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第一幕 ハイランドとローランドの締結

結婚というなの契約3

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「うるさい。お前はヒステリック女か? ハイランド人がローランド貴族を毛嫌いしているのは知っている。だが婚姻は成立したはずだぞ? お前の父が、承諾したのだ。お互いの利害が一致して契約を結んだ。違うか? これは契約違反だ」
「契約違反だと? ふざけるなっ。こうやって来たくもないローランドにまで嫁ぎに来てやっただろ。文句を言うな、文句を!」

「お前が女なら文句は言わなかった。たとえイザベラでなくても、ドナルド家の血をひいた『女』なら、な」

 俺は「ははっ」と笑い声をあげると、俺の上に乗ったままのカイトⅢ世を睨みあげた。

「俺がここにいるのは一時だけだ。どうでも良いあんたのくそ高いプライドを守ってやったんだぞ。あんたと結婚したくなくて、俺の妹が寝込んでるなんて噂が流れたら、あんたが恥ずかしいだろうが。感謝されていいくらいだ。『屈辱』なんて言われたくもねえよ」
「どういう意味だ」

「妹が床に伏せている間だけ、俺があんたの嫁になってるっつうんだよ。妹が元気になって、子が産めるくらい体力も戻れば、ローランドに来るだろ。それまでのつなぎだ、俺は。イザベラとは双子だからな。あんたは俺らの力が欲しいだけだろ。イザベラとエッチがしたいだけの結婚じゃねえだろ。なら、別に少しの間くらい男が妻だろうが我慢しろ。我慢した分だけ、あんたはハイランドの権力を手中にできるんだ」

「我慢できないと言ったら?」
「ドナルド家との契約が白紙に戻るだけのこと。あんたの欲しい後ろ盾がなくなる」

「ほほぉ。それは困るな。私はハイランド貴族を配下にしたい」
「なら、俺で我慢しろ」

「致し方ない…か」
 カイルⅢ世が、納得したように頷いた。

 こっちだって…あんたの力が欲しいんだ。ブルタニア人になんかに、大きな顔をされたくないんでね。アルバ王国には、あんたの血筋が必要なんだよ。あんたの王家を辿る血統が、な。

「イザベラの体調が回復するまでの間…絶対に男だとバレるなよ、『キャリック伯夫人』」
 カイルⅢ世が意味ありげな笑みで、口元を緩めた。

「お、おう! 任せろ」
 俺は小刻みに頭を上下させると、スルスルとカイルⅢ世の下から抜け出した。

 やっと男の下から、解放された。

 ガウンの襟を正したカイルⅢ世が、ベッドから降りると「自室で休む」とだけ呟いて、俺の……というか、イザベラの寝室を出て行った。

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