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第3章 仲間ではいられない(3日目)
3ー16 覚悟
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自分が最大得票でないのを見てから、
(誰が加わった? 11番……ナラヤンか)
テーブル一番奥、厳しい顔がちらりと見えた。
(自分で提案してルール破りかよ)
それほどまでにスティーブンが大事でだから自分が憎いのだろう。
とりあえず今日は乗り切った。しかし、
(次点での6票。昨日の会議でのヤトヴィックと同じだ)
「こうなっちまうのか」
隣でアッバースが小さく漏らした。
『本日処刑されるのは22番と決まりました』
足枷が開いていく。
『22番。何か言い残すことはありますか』
ヤトヴィックは座ったまま話し始めた。
「おれは本当に人狼じゃない。この会議はどこかおかしい。人狼に操られている。村人は気をつけてほしい。もう母さんや父さんに、妹や弟に会えないのは辛い。親孝行も出来ずにこんなことで人生が終わるなんて悔しい。それから女子」
すぐそばのナイナ、コマラからテーブルに沿って最後シャキーラまで目を動かしまたそばに戻す。
「この酷い場所で、もう君たちを守ることも出来ない。申し訳ない」
「っっ!」
コマラが椅子から飛び降りた。
「来るな!!」
叫んで拒んだ手のひらにコマラが手を伸ばす。
「!」
手と手が近づいた時、ヤトヴィックの腕が天を指すように回ると体ごと力が抜けた。
ずるりと肘掛け下を抜け空席の隣の椅子との間の狭い空間に倒れ込む。
「ヤトヴィック!」
コマラが抱き上げる。
「コマラ、危ないから」
立ちつくしたナイナが震え声で呼びかける。
自分の体にもたれかけさせて重みを支え、左腕で強く背を抱き抱えるとコマラは右手で彼の髪から頬をたどる。
「コマラだよ、目を開けて」
「コマラ。辛いけど離れよう」
シャキーラがテーブルの後ろを移動しながら声をかける。ラジューが近づくが。
「触らないで!」
きっと睨まれ動きを止める。すぐ向き直りその手は繰り返し髪をかき撫で、かき分けー
ドンドン!
隣接した二つのタイルカーペットが開いた。
彼の重みを感じながらの刹那コマラは思った。
(お母さん。私、インドの女に成れなかっー)
「ぐわっ!」
滑り落ちた二人を追うように穴回りに人が集まる。ナイナはすぐびくりと身を引き、アッバースとラジューが覗き込みルチアーノも上から見下ろした。と、
ばたばたんとカーペットが元に戻り思わず顔を背ける。
「コマラ、コマラ」
シャキーラがカーペットを叩く。
「助けてあげて! 聞いたでしょ! コマラ叫んだ! まだ生きてる!」
「無理だ」
見上げて足にすがるシャキーラにアッバースが耐える顔で諭す。
「この下にいるの! お願い!」
「床を壊したらOut of rulesよ」
言うナイナも辛そうに目を細める。
「コマラ! 聞こえる? 返事して!」
「もう駄目だ、多分」
アッバースはシャキーラの後ろにしゃがみ込む。
「下には無数のトゲっていうか刃っていうかが植えられてる。首に、腕にも刺さって血が飛び散っていた」
聞いていた女子から悲鳴が上がる。
「あれでは1分も持たない。もうコマラもヤトヴィックも苦しんではいない。それだけが幸いだ」
涙をぼろぼろと流しながら、シャキーラは先ほどコマラがヤトヴィックの亡骸にしたように優しくカーペットを撫でた。
「あいつら、付き合ってたのか?」
「うん」
目尻を指で拭う。
「男子は知らないんだ? ヤトヴィック本当に口固かったんだね。コマラはわたしにしか言ってないって。国語の課題グループで一緒になった時からでー」
「結構前だ」
ナラヤンが言いシャキーラは頷く。
「そう。コマラはヤトヴィックに夢中だった。だけどこんな、こんなのって……わたしを置いていくなんて酷いよコマラ」
床に頬ずりをしてシャキーラは抗議した。垂らした三つ編みが床を拭くように何度もカーペットを叩いた。
(誰が加わった? 11番……ナラヤンか)
テーブル一番奥、厳しい顔がちらりと見えた。
(自分で提案してルール破りかよ)
それほどまでにスティーブンが大事でだから自分が憎いのだろう。
とりあえず今日は乗り切った。しかし、
(次点での6票。昨日の会議でのヤトヴィックと同じだ)
「こうなっちまうのか」
隣でアッバースが小さく漏らした。
『本日処刑されるのは22番と決まりました』
足枷が開いていく。
『22番。何か言い残すことはありますか』
ヤトヴィックは座ったまま話し始めた。
「おれは本当に人狼じゃない。この会議はどこかおかしい。人狼に操られている。村人は気をつけてほしい。もう母さんや父さんに、妹や弟に会えないのは辛い。親孝行も出来ずにこんなことで人生が終わるなんて悔しい。それから女子」
すぐそばのナイナ、コマラからテーブルに沿って最後シャキーラまで目を動かしまたそばに戻す。
「この酷い場所で、もう君たちを守ることも出来ない。申し訳ない」
「っっ!」
コマラが椅子から飛び降りた。
「来るな!!」
叫んで拒んだ手のひらにコマラが手を伸ばす。
「!」
手と手が近づいた時、ヤトヴィックの腕が天を指すように回ると体ごと力が抜けた。
ずるりと肘掛け下を抜け空席の隣の椅子との間の狭い空間に倒れ込む。
「ヤトヴィック!」
コマラが抱き上げる。
「コマラ、危ないから」
立ちつくしたナイナが震え声で呼びかける。
自分の体にもたれかけさせて重みを支え、左腕で強く背を抱き抱えるとコマラは右手で彼の髪から頬をたどる。
「コマラだよ、目を開けて」
「コマラ。辛いけど離れよう」
シャキーラがテーブルの後ろを移動しながら声をかける。ラジューが近づくが。
「触らないで!」
きっと睨まれ動きを止める。すぐ向き直りその手は繰り返し髪をかき撫で、かき分けー
ドンドン!
隣接した二つのタイルカーペットが開いた。
彼の重みを感じながらの刹那コマラは思った。
(お母さん。私、インドの女に成れなかっー)
「ぐわっ!」
滑り落ちた二人を追うように穴回りに人が集まる。ナイナはすぐびくりと身を引き、アッバースとラジューが覗き込みルチアーノも上から見下ろした。と、
ばたばたんとカーペットが元に戻り思わず顔を背ける。
「コマラ、コマラ」
シャキーラがカーペットを叩く。
「助けてあげて! 聞いたでしょ! コマラ叫んだ! まだ生きてる!」
「無理だ」
見上げて足にすがるシャキーラにアッバースが耐える顔で諭す。
「この下にいるの! お願い!」
「床を壊したらOut of rulesよ」
言うナイナも辛そうに目を細める。
「コマラ! 聞こえる? 返事して!」
「もう駄目だ、多分」
アッバースはシャキーラの後ろにしゃがみ込む。
「下には無数のトゲっていうか刃っていうかが植えられてる。首に、腕にも刺さって血が飛び散っていた」
聞いていた女子から悲鳴が上がる。
「あれでは1分も持たない。もうコマラもヤトヴィックも苦しんではいない。それだけが幸いだ」
涙をぼろぼろと流しながら、シャキーラは先ほどコマラがヤトヴィックの亡骸にしたように優しくカーペットを撫でた。
「あいつら、付き合ってたのか?」
「うん」
目尻を指で拭う。
「男子は知らないんだ? ヤトヴィック本当に口固かったんだね。コマラはわたしにしか言ってないって。国語の課題グループで一緒になった時からでー」
「結構前だ」
ナラヤンが言いシャキーラは頷く。
「そう。コマラはヤトヴィックに夢中だった。だけどこんな、こんなのって……わたしを置いていくなんて酷いよコマラ」
床に頬ずりをしてシャキーラは抗議した。垂らした三つ編みが床を拭くように何度もカーペットを叩いた。
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