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第3章 仲間ではいられない(3日目)

3ー2 ひとり部屋

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「殺され……ってそんな! 酷過ぎる!」
 コマラが咎める。カマリは動じなかった。
「多分今夜は私が殺される。だから気付いた」
 目を伏せたスティーブンを隣からアッバースが気遣う。
「ヤトヴィックは昨日ひとり部屋だった。サントーシュとシュルティのどちらかを私が守るって会議で決めたでしょ? あなたはそこから漏れるひとりになった」
 その後の投票→処刑で同室のバドリが死んだからだ。
「さっき言ってたよね。人狼の立場になって考えるって話。二分の一で武士が守っているかもしれないサントーシュよりあなたを襲う方が楽じゃないの。何故あなたが襲われなかったの?」
「そんなの知らねえ。おれにだってわからないんだ」
 ヤトヴィックの声が震える。

「気が付かなかったってことはない?」
 マリアが口をはさむ。
「わたしカマリが教えてくれるまでヤトヴィックも昨日ひとりになってたって気付かなかった」
「あんたは人狼じゃないんでしょう。だからのんきなことが言える。人狼はもっと綿密に考える。この中の大多数が敵でバレたら処刑にあげられるんだから」
「そこをはっきりさせて皆が正しく判断するためにも今夜ヤトヴィックを占った方がいいと思う」
 コマラが言えばスティーブンも頷く。
「ヤトヴィック自身も希望しているんだ、それがいいね」
 ヒートアップしていく空気をなだめるように確認する。
「今夜殺しに来た時にはわかるんだろうけど。それじゃ意味ないし。私、のたれ死にね」
 無にするようなカマリの皮肉なセリフ。
「何で死ぬなんて言うの!」
 マリアが抗議する。
「スティーブン、配役の紙こっちにくれる?」
 ラミネートされた配役表を手元に持ってきてマリアに突き付ける。
「よく読んで。私は昨日シュルティを守り、ダウドはおそらく私を守った」
「ああ」
 ダウドが肯定する。つまり昨夜の武士の仕事は、
 カマリ→シュルティ
 ダウド→カマリ
「自分は守れない。同じ人間を連続しても守れない。私は今夜ダウドを守るつもり。だけどー」
 カマリを守れる武士はいない。スティーブンが顔を歪めた。
 会議で提案した時にはその翌日のことまで考えが及んでいなかったのだろう。

 今夜のひとり部屋はカマリを除くと、
「シュルティとヤトヴィック。ダウド、あんたまさかヤトヴィック守るとか言わないでしょうね?」
 まだわからないと首を横に振る。
「おれだって守ってほしいよ。シュルティよりとは言えないけど」
「それ人狼の余裕っぽく見える」
 ナイナにナラヤンが、
「止めろ」
 と投げつけるが、
「なら今聞いとく。ヤトヴィック、あんたサントーシュを殺したの?」
 今度はカマリだ。
「してない!」
「ハルジートは?」
「そんなことしてないっ!!」
 ヤトヴィックは叫んだ。
「一緒のクラスの人間を殺すなんて絶対に出来ない。おれは違う。ラーマに誓う」
 片手をあげる。

「なら誰が殺したか知ってる?」
 ナイナだ。
「知らない! 何を言うんだ!」
「あなたは手を下していないかもしれないけど、人狼仲間の誰かが殺したのを知っているかもしれないでしょ? どうなの?」
 人狼はひとりではない。そうだ人狼なら殺人犯だと決めつけるのは違うとスティーブンが加えるが、
「知らない! 最初から人狼じゃない。おれは村人だ! 何も知らないのは皆と同じだって言ってんだろっっ!!」
 ヤトヴィックは絶叫した。



〈注〉
・ラーマ ヴィシュヌ神の化身のひとつ
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