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第5章 束の間の休息(5日目)
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「毒物」はクローゼット隅のタオルの山の下に置き、不用意に取ればハンガーがかかったパイプが下に落ちる仕掛けを作った。
それでも心配で、ルチアーノは部屋でひとりになる度に荒らされていないかと覗いた。
男子棟1階のトイレで小用を済ませ手を洗う。と、
「う、うごっっ! グェええええっっ!」
個室から嘔吐の声が聞こえた。
(まさか)
反射的にドアを叩き叫ぶ。
「大丈夫かっ?!」
「うるせえ! ほっとけ!」
ヴィノードの声だ。こう罵れるのなら異常ないのだろう。
それでもロビーのソファーに座り、彼がトイレから出て普通に歩いて来るのを確認した。
「調子悪いのか」
「うるせえって言っただろ」
階段へ向かおうとする。
「俺はキッチンに入ってるから。食材が傷んでいたりしたら排除しなきゃいけないだろ?」
じろりと横目でこちらを見ると茶色いソファーの反対側の端に座った。
「そんなんじゃねえ。レトルト臭さを体が受け付けなくなってるだけだ」
この後どうしたらいいんだよと額を押さえる。
(こいつ、ここのところ俺たちの飯食ってなかったな)
昼に彼が食べていたレトルトのカディパコラはおいしそうに見えた。だがうつむくヴィノードの目尻に連続レトルトを嘆いたバーラムと同じように涙が滲んでいるのを見て認識を改める。レトルトばかりとはそこまできついのか。
「ほら、袋開けた時にむわっとする独特のアレ、あるだろ?」
「わからない。食べたことないし」
今回湯煎して皿にあける作業は何度かしたがスパイスのいい香りがするとしか思わなかった。
「施設とか寮食堂とかで出ねえの? 簡単だろ?」
「あんな高いもの出ないよ。市場で豆や野菜やスパイスがどれだけ買えると思う?」
「……」
ヴィノードの父親は機械系の会社の経営者だ。彼にはレトルトカレーが高いという感覚はないだろう。
「今夜はマトンビリヤニだ」
切り出す。
「知ってるよ」
「シャキーラが張り切って仕込んでいる。俺とアッバースは休みをもらった。アディティもこの昼からしばらく台所には入らない」
男子は今回休んでいいよ、大変でしょとシャキーラが配慮してくれた。
「マリアとニルマラがライタを作る」
ニルマラの名を口にしたところでヴィノードは顔をしかめた。
(それかよ)
自分が食べる料理を作るのにふさわしくないとの判断だ。
生き残ってノンベジ食堂で料理に手を出しているのは、彼女とアディティを除けばイスラム教徒かキリスト教徒。それも気に食わないというところか。
(あれ。だけどこいつ初めの頃は食ってたよな。文句垂れ流しながらだったけど)
そこまで味も気に食わなかったのか。作る方は毎食の苦闘で多量の調理にも慣れ、人数自体も減った。今ではそこまであからさまな失敗作はなくなったとルチアーノは思う。
「シャキーラはビリヤニ結構作っているらしい。君の食の法はわからないけど、問題なければ今夜は外食気分で食べたら?」
戻してたら栄養が取れなくなる。ここでは洒落にならないと付け加える。
考えておくとヴィノードは力なく言った。
「ルチ、ナラヤンから昨日の占いの結果聞いたか?」
「いや。どうだったって?」
「オレも聞いてねえから聞いたんだよ!」
「会議で話す、って。誰にも教えてないみたいだよ」
スティーブン、アディティ、ナイナ。今まで占った全員が村人だったが昨夜はとうとう人狼を引き当てたのではないか。不測の事態を避けるため夜の会議まで口をつぐむことにした?
