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第6章 狼はすぐそこに(6日目)

6ー29 解決

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 がなり立てる警察無線の行き来がムンバイ警察とラクナウ警察の綱引きを如実に伝えてくる。生徒たちの引き渡しを要求するラクナウに対し、ムンバイ側は条件を立てなかなか譲らない。
 結局明け方に、生徒たちが診察を受ける病院に着いたところで交代と決まったのは報道を確認してのようだった。もう事件や生徒たちの存在が隠されることはない。最悪は闇に葬られることまで危惧していたようにイジャイの父には思えた。
 監禁場所に入った警察官たちのうち彼だけが残ることとなる。
 元々非番で、被害生徒の保護者として付き添っているのだから当然だ。

 当初はラクナウ市内の病院で診察を受けさせる予定だったが、マスコミ除けにそれより手前の、学院とは友好関係にある別の修道会の大病院が目的地となった。
 別れ際巡査部長はムンバイ警察の面々へ挨拶に行った。
 病院の駐車場にて敬礼で礼を述べ、ムンバイへ帰るという首輪を切った職人にも改めて頭を下げた。
「息子さんがご無事で何よりでした。うちのせがれは戻って来なかったんです」
(?)
「ムンバイの旦那方はご存知なのですが……三年前、うちの一番上の息子も同じように連れ去れました」
 明け方の暗く青い空の下、呆然としている巡査部長に職人はとつとつと語った。しわの深さと髪の白さで老人のように思えていたがよく見ればそこまでではない。自分と同年代かもしれない。
「仕方ないです。皆様が大事に育てたお嬢さんさんやご子息をあの子は殺めました。『人狼』だったそうです」
 旦那のご子息は違いますよね、こちらには「人狼」の生徒は来てないと聞いていると尋ねかけられ、
「うちのは『兄弟』というのだったそうだが」
 巡査部長と職人のどちらもが首を傾げてラクシュミが、
「『兄弟』は『村人』の中の特殊配役の一つです。人を殺すことは義務づけられません」
 後方から解説する。
「ラジェーシュはなかなかの人狼ぶりでした。落ち着いた人でしたね」
 持ち上げたのに職人は目を細める。だが、
「人を殺したらおしまいです」
 首を振る職人に、モニターの中イジャイが危なっかしく突きつけた銃を見たショックが甦った。
 警官の業務で人を殺してしまったことはある。暴徒に襲われ対抗するために叩き伏せた男の死が最初だった。
 息子のそれは止められた。
 安堵はすぐ目の前の男の苦しみへ共鳴し、胸が重く痛みだす。
 職人の息子がこの女性警部補と同じ時に誘拐されていたことをようやく理解した。

「せがれが守ったというお嬢さん、ちょうど十年生でしたね。その子は戻ってきてうちで首輪を切ったんです。今回の生徒さん方よりもずっと泣き叫んでいて可哀想でした」
 だからイジャイの首輪を切る時に経験はあるから大丈夫だと告げたのか。
「うちのも結構騒ぎましたが」
「比べものになりませんよ」
 笑ってもしわに紛れてよくわからない。
「その後お嬢さんも行方がわからなくなって心配していましたが、今回警察の方から遠方で元気にしていると教えていただきほっとしております」
 息子さんのこれからの幸福をと職人は小さな祈りの言葉で締めた。

 診察が始まる前の控室となる病室に入った生徒たちにそれぞれラクナウ警察からの担当官がつく。イジャイには若い警官とベテランらしい中年の二人組が来た。若い方とは音楽の趣味が合ったようで自分にはわからない歌手や歌の話で盛り上がっている。
 疎外感を感じたが、これは日常が戻ってきたということでもある。
 ただし警察官の自分は知っている。そう簡単に「いつもの日常」は戻らない。
 この後の事情聴取は、クラスメートを手にかけた疑いやまだ犯人側の内通者がいるのではとの目で行われ未成年には過酷なものとなるだろう。近所の人々や学校外の友人たち、それにマスコミもー
 息子には見えないよう近づけたスマホでニュース字幕を読む。

『BREAKING NEWS』

『ラクナウ。St.R……学院クラス丸ごと誘拐事件、解決』
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