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第一幕 ハイランドとローランドの締結
王家の血筋は尊きなり2
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ドリュSIDE
『いてっ』と刺繍針で自分の指を刺し、痛みで顔を歪める女を見つめていた。いや女と偽り、堂々と妻の椅子に座り続ける薄汚い男を、僕は睨みつけてやった。
汚い、汚らわしい。
そんな言葉が僕の脳裏に浮かんでは、消えて行く。
カイト様もカイト様だ。こんな女のような細い男を抱くことなんてないはず。女と偽り、結婚式をあげた……それだけでもドナルド家は、キャリック伯の名を穢したと、文句を言えるのに。いや、戦だって起こせる。
なのに、『火の粉がかからないのであれば、目を瞑っていても構わないだろ』とはどういうことだ。何が『一応、「イザベラ」はこちらに嫁いでいるんだ』だっ! 嫁いでないじゃないか。へんな細っこい男が、ドレスを着て、優雅に刺繍をして……。
頭にくる。馬鹿にされてるって気がして、苛々する。いや、実際に馬鹿にされているのだ、こちら側が……ハイランド人に。そうじゃなきゃ、いくら顔がそっくりだからって男を女と偽って送ってくるはずがない。
なぜ、カイト様は怒らない? どうしてドナルド家に、アクションを起こさないのだ。いくら……動乱の世の中であっても、家を穢すヤツは許されないはずだ。
「苛々するな」
ぼそっと僕の横で声がした。
「はあ?」と僕は横を向くと、楔かたびらの上に、マー伯の紋章の入った刺繍入りタータンを着ている大男が、少しだけ口元を緩めた。
「ジェイミーとかいう……ドナルド家の騎士か。僕に気安く声をかけるな。本来なら、声もかけられないほどの地位の差だ。同じ室内でいることじたい不愉快だ」
僕はぷいっと横を向いた。
「イザベラ様は繊細なお方だ。そうピリピリした態度をされるのであれば、部屋を退出していただきたい」
「なに? ここはハイランドではない。主張が通るのはこちら側であり、貴様のようなドナルドの犬じゃない」
なんでこいつに、命令されなくちゃいけないんだ。馬鹿馬鹿しい。
ここはカイト様の城だ。こんなヤツに……!
「そう、だろうな。しかし俺はイザベラ様をお守りするように言われているので。敵になりそうな人間は近づけたくありません」
「敵? この僕が?」
敵はお前らのほうで、僕じゃない。
「ええ。敵でしょ? イザベラ様の繊細でかつ綺麗な心を傷つけ、体調不良の根源でもあるのは貴方だ。それくらい気付いてるはず。貴方はとても頭が良さそうだ。その分、嫉妬やヤキモチも強そうだけど」
僕はじろりと横に立っている男を睨んでやった。ジェイミーと名乗る男が、僕と目があると、にやりと笑う。そのほくそ笑む表情がさらに、僕の心を苛立たせた。
『いてっ』と刺繍針で自分の指を刺し、痛みで顔を歪める女を見つめていた。いや女と偽り、堂々と妻の椅子に座り続ける薄汚い男を、僕は睨みつけてやった。
汚い、汚らわしい。
そんな言葉が僕の脳裏に浮かんでは、消えて行く。
カイト様もカイト様だ。こんな女のような細い男を抱くことなんてないはず。女と偽り、結婚式をあげた……それだけでもドナルド家は、キャリック伯の名を穢したと、文句を言えるのに。いや、戦だって起こせる。
なのに、『火の粉がかからないのであれば、目を瞑っていても構わないだろ』とはどういうことだ。何が『一応、「イザベラ」はこちらに嫁いでいるんだ』だっ! 嫁いでないじゃないか。へんな細っこい男が、ドレスを着て、優雅に刺繍をして……。
頭にくる。馬鹿にされてるって気がして、苛々する。いや、実際に馬鹿にされているのだ、こちら側が……ハイランド人に。そうじゃなきゃ、いくら顔がそっくりだからって男を女と偽って送ってくるはずがない。
なぜ、カイト様は怒らない? どうしてドナルド家に、アクションを起こさないのだ。いくら……動乱の世の中であっても、家を穢すヤツは許されないはずだ。
「苛々するな」
ぼそっと僕の横で声がした。
「はあ?」と僕は横を向くと、楔かたびらの上に、マー伯の紋章の入った刺繍入りタータンを着ている大男が、少しだけ口元を緩めた。
「ジェイミーとかいう……ドナルド家の騎士か。僕に気安く声をかけるな。本来なら、声もかけられないほどの地位の差だ。同じ室内でいることじたい不愉快だ」
僕はぷいっと横を向いた。
「イザベラ様は繊細なお方だ。そうピリピリした態度をされるのであれば、部屋を退出していただきたい」
「なに? ここはハイランドではない。主張が通るのはこちら側であり、貴様のようなドナルドの犬じゃない」
なんでこいつに、命令されなくちゃいけないんだ。馬鹿馬鹿しい。
ここはカイト様の城だ。こんなヤツに……!
「そう、だろうな。しかし俺はイザベラ様をお守りするように言われているので。敵になりそうな人間は近づけたくありません」
「敵? この僕が?」
敵はお前らのほうで、僕じゃない。
「ええ。敵でしょ? イザベラ様の繊細でかつ綺麗な心を傷つけ、体調不良の根源でもあるのは貴方だ。それくらい気付いてるはず。貴方はとても頭が良さそうだ。その分、嫉妬やヤキモチも強そうだけど」
僕はじろりと横に立っている男を睨んでやった。ジェイミーと名乗る男が、僕と目があると、にやりと笑う。そのほくそ笑む表情がさらに、僕の心を苛立たせた。
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