空調の低い機械音、白い壁。
「お前、人狼か」
突然だった。
「違う」
すぐ否定する。何度も投票で票を集めている身には洒落にならない。
「だったらなぜオレのことを気遣う? 他の奴らは近付いても来ねえぞ」
「だろうね」
何人も殺している「人狼」のチーム、「漂泊者」だと白状したら当たり前ではないか。
「なんで昨日バラしたのさ?」
悪目立ちすることは避けるべきゲームらしいのに。
占星術師により人狼が暴露されるなら今夜の票はそちらに集まるにしても。
「ああ? だからあの時言っただろ! 生き残りたいからだって」
「なら俺も同じだよ。陣営の違う君とは利害は一致しないけど、君の生存は俺の利益になる。俺も生き残りたいからね」
村人と人狼の人数で勝負が決まるから「漂泊者」を殺したら村人は損をする、と彼本人が主張したではないか。
「人狼から連絡はあった?」
「あっても言う訳ねえだろっ!」
「そりゃそうだ」
小さく笑う。
「お前、恐くねえのか。ここにふたりっきりだぞ」
「……話を聞いてると人がケンカ、実力行使の奴」
と拳を突き出して見せ、
「取っ組み合いをやったことがあるかないかって結構わかる。君はやってるだろ」
多分ナラヤンはやっていない。
スティーブンはやっているらしいのが意外でアッバースにそれとなく聞いたところ、小さい頃は同じ家に住むいとこたちとの取っ組み合いが日常だったそうだ。
ヴィノードは二度顎で頷いた。
「バーで女の子と仲良くしていると面倒な奴に絡まれることも多くてな。男なら拳に語らせるってもんだ!」
まともなバーなら高校生を出入りさせない。本人が公言しているように酒を飲んでのナンパを年齢確認もいい加減な治安が悪い店で繰り返せば、トラブルは当然。自業自得だ。
「悪いけど場数ならこっちの方が踏んでると思うよ。チビだって侮っているのかもしれないけど、俺より小さい男なんて基本いないから大きい奴と戦う方法は知ってる」
暴力は嫌いだし多分暴力の方も自分は好きではない。だが施設の人間が外の奴に痛めつけられた時、とりわけこっちの女の子にちょっかいを出す奴らには総出でやり返した。一発やられたら三発から五発返し、向こうから十発返ってきたら三十発から五十発ぶん殴る。
そうやって施設の人間には手を出すなと他の子どもたちに思い知らせる。
最近は施設の先生方もそれを知って騒ぎになる前に納めるようになり、今のガキ共は荒っぽいことにあまり巻き込まれなくなった。いいことだ。
パワーに劣る自分の戦法は腕をねじりあげる、髪を引っ張る、ヴィノードのような穢れを気にしそうな奴には物理以外にも精神的なダメージを与える噛みつき、と痛みで戦意を喪失させることだ。ただし髪を引くのは間違えると首を痛め命に関わる。
「急所も知ってるよ。死んだら洒落にならないから避けるためだけど、ここはそういう場所じゃないからね」
ぐるりと天井を見回してみせる。
実際にケンカをしているからこそ自分の圧を感じたのだろう。ヴィノードは黙った。
「これも人狼に言い付ける?」
「だ、だから誰が人狼かもわかってないって言ってるだろっ!」
足をじたばたさせる彼を含み笑いで見ながら腰を上げる。
「とにかく。食事は取れるに越したことはない。何か条件があったら俺たちに相談して」
シャキーラが何人も体調を崩していると心配していた。
監禁と殺戮の生活五日目。体も頭もおかしくなって当然だ。
(ヴィノードは元々イヤな奴だけど)
ーーーーー
ナイナは婚約者の写真を額に押し当てて祈る。
(私の神様)
婚約者として引き合わされた五つの時から変わらず仰ぎ見てきた人。
成長してますます尊敬の思いを新たにさせてくれる人。
どうか私に正しい道を指し示してくださいー
ーーーーー
部屋は広い。四つのベッドを置いてもまだ中央が空いている。
イジャイがUP Seを歌いながら踊り回っても問題ない。
腕を振り上げ熱唱しながら自賛する。
(結構いい目くらましだよな)
ーーーーー
イジャイは飛び跳ねて歌っている。
スディープは構わずテーブル前に座り考える。
切り札の「返答」ーあれは偶然なのか。それとも誰かの手が入っているのか。
陰謀者が大きな絵を描き自分ははめ込まれた駒として有無なく動かされるだけか?
父が家族を「処理」し、仕事で発揮しているという手法のようで不愉快だ。
この陰謀を描いたのはどんな奴だ?
