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第一幕 ハイランドとローランドの締結

王家の血筋は尊きなり11

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セシルSide

「…ぃって、また刺しちゃったよ」
 俺は刺繍針で刺した指先をぱくっと咥えた。ウィッカム伯爵夫人が帰宅後も、俺は黙々とクッションの刺繍を続けた。

 別にやんなくてもいいんだろうけど、他にやることがないから、刺繍を続けてしまう。意外と集中できるのがいい。

 外で、馬に乗って走り回りたいと思うときだってある。だか、あまり多くの人間の前に姿を現すのはどうかと思ってる。

 もし万が一、男だとバレてしまったら……そう考えるとうかうかと外にも出られない。

「ジェイミー、気になってるんだが……今日はやけに服装が乱れてるな」
 俺は刺繍する手を止めて、肩の凝りを癒しながら、部屋の隅で待機をしているジェイミーを見やった。

 ジェイミーが、ニヤッと微笑むと、首下のシャツを正した。

「ドリュとかいうヤツと少しやり合ってしまったので」
「やり合った? おいおい、俺のことがバレたのか?」

「彼は最初から気付いてます。気付いてて、知らない振りを続けているんです。まあ、きっと…カイト様に口止めをされているんだと思います」

「本当に? それにしても、俺を虐めてないか?」
「性格的に、虐めるのが好きなタイプなんですよ」

「そんなタイプ、いらねえよ。虐められるほうは、堪ったもんじゃねえ」
 ジェイミーがクスクスと笑う。

「セシル様ならきっと耐えられます」
「やめてくれ。俺は……」
 俺は俯くとぎゅっと、拳を握りしめた。

「大丈夫です。必ずイザベラ様は見つかります」
「……だと、いいんだけど。あいつ……昔から行動力があるから」

「ええ、行動は起こしていると思いますよ。ただ……カイト様にバレる前にこちらが見つけられるか、そうでないかってことでしょうね」

「だから……バレるわけにはいかねえだろ」
 ジェイミーが左右を確認してから、俺に近づいてきた。人の気配がないかどうか、確かめたのだろう。

 俺の座っているソファの一歩手前で足を止めると、声のトーンを少し下げた。

「時間の問題です。カイト様は馬鹿じゃない。むしろ頭が良く賢い人間だ。できれば敵に回したくない」

「それって……俺にどうにかしろっていう意味かよ」
 ジェイミーが首を横に振った。

「どうにかしてもらう状況にはなって欲しくないですけどね……個人的には」
 寂しげな表情で微笑むジェイミーから俺は目を逸らした。
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