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「待て。そういう店だろ、あそこは!」
「佐藤、聞き捨てならないわね、その言葉。そういう店ってどういうこと? ちょっと女を馬鹿にしてるんじゃない?」

「違います、所長。信じてください。断じて、無理やりでは……同意のもとです」
 デスクに手をついて、佐藤が叫びように声をあげた。

「ならどうして、彼女は九時半に相談にくるのかしら?」
「こいつが……女とグルになって」

「ああ、もう一度聞いてみます?」
 俺はそう言いながらスマホを取り出して、再生ボタンを押した。

『んーー! やめっ……痛い……いたっ……やだ……』
『嫌じゃないんだろ? これが好きなんだろ? 毎晩。小林のを咥え込んで離さないんだろ?』
『や……くそっ……出せ……やめ……』
『ああ、出してやるよ。お前の奥に、俺の精液をな』
『……やだっ、出すなっ……』

 流れた音声に佐藤の顔が真っ青になっていく。

「やだ……これ、小野寺君の声じゃない?」
 白々しく麗香さんが口を開き、じろっと佐藤を睨みつけた。

「ああ、これ……俺のスマホじゃないや。事務所に落ちてて……拾ったやつだ。これ……あんたのだろ?」
「な……んで。昨日、ちゃんと抽斗に」
 麗香さんの隣に行って、鍵の付いている抽斗のロックをあけて中を確認していた。

「……きさまぁ」
「そう、小野寺君を無理やり。で、女性も無理やり、ねえ」

「所長! ほんとに……違うんですっ」
 麗香の膝にしがみつくと、髪を振り乱して首を振った。

「ああ、タイムリミット、だ。女性が来た……って、一緒にエレベータに乗ってきた人って……見覚えがあるな」

 俺の言葉に所長と佐藤の目が動く。佐藤の目が飛び出さんばかりに開いた。俺はドアの横に移動すると、ズンズンと突き進出くる佐藤の奥さんのためにドアを開いた。

「こんのぉ……クズ男っ! 最低、なんなの? どんだけ外に女がいるわけ? 離婚よ、離婚!」
「ちょ……なんで?」

「奥様、感情的にならないで。お話はあちらで聞きます。所長室でゆっくりと。離婚協議、私が力になりますわ」
 麗香さんが佐藤の奥さんの肩を抱くと、優しい声をかけながらオフィスを出ていった。

 茫然と魂の抜けた表情で、床に尻をついた佐藤が「なんで」と呟き、床を叩いた。

 俺は佐藤の前に立って見下ろしてから、膝を折って、あいつの髪を思い切り引っ張ってやった。

「手を出す相手を間違えてんだよ。馬鹿か、クソ野郎。人を貶めたいなら徹底的にやれよ。中途半端にしか出来ねえんなら、俺を毎晩咥えて離さねえ奴に手を出すな。わかったか?」
「……」

「わかったのかよ? クソ野郎」
 視線を逸らす佐藤に、さらに髪を引っ張った。

「……は、い」
 微かながらに返事をしたのを聞いて、俺は立ち上がった。

「被害女性についはどうする?」
「……え? ああ……和解条件を、聞いて……ください」

「わかった。伝えておく」

 終わったな――。
 俺は佐藤のオフィスを出ると、ホッと息をついた。
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