ーーーーー
昼間のうちは夜の恐怖について考えたくない。そう逃げたい人間も多いのだろうか。
5日目ともなれば食事やら何やら生活に流されているように見えるが、基本自分達は見せ物だ。とアッバースは広間の照明脇に見えるカメラらしき黒い半円球を見上げる。
『負けたらどうなるんだ?』
ナラヤンの問いを、この「ゲーム」と監禁の終わりをアッバースは色々と想像した。
奴らは自分たちが右往左往し、泣き叫びそして死んでいくのを面白がっている。
ならば敗者も「楽しく」処理するに違いない。
アディティは最悪殺されると予想した。同感だ、それも拷問まがいの惨殺だと考える。
(せめて女の子たちは助けないと)
チャンスがあるのはどこだ? 静かに考えをめぐらせる。
昨夜、人狼役は象役を特定した。
これから毎晩象を襲撃すれば誰も殺さなくて済むーイジャイが指摘した。
もう殺しはしないかもしれない。
それでも今夜の会議では「人狼」を「処刑」するのか?
アッバースにはいまだにクラスメート同士で殺し合っているというのが信じられない。
その夜、ノンベジ食堂のビリヤニはたいそうやわらかく炊けた。
こしのない茹ですぎパスタをルチアーノは連想したが勿論口には出さない。
何より作ったシャキーラが目に見えて消沈していた。
「ご飯美味しい! 最高♪」
米食文化圏出のマリアが顔を埋めるようにむさぼるのも複雑な目で見守る。
だがマリアの感嘆通り炊き込んだグレーヴィーはすこぶる美味で、つまり味自体はおいしい。問題は食感だけでーおいしさの要素としては大きいのだがー皆頭の中でライスに適度な芯を想像しながらマトンビリヤニを堪能した。
<注>
・カディパコラ 揚げたベジ団子(小麦粉や野菜など)の入ったクリーミーなカレー
・ビリヤニ インドの炊き込みご飯。通常、少し芯が残ってぱらっとした状態に炊く。
・ライタ ヨーグルトにスパイスで味付けしたもの
ビリヤニには野菜入りのライタがセットになることが多い
・『UP Se 』 ラクナウを州都とするウッタル・プラデーシュ州ネタのPantherのラップ曲
それでも心配で、ルチアーノは部屋でひとりになる度に荒らされていないかと覗いた。
男子棟1階のトイレで小用を済ませ手を洗う。と、
「う、うごっっ! グェええええっっ!」
個室から嘔吐の声が聞こえた。
(まさか)
反射的にドアを叩き叫ぶ。
「大丈夫かっ?!」
「うるせえ! ほっとけ!」
ヴィノードの声だ。こう罵れるのなら異常ないのだろう。
それでもロビーのソファーに座り、彼がトイレから出て普通に歩いて来るのを確認した。
「調子悪いのか」
「うるせえって言っただろ」
階段へ向かおうとする。
「俺はキッチンに入ってるから。食材が傷んでいたりしたら排除しなきゃいけないだろ?」
じろりと横目でこちらを見ると茶色いソファーの反対側の端に座った。
「そんなんじゃねえ。レトルト臭さを体が受け付けなくなってるだけだ」
この後どうしたらいいんだよと額を押さえる。
(こいつ、ここのところ俺たちの飯食ってなかったな)
昼に彼が食べていたレトルトのカディパコラはおいしそうに見えた。だがうつむくヴィノードの目尻に連続レトルトを嘆いたバーラムと同じように涙が滲んでいるのを見て認識を改める。レトルトばかりとはそこまできついのか。
「ほら、袋開けた時にむわっとする独特のアレ、あるだろ?」
「わからない。食べたことないし」
今回湯煎して皿にあける作業は何度かしたがスパイスのいい香りがするとしか思わなかった。
「施設とか寮食堂とかで出ねえの? 簡単だろ?」
「あんな高いもの出ないよ。市場で豆や野菜やスパイスがどれだけ買えると思う?」
「……」
ヴィノードの父親は機械系の会社の経営者だ。彼にはレトルトカレーが高いという感覚はないだろう。
「今夜はマトンビリヤニだ」
切り出す。
「知ってるよ」
「シャキーラが張り切って仕込んでいる。俺とアッバースは休みをもらった。アディティもこの昼からしばらく台所には入らない」
男子は今回休んでいいよ、大変でしょとシャキーラが配慮してくれた。
「マリアとニルマラがライタを作る」
ニルマラの名を口にしたところでヴィノードは顔をしかめた。
(それかよ)
自分が食べる料理を作るのにふさわしくないとの判断だ。
生き残ってノンベジ食堂で料理に手を出しているのは、彼女とアディティを除けばイスラム教徒かキリスト教徒。それも気に食わないというところか。
(あれ。だけどこいつ初めの頃は食ってたよな。文句垂れ流しながらだったけど)
そこまで味も気に食わなかったのか。作る方は毎食の苦闘で多量の調理にも慣れ、人数自体も減った。今ではそこまであからさまな失敗作はなくなったとルチアーノは思う。
「シャキーラはビリヤニ結構作っているらしい。君の食の法はわからないけど、問題なければ今夜は外食気分で食べたら?」
戻してたら栄養が取れなくなる。ここでは洒落にならないと付け加える。
考えておくとヴィノードは力なく言った。
「ルチ、ナラヤンから昨日の占いの結果聞いたか?」
「いや。どうだったって?」
「オレも聞いてねえから聞いたんだよ!」
「会議で話す、って。誰にも教えてないみたいだよ」
スティーブン、アディティ、ナイナ。今まで占った全員が村人だったが昨夜はとうとう人狼を引き当てたのではないか。不測の事態を避けるため夜の会議まで口をつぐむことにした?
空調の低い機械音、白い壁。
「お前、人狼か」
突然だった。
「違う」
すぐ否定する。何度も投票で票を集めている身には洒落にならない。
「だったらなぜオレのことを気遣う? 他の奴らは近付いても来ねえぞ」
「だろうね」
何人も殺している「人狼」のチーム、「漂泊者」だと白状したら当たり前ではないか。
「なんで昨日バラしたのさ?」
悪目立ちすることは避けるべきゲームらしいのに。
占星術師により人狼が暴露されるなら今夜の票はそちらに集まるにしても。
「ああ? だからあの時言っただろ! 生き残りたいからだって」
「なら俺も同じだよ。陣営の違う君とは利害は一致しないけど、君の生存は俺の利益になる。俺も生き残りたいからね」
村人と人狼の人数で勝負が決まるから「漂泊者」を殺したら村人は損をする、と彼本人が主張したではないか。
「人狼から連絡はあった?」
「あっても言う訳ねえだろっ!」
「そりゃそうだ」
小さく笑う。
「お前、恐くねえのか。ここにふたりっきりだぞ」
「……話を聞いてると人がケンカ、実力行使の奴」
と拳を突き出して見せ、
「取っ組み合いをやったことがあるかないかって結構わかる。君はやってるだろ」
多分ナラヤンはやっていない。
スティーブンはやっているらしいのが意外でアッバースにそれとなく聞いたところ、小さい頃は同じ家に住むいとこたちとの取っ組み合いが日常だったそうだ。
ヴィノードは二度顎で頷いた。
「バーで女の子と仲良くしていると面倒な奴に絡まれることも多くてな。男なら拳に語らせるってもんだ!」
まともなバーなら高校生を出入りさせない。本人が公言しているように酒を飲んでのナンパを年齢確認もいい加減な治安が悪い店で繰り返せば、トラブルは当然。自業自得だ。
「悪いけど場数ならこっちの方が踏んでると思うよ。チビだって侮っているのかもしれないけど、俺より小さい男なんて基本いないから大きい奴と戦う方法は知ってる」
暴力は嫌いだし多分暴力の方も自分は好きではない。だが施設の人間が外の奴に痛めつけられた時、とりわけこっちの女の子にちょっかいを出す奴らには総出でやり返した。一発やられたら三発から五発返し、向こうから十発返ってきたら三十発から五十発ぶん殴る。
そうやって施設の人間には手を出すなと他の子どもたちに思い知らせる。
最近は施設の先生方もそれを知って騒ぎになる前に納めるようになり、今のガキ共は荒っぽいことにあまり巻き込まれなくなった。いいことだ。
