90 / 170
第5章 束の間の休息(5日目)
5ー10 天国
しおりを挟む
(そんな。マリアが)
『本日処刑されるのは36番と決まりました。36番。何か言い残すことはありますか』
ルチアーノは呆然とアナウンスを聞いた。
自分の入れた票が人を殺す。それもおそらく誰も殺していないだろう、女子の中でも気持ちの優しい同胞の少女を。
決選投票ではラジューへの票が増えると予想しバランスを取ったつもりだった。7票7票で今夜は処刑者なしでいける可能性にかけたのに。
同じことを他の人間も考えたのか。
(ああ)
マリアへの票の最後の番号は36番。彼女自身だ。
ラジューには票を入れられなかったのだ。
目を潤ませたマリアは少しの間何も言わなかった。そして、
「天国はきっと美しいところだと思うの」
そっと顔をほころばせる。
「ここは酷いところだけれど、でも、神様が造られたものは全部とても美しいもの」
「……」
隣でアッバースが席を立ち角に座るラジューの背に回るのが見えた。
マリアは部屋と自分たちを陶然と見渡す。純真な視線に自分が耐えられない。
「ルチアーノ。これ外していくから、よければ使って。わたしはもう主の御許に行くから必要ない」
私物回収で得た十字架のペンダントを外し、白いハンカチの上に置く。
頷くのがやっとだった。
「っっ……」
辛いのは殺されゆく方で自分ではない。歯を食いしばる。
優しいといつも自慢していた両親、妹も弟もいたはずだ。家族に恵まれた彼女がなぜこのような死に方を強いられなくてはならない?!
マリアはほっとしたように微笑みまた部屋を見回す。
「このクラスで皆に会えてよかったよ」
それから、
「ラジュー」
マラヤラム語で話しかけた。ラジューは右隣のスレーシュとアッバースに体を抑えられているらしい。時折相槌を打ちながらマリアを見つめその言葉を聞く。
と、
カクリ。
人形のように椅子の上に崩れ落ち、椅子が背から倒れマリアは頭から床に落ちアディティが慌てて白いワンピースの裾を整える。後ろからシャキーラも様子を伺う中、床は音を立てて開き、マリアの遺体は地に吸い込まれそして何事もなかったかのようにカーペットの床が戻った。
「あ……あっ……」
スレーシュらが手を離したらしいラジューは飛んでナイナとニルマラの背後を通りマリアが消えた床に着けば跪く。
「マリア様……マリアさん……」
丁寧に、優しく薄いピンク色のカーペットを何度か撫で、それから頭を床に擦り付けて肩を震わせた。
どれくらい経ったのか。
ゆっくりと頭を上げ、力なくラジューは立ち上がった。もう会議室には誰もいない。
いや。ドアの内側横にアッバースが腕を組んで立っていた。
「何って言ったらいいのかわからねえが、時間前には部屋に戻れ」
申し訳ありませんと背を丸めて前を通り過ぎる。
「寝る前の支度をしてから参ります」
「なるだけ早くな。今夜俺の所とお前の部屋は封鎖される」
人狼の疑いでだ、とアッバースは感情を見せずに告げた。
『本日処刑されるのは36番と決まりました。36番。何か言い残すことはありますか』
ルチアーノは呆然とアナウンスを聞いた。
自分の入れた票が人を殺す。それもおそらく誰も殺していないだろう、女子の中でも気持ちの優しい同胞の少女を。
決選投票ではラジューへの票が増えると予想しバランスを取ったつもりだった。7票7票で今夜は処刑者なしでいける可能性にかけたのに。
同じことを他の人間も考えたのか。
(ああ)
マリアへの票の最後の番号は36番。彼女自身だ。
ラジューには票を入れられなかったのだ。
目を潤ませたマリアは少しの間何も言わなかった。そして、
「天国はきっと美しいところだと思うの」
そっと顔をほころばせる。
「ここは酷いところだけれど、でも、神様が造られたものは全部とても美しいもの」
「……」
隣でアッバースが席を立ち角に座るラジューの背に回るのが見えた。
マリアは部屋と自分たちを陶然と見渡す。純真な視線に自分が耐えられない。
「ルチアーノ。これ外していくから、よければ使って。わたしはもう主の御許に行くから必要ない」
私物回収で得た十字架のペンダントを外し、白いハンカチの上に置く。
頷くのがやっとだった。
「っっ……」
辛いのは殺されゆく方で自分ではない。歯を食いしばる。
優しいといつも自慢していた両親、妹も弟もいたはずだ。家族に恵まれた彼女がなぜこのような死に方を強いられなくてはならない?!
マリアはほっとしたように微笑みまた部屋を見回す。
「このクラスで皆に会えてよかったよ」
それから、
「ラジュー」
マラヤラム語で話しかけた。ラジューは右隣のスレーシュとアッバースに体を抑えられているらしい。時折相槌を打ちながらマリアを見つめその言葉を聞く。
と、
カクリ。
人形のように椅子の上に崩れ落ち、椅子が背から倒れマリアは頭から床に落ちアディティが慌てて白いワンピースの裾を整える。後ろからシャキーラも様子を伺う中、床は音を立てて開き、マリアの遺体は地に吸い込まれそして何事もなかったかのようにカーペットの床が戻った。
「あ……あっ……」
スレーシュらが手を離したらしいラジューは飛んでナイナとニルマラの背後を通りマリアが消えた床に着けば跪く。
「マリア様……マリアさん……」
丁寧に、優しく薄いピンク色のカーペットを何度か撫で、それから頭を床に擦り付けて肩を震わせた。
どれくらい経ったのか。
ゆっくりと頭を上げ、力なくラジューは立ち上がった。もう会議室には誰もいない。
いや。ドアの内側横にアッバースが腕を組んで立っていた。
「何って言ったらいいのかわからねえが、時間前には部屋に戻れ」
申し訳ありませんと背を丸めて前を通り過ぎる。
「寝る前の支度をしてから参ります」
「なるだけ早くな。今夜俺の所とお前の部屋は封鎖される」
人狼の疑いでだ、とアッバースは感情を見せずに告げた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる