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『これを持っていき』
『今朝の採れたてだよ』
『まだこの子はあ。薄着で外に出て。これ巻いておいき』

 今朝は朝早く目が覚めたから、城の庭を散策してきた……はずだったんだが。

 城に来て、半月も過ぎた今……すっかり俺の顔は城内にいる人たちには覚えられた。若い女性たちには睨まれる俺だが、子育てが終わった世代の婦人たちからは可愛がられている。

 あたたかいストールを首にぐるぐる巻きにされ、採れたての果物を籠で渡され、焼き立てのパンまで持たされて、俺はアレクのいる寝室に戻った。

「今日はまた……すごいな」
 すっかり目が覚めていたアレクが俺の姿を見て、ベッドに座ったまま微笑んでいた。

「俺とアレクで食べてもまだ余るくらいの量をもらっちゃった」
「いいんじゃないか? どうでフィアとミアも抓むだろ?」

 ベッドで手を伸ばしてくる。テーブルに貰ったパンと果物を置くと、俺はベッドに足をかけてアレクの手を掴んだ。

 ぐいっと腕を引っ張られて、あいつの胸に俺はすっぽりと埋まった。

「ガウンを羽織れと言ってるだろ? こんなに身体が冷えて」
「部屋があったかいから。忘れちゃうんだ」

「外は寒いんだ。風邪をひくだろ」
 俺が顔をあげると、優しく笑っているアレクのキスが落ちてきた。

 出会ってからたった半月。
 アレクの学習能力の高さに驚きを隠せない。片言だったギール語を習得して、俺と他愛ない会話までできるようになった。

 俺はと言うと、フィアジルに言葉を習うが……まったくもって上達しない。それを見たアレクは、無理に覚える必要はないと言い、勉強の時間を打ち切った。

『俺が話せるようになればいい。ウイルは無理するな』と。

 男の俺でも惚れてしまうような男気に、頭があがらない。

 本当にアレクは、どこまでも凄い奴だ。王位を争っていると聞いたが、俺はアレクに王になってもらいたい。

 でもアレクが王になるってことは、世継ぎが必要になるわけで……そうなると俺はいつまでもアレクの隣にはいれないんだよな。

「今日の午後は剣術がある。だから……」
「俺も練習したい」

「だめだ。怪我をしたらどうする? やっと肌がきれいになってきたのに。傷をつけるようなことはするな」
 俺の腕を撫でながらアレクがムッとする。

 であった頃の俺は、鞭の痕と何かの打撲のあとで無数の痣があった。身体が熱かったのはそのせいだ。

 うっすらと残っている記憶をたどれば……男娼となるために訓練を受け、上手にできない俺に仕置きとして叩かれていた、ようだ。

 アレクが毎日、湯浴びのあとに薬草で手当てをしてくれて、やっと茶色い薄い傷あとになったのだ。

「強くなっちゃいけないのか?」
「強くなくていい。強くならなきゃいけいのは俺だ。ウイルを守れるように」

「十分、守ってもらってる。俺だって……」
「駄々を捏ねるな。もっとキスをするぞ?」
 チュっとまたキスをする。今度は舌を入れてくる。

 アレクとはキス以上のことはしていない。何度もその先にいきそうな雰囲気になったこともあるし、アレクの熱が反応しているとわかるときもあったのに。

「ん……あっ……んぅ」
「ウイル、もっと」
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