パワーに劣る自分の戦法は腕をねじりあげる、髪を引っ張る、ヴィノードのような穢れを気にしそうな奴には物理以外にも精神的なダメージを与える噛みつき、と痛みで戦意を喪失させることだ。ただし髪を引くのは間違えると首を痛め命に関わる。
「急所も知ってるよ。死んだら洒落にならないから避けるためだけど、ここはそういう場所じゃないからね」
ぐるりと天井を見回してみせる。
実際にケンカをしているからこそ自分の圧を感じたのだろう。ヴィノードは黙った。
「これも人狼に言い付ける?」
「だ、だから誰が人狼かもわかってないって言ってるだろっ!」
足をじたばたさせる彼を含み笑いで見ながら腰を上げる。
「とにかく。食事は取れるに越したことはない。何か条件があったら俺たちに相談して」
シャキーラが何人も体調を崩していると心配していた。
監禁と殺戮の生活五日目。体も頭もおかしくなって当然だ。
(ヴィノードは元々イヤな奴だけど)
ーーーーー
ナイナは婚約者の写真を額に押し当てて祈る。
(私の神様)
婚約者として引き合わされた五つの時から変わらず仰ぎ見てきた人。
成長してますます尊敬の思いを新たにさせてくれる人。
どうか私に正しい道を指し示してくださいー
ーーーーー
部屋は広い。四つのベッドを置いてもまだ中央が空いている。
イジャイがUP Seを歌いながら踊り回っても問題ない。
腕を振り上げ熱唱しながら自賛する。
(結構いい目くらましだよな)
ーーーーー
イジャイは飛び跳ねて歌っている。
スディープは構わずテーブル前に座り考える。
切り札の「返答」ーあれは偶然なのか。それとも誰かの手が入っているのか。
陰謀者が大きな絵を描き自分ははめ込まれた駒として有無なく動かされるだけか?
父が家族を「処理」し、仕事で発揮しているという手法のようで不愉快だ。
この陰謀を描いたのはどんな奴だ?
ーーーーー
昼間のうちは夜の恐怖について考えたくない。そう逃げたい人間も多いのだろうか。
5日目ともなれば食事やら何やら生活に流されているように見えるが、基本自分達は見せ物だ。とアッバースは広間の照明脇に見えるカメラらしき黒い半円球を見上げる。
『負けたらどうなるんだ?』
ナラヤンの問いを、この「ゲーム」と監禁の終わりをアッバースは色々と想像した。
奴らは自分たちが右往左往し、泣き叫びそして死んでいくのを面白がっている。
ならば敗者も「楽しく」処理するに違いない。
アディティは最悪殺されると予想した。同感だ、それも拷問まがいの惨殺だと考える。
(せめて女の子たちは助けないと)
チャンスがあるのはどこだ? 静かに考えをめぐらせる。
昨夜、人狼役は象役を特定した。
これから毎晩象を襲撃すれば誰も殺さなくて済むーイジャイが指摘した。
もう殺しはしないかもしれない。
それでも今夜の会議では「人狼」を「処刑」するのか?
アッバースにはいまだにクラスメート同士で殺し合っているというのが信じられない。
その夜、ノンベジ食堂のビリヤニはたいそうやわらかく炊けた。
こしのない茹ですぎパスタをルチアーノは連想したが勿論口には出さない。
何より作ったシャキーラが目に見えて消沈していた。
「ご飯美味しい! 最高♪」
米食文化圏出のマリアが顔を埋めるようにむさぼるのも複雑な目で見守る。
だがマリアの感嘆通り炊き込んだグレーヴィーはすこぶる美味で、つまり味自体はおいしい。問題は食感だけでーおいしさの要素としては大きいのだがー皆頭の中でライスに適度な芯を想像しながらマトンビリヤニを堪能した。
<注>
・カディパコラ 揚げたベジ団子(小麦粉や野菜など)の入ったクリーミーなカレー
・ビリヤニ インドの炊き込みご飯。通常、少し芯が残ってぱらっとした状態に炊く。
・ライタ ヨーグルトにスパイスで味付けしたもの
ビリヤニには野菜入りのライタがセットになることが多い
・『UP Se 』 ラクナウを州都とするウッタル・プラデーシュ州ネタのPantherのラップ曲
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