠償金を送ること以外に何をするべきなのか。それを目的に勉強するつもりだ』
落ち着いた口調は以前の通りだ。
『ぼくが大学に進むことをよく思っていないご遺族もいらっしゃる』
彼らの未来を潰した本人が何故ということだろう。
『大学を出た方がもらえる給料がよくなる。親のお金ではなくぼくが稼いだお金から賠償金を払うことになっているご遺族もいらっしゃるから、その人たちに早くお渡し出来るようにと進学を決めた』
示談条件は遺族によってそれぞれだ。
マスコミ報道で「人狼」として逮捕された学生2名と、被害者であるクラスメートの親との裁判や示談の経過は流れてくる。ナラヤンの親が家を売ったお金で最初に話がついたのがニルマラのところで、他の4名のうち、
『うちの子だって逆になっていたかもしれないから』
とかなり手心を加えた額で話が決まったのがサントーシュのところ。
自分で稼いだお金との条件はハルジートとスレーシュのところだ。カマリの遺族とは今も裁判中で決着がついていない。
『ぼくのことになんて興味はないかもしれないね。あの時のことを話そう。最初に、ぼくが人狼の中の主犯だということは告白しておく』
ナラヤンは話し続けた。
『その前にぼくが、というかぼくたちが把握していた人狼は全部で7人だ。9人いると言われていたけど2人は誰だかわからない。人狼部屋はぼくたちの4号室とナイナたちの7号室だ。ただし、バーラムはぼくたちの企てに全く乗っていない。彼の名誉のためにここは明言しておく。……彼の高潔さがぼくにもあったならと後から何度も思った』
もし人狼全員がバーラムのように殺害を拒否したなら、彼らは連中に皆殺しにされて新たな人狼が指定されるだけだった。ナラヤンも今生きていなかった。
だからといって殺したことを後悔しないとはいかないのだろう。
『7人なのは、ニルマラは『漂泊者』で人狼陣営だが『人狼』役ではなかったからだ』
「え?」
テーブルに声が漏れる。
『ヴィノードが申し出ていたけど『漂泊者』はひとりだ。ナイナがかなり厳しく詰め寄って、ニルマラはパソコンの画面を固定して見せて証明したそうだ』
23時からの5分間ずっと配役のページで固定し、動けるようになってすぐナイナに示した。
『短い間にあの画面を偽装するのも難しいから『漂泊者』はニルマラだったとぼくはみている』
視線を集めたヴィノードは、
「あの場で言ったぞ。殺されたくねえからって。確かお前に文句言われたけど、」
アディティを顎で指してから、
「誰でも考えつくだろうから先を越される前に言っちまわなきゃって必死だったんだよ!」
と白状した。
「本当の役は何だったの」
尋ねるアディティに、
「ただの『村人』だ」
切り札の3日目脱出権も放棄したし、配役にも何の武器もない。生き延びるための作戦だったとヴィノードは説明した。
「もうひとりの人狼はガヤトリだよ」
言い出したのはスディープだ。
「ぼくの役の『子象』はひとりだけ『人狼』を知らされるんだ。初日からパソコンにガヤトリの番号が出てた」
彼女は初日脱出を図ったシャンティを止めようと部屋から身を乗り出して殺害された。
人狼だとはモニターで知っただろうが何の行動もしていない。
「あの部屋が人狼部屋だとぼくは勘違いしていて、カマリが殺されるまで疑っていた」
『最初の夜、モニターから自分の部屋が「人狼部屋」で全員が人狼役だと教えられた。その時、本気で殺人を犯そうと思っていたのはまだ誰もいなかったはずだ』
再開した動画の中でナラヤンは語った。
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