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「誰ですか…?」
 錦織はそんな人存在する筈がないとばかりに怪訝な表情をする。
 俺はため息一つして、俯きがちに言った。
「…壱琉だ」
「決別したのではなかったんですか?」
 現場を一緒に目撃した錦織は厳しい言葉を突きつける。
「あいつの中ではな。でも俺は壱琉とまだ関わり続けたいと思ってる。第一あいつは俺が高校生になって出来た初めての"友達"なんだ。あんな別れで納得出来るかよ」
 たった一日。たった一日だ。入学初日の振る舞いなど、たかがしれているのは分かっている。それでもだ。壱琉は俺に人生を変えるチャンスを与えてくれた。あの時、誘いを断っていたら、今頃どうなっていたかと日夜恐怖しているし、今こうして充実した…とは言い難いが学生生活を遅れているのは全部あいつのおかげなんだ。
「本当に諦めの悪い人ですね…」
 錦織は額に手をやって呆れていた。
「誰の事だ?」
「…誰でも」
 錦織は目蓋を伏せながら、柔和な笑みをたたえる。そして、何処か遠くを向いた。その表情は窺い知れない。
「大事な人を簡単に手放したくないという気持ちはよく分かります。よかったら…貴方達に何があったのか私に聞かせてくれませんか」
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